アンジオテンシン受容体拮抗薬(ARB)は高血圧の薬であり、血圧を下げるだけでなく、腎臓や心臓を保護する効果があると言われています。でも本当に効果があるのでしょうか?
ARBは第一選択薬の一つです。この薬の心血管イベントに対する効果はどうなんでしょう?
LIFE試験という研究では、高齢患者の心血管保護を促進する効果のないベータ遮断薬であるアテノロールとARBのロサルタン(商品名ニューロタン)を比較しました。(ここ参照)9193人を対象に、ロサルタンまたはアテノロールをベースとした1日1回降圧薬を少なくとも4年間投与され、そのうち1040人が主要な心血管イベント(死亡、心筋梗塞、または脳卒中)を発症するまで投与されました。
その結果、主要複合エンドポイントは、アテノロール群と比較して、ロサルタン群のリスクは0.87倍と有意に低下しました。心血管疾患による死亡は、アテノロール群と比較して有意差なし。致死性または非致死性の脳卒中は0.75倍とリスク低下しましたが、心筋梗塞(非致死性および致死性)は有意差なしでした。
ちょっとは、アテノロールよりましな心血管疾患に対する効果ですね。
VALUE試験という研究を見てみましょう。ここではバルサルタン(商品名ディオバン)というARBとアムロジピンというカルシウム拮抗薬との比較です。(ここ参照)主要複合エンドポイントは、バルサルタン群とアムロジピン群で有意差はありませんでした。
では、いくらなんでもプラセボと比較したら、かなり違いが出るのはずですよね?
ある研究(ここ参照、図もここより)では、2型糖尿病患者4,447人をオルメサルタン(商品名オルメテック)(40mgを1日1回)またはプラセボに割り付け、中央値3.2年間投与しました。その結果、微量アルブミン尿に関しては、オルメサルタン群の8.2%、プラセボ群の9.8%で発現し、微量アルブミン尿発現までの時間は、オルメサルタン投与群で23%延長しました。微量アルブミン尿発現のリスクは0.77倍に低下したことになります。
血清クレアチニン値は各群の1%の患者で倍増し、致死的ではない心血管イベントを起こした患者は有意差なしでした。
しかし、致死的な心血管イベントを起こした患者は、下の図のようにオルメサルタン群のほうが多く、15人 (0.7%) に対し、プラセボでは3人 (0.1%) でした。なんと4.94倍もリスクが増加してしまったのです。この差は、冠動脈疾患の既往歴がある患者における心血管疾患による死亡率がオルメサルタン群の方がプラセボ群より高かったのです。 (564人中11人 [2.0%] vs. 540人中1人 [0.2%])
心血管疾患の予防に有効、心臓を保護するなんてとても言えないレベルですよね?というよりもプラセボより心血管死が多いのですから、有害ですよね?
もう一つオルメサルタンとプラセボの研究を見ていましょう。(ここ参照)すでに腎障害を有する2型糖尿病で高血圧の治療を受けている患者577人が対象です。ベースラインの高血圧治療の73.5%はアンジオテンシン変換酵素阻害剤 (ACEI) でした。その患者に3.2年間にわたり、オルメサルタン(10~40 mg)1日1回投与またはプラセボが投与されました。主要複合アウトカムはクレアチニンの倍加、ESRD(クレアチニン >5 mg/dl)、慢性透析、移植、および全死亡の初回イベント発生までの時間としました。
結果、オルメサルタン群における主要腎複合アウトカムのリスクは0.97倍とプラセボと有意差なしでした。クレアチニンの倍加も末期腎不全も有意差なしでした。
心血管二次アウトカムについては下の図のように、複合したものでは、有意にプラセボの方が発症リスクが多くなり、オルメサルタン群はプラセボと比較して0.64倍でした。
しかし、心血管死はオルメサルタン群10人 (3.5%) 、プラセボ3人 (1.1%)と有意差はありませんでしたが、オルメサルタン群で3倍も心血管死が多いのです。
その他、高カリウム血症による中止率は、オルメサルタン群の方がプラセボ群より高く、26人(9.2%)対15人(5.3%)で、ACEI投与群ではそれぞれ11.7%対7.2%、ACEI非投与群ではそれぞれ2.6%対0%でした。
この研究でも、ARBは心臓血管死を増加させてしまいました。
もう一つ、(ここ参照、図もここより)心血管疾患または心血管リスク因子の既往歴を有する9306人の患者を、生活習慣の改善に加え、バルサルタン(商品名ディオバン)(1日最大160 mg)またはプラセボを投与する群に割り付けました。中央値5.0年にわたり追跡調査しました。しかし、心血管イベントの発生率は下の図のようにプラセボと比較して減少しませんでした。
メタアナリシスを見てみましょう。(ここ参照、図もここより)37件のランダム化臨床試験には147,020人が参加し、合計485,166患者年にわたる追跡調査が行われました。他の薬との比較はおいておいて、プラセボとの比較だけを見てみましょう。
上の図は心筋梗塞に関するものです。ARBはプラセボと比較して心筋梗塞リスクが0.93倍と有意差が認められませんでした。
上の図は心血管疾患による死亡です。ARBはプラセボと比較して心血管死リスクが0.97倍と有意差が認められませんでした。
上の図は狭心症です。ARBはプラセボと比較して狭心症リスクが0.97倍と有意差が認められませんでした。
もう惨敗ですね。でも少しだけリスク低下を示したものもあります。
上の図は脳卒中です。ARBはプラセボと比較して脳卒中リスクが0.91倍と有意にリスク低下が認められました。でも、NNT(治療必要数)で考えればNNT=201なので、ほとんどの人はこの恩恵を受けることはありません。
上の図は心不全です。ARBはプラセボと比較して心不全リスクが0.85倍と有意にリスク低下が認められました。でも、NNT(治療必要数)で考えればNNT=324なので、これもほとんどの人はこの恩恵を受けることはありません。
新規糖尿病発症発症に関してはARBはプラセボと比較して0.9倍、NNT=82なので、少しだけ有益なのかもしれませんが、しれています。
研究のほとんどは、製薬会社がスポンサーであることを考えれば、このARBの心臓に対する効果は全く無いに等しいでしょう。プラセボにさえ勝てないのですから。逆に心血管死が増加する可能性すらあるのです。
こんな薬が第一選択薬で良いのでしょうか?よほど、専門家たちにお金が回り、この薬があたかも非常に効果的な薬であるかのようにされたのでしょう。ガイドラインまで載ってしまえば、自動的、盲目的に一般の医師は処方してしまいます。
このARB、腎臓への効果やその他の有害作用はどうなのでしょうか?それは次回以降で。