「その1」では、高血圧の薬アンジオテンシン受容体拮抗薬(ARB)の心臓に対する効果は全く無いに等しく、逆に心血管死が増加する可能性すらあることを書きました。今回は、腎臓への効果やその他の有害作用についてです。
腎臓への効果の研究を見てみましょう。(ここ参照、図もここより、表はここより改変)正常血圧で正常アルブミン尿を有する1型糖尿病患者285人が対象です。患者はロサルタン(ARB、商品名ニューロタン)(100mg/日)、エナラプリル(アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬、商品名レニベース)(20mg/日)、またはプラセボを投与される群に無作為に分けられ、5年間追跡されました。腎症の進行を評価するために、腎生検標本における糸球体容積に占めるメサンギウムの割合の変化を調べています。
その結果、下の表のように、5年間の糸球体メサンギウム分画容積の変化は、プラセボ群とエナラプリル群またはロサルタン群との間に有意差は認められず、生検で評価されたその他の腎構造変数についても有意な治療効果は認められませんでした。
a. プラセボと比較したエナラプリルとロサルタンのメサンギウム分画容積変化に対する効果(ベースラインから5年後の生検まで) | |||
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プラセボ(N=85) | エナラプリル(N=86) | ロサルタン(N=85) | |
ベースライン時の平均メサンギウム分画容積 | 0.187 | 0.201 | 0.189 |
メサンギウム分画容積のベースラインからの平均変化 | 0.016 | 0.005 | 0.026 |
プラセボとの変化の差 | |||
平均差 | 0 | −0.011 | 0.010 |
調整済みプラセボとの変化の差 | |||
平均差 | 0 | −0.006 | 0.008 |
b. プラセボと比較したエナラプリルとロサルタンのアルブミン排泄率と糸球体濾過率に対する5年間の追跡調査中および5年目の生検時の影響 | |||
プラセボ(N=85) | エナラプリル(N=86) | ロサルタン(N=85) | |
アルブミン排泄率(μg/分) | |||
ベースラインの平均 | 6.4±6 | 6.3±5 | 6.5±7 |
平均5年以上の追跡調査 | 6.5±6 | 7.7±16 | 10.6±18 |
プラセボとの 平均差 | 0 | 1.3 | 4.0 |
5年ごとの生検訪問時の平均 | 5.3±4 | 6.9±8 | 14.0±36 |
プラセボとの 平均差 | 0 | 1.0 | 8.0 |
糸球体濾過率(ml/分/1.73m 2) | |||
ベースラインの平均 | 126±22 | 129±20 | 131±18 |
平均5年以上の追跡調査 | 125±18 | 124±18 | 125±17 |
プラセボとの 平均差 | 0 | −2.6 | −2.4 |
5年ごとの生検訪問時の平均 | 120±22 | 123±20 | 121±21 |
プラセボとの 平均差 | 0 | 0.4 | 1.5 |
上の表のbに示すように、アルブミン排泄率はロサルタン群でのみベースラインから有意に増加しました。プラセボと比較して、5年平均アルブミン排泄率はロサルタンで4.0μg/分高くなりました。5年時点でのアルブミン排泄率は、ロサルタン群ではプラセボ群より8.0μg/分高くなりました。
糸球体濾過率は3群とも同様に6.6~8.9 ml/分減少しましたが、一番低下したのはロサルタン群でした。
上の図に示すように、微量アルブミン尿の5年間累積発生率はプラセボ群で6%で、ロサルタン群では17%で発生率がより高くなりました。
ARBであるロサルタンには、腎保護効果なんて全くないようにしか見えません。
他の研究も見てみましょう。(ここ参照、図もここより)末梢臓器障害を伴うがマクロアルブミン尿や心不全がなく、アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害剤に耐えられない既知の心血管疾患または糖尿病の5,927人が対象です。ARBのテルミサルタン(商品名ミカルディス)80 mg/日、またはそれにマッチングしたプラセボと標準治療を併用した群に分け、平均56か月間行いました。透析または血清クレアチニンの倍増、推定糸球体濾過率 (GFR) の変化、およびアルブミン尿の変化による複合的な腎臓アウトカムを調べています。
上の図は透析または血清クレアチニン値の2倍増加の複合アウトカムの発生率を示しています。有意ではありませんが、テルミサルタン群の方がプラセボ群よりも発生率が高いように見えます。実際に、血清クレアチニン値の2倍増加だけを見ると、テルミサルタンで1.59倍有意に発生率が増加していました。
アルブミン尿に関しては、テルミサルタン群では、プラセボ投与群と比較して新規アルブミン尿の増加が少なく、試験期間中の新規微量アルブミン尿、顕性アルブミン尿、またはその両方のリスクは、テルミサルタン投与群の方が0.77倍でした。ベースラインで微量アルブミン尿であった患者のうち顕性アルブミン尿に進行したのも、テルミサルタン群でリスクが0.58 倍でした。透析、血清クレアチニン値の倍増、および新たな微量アルブミン尿、顕性アルブミン尿、またはその両方の複合アウトカムは、テルミサルタン群で倍でした。
しかし、追跡調査中、テルミサルタンではプラセボよりも推定糸球体ろ過率(eGFR)の低下が大きく見られ、テルミサルタン群で-3.2 mL/分の低下、プラセボ群で-0.26 mL/分の低下でした。eGFRの低下は主に試験の最初の6週間に観察されました。ベースラインのeGFRが30 mL/分/1.73 m2であった人で、eGFRが30未満になったのは、プラセボ群で1.52%、テルミサルタン群で2.55%と、テルミサルタンではリスクが1.71倍でした。ベースラインのeGFRが60以上であった人では、プラセボ群26.1%、テルミサルタン群34.6%でeGFRが60 未満に達し、テルミサルタンでリスクが1.40倍でした。
これまた、ARBが腎保護効果があるとは思えませんね。以前の記事「一部の高血圧の薬は腎臓を病的な状態に変化させる その2」も参照してください。
さらに「一部の高血圧の薬は腎臓を病的な状態に変化させる その1」で書いたように、ARBは最も重要な血液ろ過機能を低下させて、レニンをどんどん分泌し続ける、レニン産⽣のみに専念する、まるでゾンビのような不適応な臓器に変貌してしまう可能性があります。
その他の有害作用については、「一部の高血圧の薬と自殺」で書いたように、ACEIと比較して、ARB曝露は自殺リスクは1.63倍になっていました。自傷行為の履歴のある人を除外しても自殺の可能性は1.60倍でした。様々な血圧の薬の中で、有意に自殺の可能性が高くなったのは現在使用のARBだけで、3.52倍になっていました。
「降圧薬のアンジオテンシン受容体拮抗薬(ARB)によるがんのリスク増加」で書いたように、ARBの平均累積曝露が3年を超えるとがんの発症リスクは1.11倍でした。肺がんとの関連では、ARBへの平均累積曝露が2.5年を超える場合、肺がん発症リスクは1.21倍でした。
こんな薬なのに、なぜ多くの医師が第一選択でARBを処方し、降圧薬のトップ10の5つがARBなのでしょう。お金の力は凄いですね。
「The role of angiotensin receptor blockers in CVD risk management」
「CVDリスク管理におけるアンジオテンシン受容体拮抗薬の役割」(原文はここ)
「健康の為なら死んでも良い」
同様に
「血圧さえ下がれば何でも良い?」
尿蛋白の一時的な減少を持て囃されてARBがゴリ押しになっているのでしょうか。尿蛋白も高血糖と同じように薬によって下げれば万事解決というものでもなさそうですね。
IgA腎症患者さん、コメントありがとうございます。
薬は検査の数字合わせをするためのものです。根本治療にはなりませんからね。