筋トレにはげむ人は非常に増加しているでしょう。健康のために行う分には非常に良いと思います。しかし、ゴリゴリのマッチョを目指しすぎて、不自然なほどの筋肉を付けるボディビルを行おうとするのであれば、注意が必要です。過度な筋肉増強に伴うリスクが以前より懸念されています。
今回の研究では、長い追跡期間にわたって大規模な男性ボディビルダー選手における突然死、心臓突然死の全体的な死亡リスクと発生率を分析しています。
2005年から2020年の間に少なくとも1つの公式の国際フィットネス・ボディビルディング連盟(IFBB)の大会に参加したアスリート20,286人を対象としています。平均追跡期間は8.1年で、この期間中に121人の死亡が確認され、平均年齢は45.3歳(範囲22~77歳)でした。死亡した選手の出身地は北米(40.5%、主に米国)が最も多く、次いでヨーロッパ(38.8%)、アジア(7.4%)、アフリカ(6.6%)、南米(5.0%)、オセアニア(1.7%)でした。(図は原文より、表は原文より改変)
上の図は死因です。特定されたすべての死亡者(n = 121)を死因別に分類しました。外側のリングは各グループ、内側のリングはそれぞれ各サブ分類の死因を表しています。COVID-19:新型コロナウイルス感染症、MOF:多臓器不全、NTSD:非外傷性突然死、SCD:心臓性突然死、SD:突然死、TSD:外傷性突然死
死亡者の78.5%で特定の死因が記録されており、そのうち22件は非突然死、73 件は突然死であり、そのうち18件は外傷性突然死、55件は非外傷性突然死で、後者には46件の心臓突然死(全死亡数の38%)が含まれ、平均年齢42.2歳でした。
心臓突然死以外の原因の中で最も頻繁に報告されたのは、交通事故(9.1%)や殺人/自殺(3.3%)などの外傷性イベントであり、非外傷性の原因は癌(6.6%)、COVID-19合併症(5.8%)、腎不全/多臓器不全(4.1%)でした。
剖検報告書が入手できたプロアスリートはわずか5人で、そのうち4人は左室肥大と心肥大を呈し、2人は冠動脈疾患も併発し、1人は非虚血性左室瘢痕を呈していました。5つ目の不完全な剖検報告書では、死因は冠動脈疾患のみとされていました。入手できた5つの毒物学的分析のうち3つで、アナボリックアンドロゲンステロイド(AAS)の摂取が判明しました。さらに少なくとも16人のアスリートが、パフォーマンス向上薬(PED)乱用の直接的な証言または個人歴を報告していました。
年齢区分 | 競争レベル | ||||||
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すべてのアスリート | 合計 | ジュニア | オープン | マスター | プロフェッショナル | アマチュア | 発生率比 |
死亡者(数 (%) | 121(100%) | 2 (2%) | 74(61%) | 45(37%) | 41(34%) | 80(66%) | |
死亡発生率(95% CI) | 63.61 (52.78 -76.01) | 14.34 (1.74–51.82) | 52.33 (41.09–65.69) | 129.14 (94.2–172.8) | 317.56 (227.89–430.8) | 45.12 (35.78–56.16) | 7.04 (4.71–10.38) |
突然死の発生率(95% CI) | 38.38 (30.08–48.26 | 14.34 (1.74–51.82) | 36.06 (26.85–47.42) | 57.4 (35.06–88.64) | 240.11 (163.14–340.81) | 23.69 (17.07–32.02) | 10.14 (6.16–16.51) |
心臓突然死の発生率(95% CI) | 24.18 (17.71–32.26) | / | 24.75 (17.24–34.42) | 31.57 (15.76–56.48) | 193.63 (125.31–285.84) | 11.84 (7.33–18.11) | 16.35 (8.78–30.71) |
上の表は死亡の発生率で、アスリート10万人あたりの年間発生件数として示されています。ジュニア(24 歳未満)、マスター(40 歳以上)、オープン(年齢制限なし)です。
死亡の発生率は10万人あたり63.61、突然死の発生率は38.38、心臓突然死の発生率は24.18でした。
マスターアスリートでは平均年齢55.1歳で45人が死亡し、そのうち11人が心臓突然死に分類されました。
上の図は、プロおよびアマチュアアスリートの死亡までの時間を示しています。追跡調査期間中、プロアスリート1,454人中41人(2.8%)が死亡したのに対し、アマチュアアスリート18,832名中80人(0.4%)が死亡し、プロの死亡リスクは5.23倍でした。
プロの25人が心臓突然死で死亡し、発生率は10万人あたり193.63と非常に高く、アマチュアの14倍以上でした。
最高ランクの国際ボディビル大会であるミスターオリンピアの「オープン」カテゴリーに参加したボディビルダーにのみ分析を限定すると、研究期間中に記録された死亡は100人のアスリートのうち7人で、その中には推定または確認された心臓突然死が5人含まれ、平均年齢は36.0歳、10万人あたりの平均発生率は386.10という異常な数でした。
現役アスリートだけに限ってみると、公式大会への最後の出場から1年以内に27人の選手が死亡し、11人は心臓突然死であり、平均年齢34.7歳という若さでした。1人は競技中にステージ上で倒れ、2人はトレーニング中に心臓突然死し、4人は公式大会直後に(1人は数時間後、残りの3人は1週間以内に)心臓突然死しました。
現在アスリートにおける死亡および心臓突然死の発生率は、それぞれ10万人あたり80.58、32.83でした。現在のプロアスリートの心臓突然死発生率は、10万人あたり130.04人で、アマチュアの約6倍です。
スポーツは得てして、やりすぎると不健康です。楽しみや健康のために行う運動は非常に有益ですが、勝利や成果を追求しすぎると、有害になりがちでしょう。
ボディビルダーの剖検を特に分析した研究では、平均心臓重量が正常基準値より73.7%重く、左室心筋の厚さは予測より125% 厚いことが示されているそうです。(ここ参照)
重度の求心性肥大は健康なアスリートではめったに見られず、ステロイドなどの同化作用のある薬物乱用の影響を示唆しており、心室機能不全と心臓突然死のリスク増加と一致しています。
以前の記事「筋肉の増強にステロイドを使うと心臓に極めて大きなリスクがある」で書いたように、ステロイドで筋肉を増強することは、心臓に極めて大きなリスクがあります。
ステロイドなどのパフォーマンス向上薬(PED)乱用だけでなく、過度な筋力トレーニング、異常なまでのタンパク質摂取とプロテインへの崇拝、大会前の厳しい食事制限や脱水症状を含む急激な減量は健康であるはずがありません。ボディビルは生物学的に無理があるのでしょう。人類だけでなく、動物は筋トレをするように進化しておらず、不自然なほどの肥大した筋肉は有害である可能性が高いでしょう。
死亡例の約15%は、交通事故、自殺、殺人、過剰摂取などを含む「突然の外傷死」に分類されています。メンタルヘルスにも大きな影響がある可能性が高いでしょう。
以前の記事「高タンパク質摂取による有害性は? その3 アスリート」で書いたように、筋トレは持久系の運動よりも大きくmTORを増加させます。細胞の成長にはこのmTORは重要ですが、大人になってからの成長は老化やがん化につながっていきます。がんの増殖にもmTORは重要です。プロテインの高摂取自体もmTORを活性化させますし、糖質が入ったプロテインであればなおさらです。
ちなみに、私が行っているマラソンも心臓に負担がかかると思いますが、最近の研究(ここ参照)では、マラソンおよびハーフマラソン中の心停止の発生率は、2000~2009年と比較して2010年以降比較的安定していて、長距離走レース中の心停止による死亡リスクは、2000~2009年と比較して約50%減少しているそうです。アマチュアのランナーですが。
心停止の発生率は10万人あたり0.54人、心臓死の発生率は10万人あたり0.20人でした。ただ心停止は、女性10万人あたり0.19人、男性では10万人あたり1.12人、ハーフマラソンで10万人あたり0.47人、フルマラソンでは10万人あたり1.04人でした。
心停止の明確な原因が特定できたランナーでは、肥大型心筋症ではなく冠動脈疾患が最も一般的な病因でした。
どんなスポーツも楽しみの範囲の方が健康的でしょうけど、ドパミンが出てしまうのでしょう。健康は二の次で、どんどん次や上を目指していきたくなってしまうのです。人間は奇妙な動物です。
今年も私は不健康なウルトラマラソンを走る予定です。
「Mortality in male bodybuilding athletes」
「男性ボディビル選手の死亡率」(原文はここ)
筋力維持は大事ですが、形や大きさにまで拘るボディービルは逆に不健康なのでしょうね。
鈴木 武彦さん、コメントありがとうございます。
使うための筋肉ではありませんからね