薬の副作用はどこまで話すべきか?

副作用のない薬はありません。しかし、時間的な制約もあり、医師も全ての副作用について詳細に話している時間はありません。また、全ての副作用を把握もできているわけでもありません。

どこまで副作用を説明すべきか、迷うこともしばしばです。ただ、副作用が大きな問題を起こす場合は説明します。例えばリリカという怪しい(?)薬は副作用で眠気を起こすことがあり、車の運転は避けた方が良いので、それについては必ず説明するようにしています。体重が増えるとか、むくみが出るとかは、薬局の薬剤師から説明されるだろうと思い、またすぐに重大なことになるわけではないので、説明することは少ないです。

私自身は糖尿病の患者さんに、内服薬は処方しますが、インスリンの注射までは処方しません。でも、インスリンの注射は、がんのリスクを増加させます。インスリン治療は、全体的ながんのリスクが1.39倍増加し、大腸がんは1.5倍、すい臓がんは4.78倍になるという研究があります。

患者側にしてみれば、2型糖尿病のコントロールには仕方がないのでインスリン注射が処方されているはずなので、がんのリスクが上がると言われても困ってしまうでしょう。まあ、本当は糖質制限で回避可能なはずですが。

副作用とリスクを同次元で考えるかどうかも難しい話です。

スタチンは本当は必要がない薬ですが、多くの人に処方されています。しかし、糖尿病になるリスクが増加する副作用について、どれほどの患者が説明を受けているでしょうか?筋肉痛が起きることくらいは説明されるでしょうが(これさえ説明しない医師もいるかも?)、以前のコメントにもあったように、腱障害のリスクまでは説明されないでしょうし、心不全を起こすことも説明されないでしょう。

PPI(プロトンポンプ阻害薬)も様々ながんのリスクの増加を起こすかもしれないのに、全く説明されないでしょうし、腎機能障害や認知症、めまいや難聴のリスクも説明はないでしょう。まして、死亡率が増加するなんて説明されるはずもありません。本当は短期的にしかPPIを使わないはずなのに、漫然と処方されている理由も説明はないでしょう。

もし副作用の話を聞けば、飲むのを拒否する人も出てくるでしょう。でもその拒否する気持ちになるほどの副作用が一番重要な話でもあるかもしれません。

最近はそれぞれの科が自分の領域の疾患に対して、好きなように薬を処方してしまうので、本当にポリファーマシー(多剤併用)が当たり前になっています。できる限り薬は減らしてくださいね、と話はしますが、他の科で出ている薬を止めることはなかなかできません。あまりに副作用を軽視している患者には、怖い副作用があることを伝えることもありますが。

私の専門のペインクリニックでは、すでに長い期間痛みに対する複数の薬が処方されていることが珍しくありません。慢性疼痛の場合、特に漫然と飲み続けています。私は比較的頻繁に薬の効果の有無を確認しますが、恐らく依存になっている人が多いと思います。

依存性がないと言われていても、信用していません。痛みを緩和する薬のほとんどには依存性があると思っています。弱い麻薬のトラマドールは依存性がほとんどないと言われていますが、推奨用量範囲内での治療に関連してトラマドール依存症が発生することがあります。(ここ参照)いくつもの国で麻薬のように規制されていますが、日本では普通に処方できます。リリカ(プレガバリン)も依存や乱用の報告がいくつもあり、トラマドールと同様にいきなり中止しようとすると、離脱症状が起きる可能性もあります。

アセトアミノフェン(カロナール)は感情を抑制し、社会的苦痛を軽減すると言われています。(ここと「アセトアミノフェンは感覚、感情を低下させるかもしれない」参照)それが依存性を招く可能性が十分にあるでしょう。

またある記事(記事はここ)によると、鎮痛薬に依存している患者たちは、ブロモバレニル尿素という依存性のある成分を含むナロンエースを除けば、最も多いのがイブプロフェンを主成分とした鎮痛薬、次いでロキソプロフェン(ロキソニン)(OTCのみならず処方薬も)、つまり一般的に使われるNSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)だったのです。

私は鎮痛作用のある薬を処方するときに、短期的に使う分には、依存性の副作用は説明しませんが、長期的になりそうな場合や以前から長年他の医師から処方されている場合には、依存の話をします。

眠剤の処方を求める患者には、必ず依存について話します。

いったい、どこまで副作用の説明をすべきか?もちろん重大な副作用、必要だと思うことは説明しています。

ネットで調べれば様々な情報が得られる時代です。どこまでみなさんは説明を聞きたいですか?これまでに何か副作用について体験談はありませんか?

よろしければ下のアンケートにお答えください。

「Systematic review and meta-analysis of insulin therapy and risk of cancer」

「インスリン療法とがんリスクに関する系統的レビューとメタ分析」(原文はここ

6 thoughts on “薬の副作用はどこまで話すべきか?

  1. 治療中沢山の薬使いましたが主治医から説明があったのはステロイドのみでした。副作用の説明すると飲みたくないって言われるのが面倒とかもあるのかなと思いました。ARBとSGLT2を拒否し続けてる面倒な患者なので…苦笑

    1. IgA腎症患者さん、コメントありがとうございます。

      意外と副作用の説明はされていないようですね。
      ARBで腎臓がゾンビになると聞いたら誰も飲まないでしょうからね。
      やばい説明は省かざるを得ないでしょう。
      何か起きても因果関係は証明できないので、逃げれますし。

  2. 高齢者に山程の薬が処方され
    がちですが、
    「標準治療って?」「エビデンスって?」
    「医療費の無駄では?」
    などモヤモヤします。

    そもそも高齢者が、大量の薬を
    指示通り服薬出来ると思っていらっしやるのか?
    後は野となれ山となれ、なのか?

    これらの対応は多忙な医師の仕事
    というより、他の職種や家族の
    役割かもしれませんが。

    1. 鈴木武彦さん、コメントありがとうございます。

      10種類以上の薬を飲んでいる人も珍しくありません。
      相互作用なんて、全く無視の状態です。
      本当に薬で良くなっているんだか、と思ってしまいます。

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