今回の研究は、リアルワールドにおいて食事や運動行動の変更を通じて2型糖尿病の寛解(血糖降下薬を3か月以上使用せずに糖尿病レベル以下の血糖値(HbA1c値が6.5%未満)を維持)を達成した個人の特性と生活習慣要因を明らかにすること、そして、これらの個人の持続血糖モニタリング(CGM)を調査し、食事パターンが血糖調節指標にどのように影響するかを調査することです。CGMはフリースタイルリブレProを使用していますが、参加者には値がわからない状態です。参加者は、過去に2型糖尿病と診断され、生活習慣介入により糖尿病が寛解していることが条件でした。
寛解を達成した2型糖尿病患者計21人(女性14人)が対象です。参加者の平均年齢は57歳、2型糖尿病の診断を受けてから平均4年(範囲:6か月~13年)、BMIは29.6 、A1cは5.7%でした。週間余暇活動スコアの中央値では、参加者の大多数 (76%) が活動的でした。(図は原文より)
上の図Aは健康関連の生活の質を評価するEQ-5D-5Lについてです。移動の程度、身の回りの管理、ふだんの活動、痛み/不快感、不安/ふさぎ込みに関する5つの質問について、それぞれ5段階の回答があります。レベル1:問題がない、レベル2:わずかに問題がある、レベル3:中程度の問題がある、レベル4:深刻な問題がある、レベル5:できない/極度の問題がある、となっています。平均は痛み/不快感だけが2でしたが、その他は1でした。図のBに示すように、自己評価による健康状態(0~100点)の中央値は80でした。
参加者の食生活を見てみましょう。
合計7人の参加者 (33%) が低炭水化物ダイエット、4人 (19%) が超低炭水化物ダイエット、3人 (14%) が肉食/ケトン食と表現される超低炭水化物ダイエット、4 人 (19%) が特定の食事パターン をしていない(「健康的な食事」など)と回答し、2人 (10%) が食事代替品を使用した低カロリーダイエット、1人 (5%) が Weight Watcher のダイエットを実践していると回答しました。
参加者は平均して1日に3.0回食事をし、ほとんどの参加者 (81%) が夕食後 (午後6時) に食事をしていないと回答しました。大部分 (20人、95%) は、自分のために料理をしており、単独 (17人、81%) またはパートナー (3人、14%) と一緒に料理をしていました。
上の図は3日間の食事記録による(つまり自己申告の食事アンケート)主要栄養素の平均的な割合などです。様々な食事があるので平均する意味は良くわかりませんが、見てみると、炭水化物が31%、タンパク質が22%、脂質が47%でした。比較的糖質(炭水化物)の割合が通常の食事よりは低くなっています。まあ当然ですが。
肉食/ケトン食を実践していると回答した参加者(3人)は、平均して1日あたり1363kcalを摂取し、そのうち11.5%が炭水化物、30.0%がタンパク質、58.5%が脂質でした。低炭水化物ダイエットをしている人(7人)は、1日平均1682kcalを摂取しており、そのうち31.5%のエネルギーが炭水化物から、20.3%がタンパク質から、48.2%が脂質から摂取されていました。一方、非常に低炭水化物ダイエットをしている人(2人)は、1日平均2308 kcalを摂取しており、そのうち26.1%が炭水化物から、23.6%がタンパク質から、50.3 %が脂質から摂取されていました。食事代替食を摂取した2人は、総カロリー摂取量が異なっていました(それぞれ1日あたり720kcal vs. 2128kcal、炭水化物22.5% vs. 39.3%、タンパク質17.5% vs. 34.7%、脂質42.8% vs. 43.2%)。最後に、食事パターンを特定しなかった参加者(すなわち、健康的な食事、4人)は、1日あたり1608kcalを摂取し、そのうち47.5%が炭水化物、16.0%がタンパク質、36.5%が脂質でした。まあ、どれも過少申告でしょうから、エネルギー摂取量に関してはあてになりませんし、栄養素の割合も参考程度でしょう。
24時間平均血糖値は5.0mmol/L(日本の単位で90mg/dL) で、正常範囲内で過ごした時間は 90% 以上でした。CGMは18人の参加者のうち17人に低血糖イベントを検出し、参加者 1人あたり中央値 7件でした。CGMにより6人の参加者で長時間の低血糖(120 分以上)が検出されました。まあ、CGMの性質上、ちょっと大げさな値が出てしまいますし、ケトン体が出ていれば低血糖でも問題ありません。CGMにより高血糖イベントが検出された参加者は6人のみで、参加者1人あたり中央値0件、長時間の高血糖は検出されませんでした。
しかし、実際のCGMの推移をみると、食事により大きな違いがあることがわかります。下の図はCGMの血糖値(グルコース値)の推移です。
上から、肉食/ケトン食、低炭水化物ダイエット、食事代替食、食事パターンを特定しない「健康的」な食事です。低炭水化物ダイエットの右側のグラフは、非常に低炭水化物食を摂取していると自己申告した参加者を表していますが、3日間の食事では、炭水化物からのエネルギー摂取量が約33%であることが示されています。逆に、左側のグラフは、低炭水化物食を摂取していると自己申告した参加者を表しており、炭水化物からのエネルギー摂取量が約15% であることが示されています。なんか%が反対のような気がしますが。
いずれにしても、CGMの結果だけを見れば、肉食/ケトン食、低炭水化物ダイエットの血糖値の推移が本当に安定していることがわかります。血糖値スパイクなんて全く起きていません。血糖値から見れば、どちらも素晴らしい食事です。
しかし、次の食事代替食を見てみると、一人(左側)はものすごい血糖値の乱高下が起きています。右側の人は多少スパイクが小さいですが、それでも低炭水化物とは全く違う推移です。食事代替食でもHbA1cで見れば寛解は得られるかもしれませんが、食後の高血糖、血糖値スパイクが大きいので、いずれ様々な問題が起きてくるでしょうし、糖尿病の寛解が維持できない可能性は高いでしょう。
さらに酷いのは、一番下の健康的な食事と称する食事です。ものすごい血糖値の乱高下です。左側の人では血糖値が180mg/dLを超えているときもあります。本当にこれで寛解なのでしょうか?
14日間のCGM平均血糖値は、非常に低炭水化物の肉食/ケトン食を摂取した参加者は3.8 mmol/L(68.4mg/dL)、低炭水化物食および非常に低炭水化物食5.0mmol/L(90mg/dL)、、食事代替食5.2mmol/L(93.6mg/dL)、、特定の食事な(健康的な食事)6.6mmol/L(118.8mg/dL)でした。
上の図のように、炭水化物の割合(縦軸)は、HbA1c、24時間CGM血糖値、および血糖変動と相関しています。しかし総カロリー摂取量はそのどのパラメータとも相関していませんでした。当たり前ですね。
参加者の半数が主に食事療法で寛解を達成したのに対し、残りの半数は食事療法と運動の組み合わせで寛解を達成したとしています。運動も重要ですが、やはりメインは食事でしょう。
明らかに糖尿病には糖質制限が有効であることがわかります。一時的に寛解しても、食事代替食や「健康的な」食事ではいずれ戻ってしまうでしょう。
糖尿病は糖質過剰症候群の代表です。原因は糖質過剰摂取です。
「Characterization of Individuals Achieving Type 2 Diabetes Remission in Real-World Settings: Bridging Clinical Evidence and Patient Experiences」
「現実世界で2型糖尿病の寛解を達成した個人の特徴: 臨床的証拠と患者の経験の橋渡し」(原文はここ)