前回の記事「その2」で、タンパク質摂取とmTORの活性化について書きました。その最後の方で最近若いアスリートにがんが多いのでは?ということを書きました。ただ、これは私の印象であり、最近はがんになったことを公表する人が増えたからなのかもしれません。
実際にデータはあまりありませんが、最近メジャーリーガーについての研究が発表されました。
それによると、全体的に死亡率は一般の人口と比較して低くなっていましたが、がんによる死亡率は高くなっていました。がん全体としては死亡リスクはわずかに8%増でしたが、肺がんで13%増(肺がんは有意差なし)、血液のがんが22%増、皮膚のがんが53%増です。皮膚がんについては太陽を頻繁に長時間浴びているので、その影響もあるでしょう。血液のがんは非常に気になります。
そもそも、プロのスポーツ選手になるような人は、もともと健康であることは明白でしょう。プロになった後も活躍できる体を維持するために、健康的なことをしていることも多いと思います。その中、前回の記事「運動はがんのリスクを低下させる」で書いたように、運動はがんのリスクを低下させます。血液のがんである骨髄性白血病に関しては20%低下です。しかし、メジャーリーガーでは一般人より22%増であることを考えるとかなりの増加です。
激しい運動は酸化ストレスを増加させると思われますが、合理的な練習をするメジャーではそこまでの練習量ではないでしょう。しかも野球は特に激しい運動ではありません。ピッチャー以外は試合のほとんどは休みですから。
もちろん、原因を特定することはできません。
私は現在の筋トレ、プロテイン飲料の普及がもしかしたらがんを増加させているのでは?と危惧しています。(図はこの論文より)
上の図は左がパワー系の運動、筋トレなどによる、様々な代謝の流れを示しており、右側が持久系の運動の流れを示しています。筋トレなどはmTORを活性化させ、筋肉の肥大が起こりますが、持久系の運動はAMPKが活性化し、mTORは抑制され、ミトコンドリアの増殖が起こります。
もちろん、持久系の運動でも運動しないことに比べればmTORは増加します。(図はこの論文より)
上の図はmTORの変化です。横軸は時間を表しています。ベースラインと運動後の時間経過です。5時間後までは絶食状態です。5時間後に食事をしています。22時間後は翌朝です。夜間はまた絶食です。■はパワー系の運動、△は持久系の運動、〇はコントロールです。そうすると、絶食で何もしない状態が続くと、mTORは低下します。そして、食事をして翌朝にはほぼベースラインに戻っています。持久系ではmTORが低下するほどではないですが大きく上昇もしていません。パワー系の運動ではどんどん上昇し、翌朝でもベースラインに戻っていません。
上の図はAMPKの変化です。持久系だけ運動直後に大きく増加しています。それ以外はほぼ変化なしです。逆に考えると、この一時的なAMPKの増加で、mTORが長時間にわたって大きく抑制されたと思われます。
上の図は血液検査の結果です。持久系、パワー系、コントロールの順に並んでいます。項目は上から遊離脂肪酸、血糖値、インスリン、成長ホルモン、IGF-1です。持久系では運動直後(0h)に成長ホルモンが増加していますが、IGF-1は変化していません。インスリンは増加傾向ではあります。パワー系の運動では運動後に成長ホルモンも大きく増加し、IGF-1も増加し、インスリンも増加しています。つまり、パワー系の運動は成長、増殖をもたらす様々なものが大きく増加することがわかります。がんが増加しても不思議ではありません。
つまり、アスリートが抱える問題は、次のようです。
・普段からの糖質過剰摂取にプラスしてスポーツドリンクなどの液体の糖質を頻繁に過剰に摂取すること
・筋肉をつけるために筋トレを頻繁に行うこと
・同様に、筋肉をつけるためにプロテイン飲料を頻繁に飲むこと
これらの3つのことはすべてmTORを強く活性化します。IGF-1や成長ホルモンも増加します。筋肉が増強し、パワーが付き、パフォーマンスが上がるだけなら良いのですが、mTORや成長因子の過剰な活性化はがんのリスクを上げてしまう可能性があるのです。
「サンデーモーニング」の張本氏のコメントにはいつも不快な気持ちになりますが、彼がいつも言っている「走り込み」が足りないというのは一理あるかもしれません。走り込みは持久系の運動を意味すると考えると、過剰なmTOR活性化を抑制してくれます。しかし、現在の考えでは走り込みはあまり意味がなく、筋トレで必要な筋肉を増強することの方がパフォーマンスアップには有益であるというのが主流でしょう。
「BORN TO RUN」という本に書かれているように、狩猟採集時代は人間は持久力を武器に獲物を捕っていたのでは、という仮説が考えられています。
スピードでは動物に敵うはずがありません。そこで、持久戦に持ち込み獲物を捕まえていたという考えです。このような時代にはもちろん筋トレは存在していません。自然と持久系の運動がなされてきており、それに人体は適応していると考えられます。
ましてや、プロテイン飲料など存在するはずもないので、一気に単体の大量のタンパク質、アミノ酸が体内に入ってくることには適応していない可能性もあります。動物の肉を食べることは、そこに含まれる脂肪分も同時に摂取しますし、同時に野草などの食物繊維も摂取していたかもしれません。そうすると、消化吸収は緩やかに行われるはずです。これは糖質摂取時に他の栄養素などと同時に摂取した方が血糖値の上昇が緩やかになることと同じです。
プロテインによって起きる血糖値スパイクならぬ、アミノ酸スパイクにより、過剰にmTORが活性化される可能性があるのではないかと思われます。もちろんこれは推測ですので確認できていません。筋肉やパワーがもっとも重要視されるのは、スポーツというものを考えれば当然ですが、必要以上の筋肉やパワーは人間にとって有益かどうかは現在のところ不明です。
つまり、多くのアスリートは糖質過剰状態+mTOR過剰活性化、成長因子過剰状態であり、その他の何らかの因子が加わり、がんを発症してしまうのではないかと思うのです。
mTORがただでさえ活性化している成長期の子供にプロテインを与えて、筋トレをさせていることは、もしかしたら恐ろしいことをしているのかもしれません。
砂糖業界が砂糖の有害性をずっと隠していたように、プロテイン業界が裏で暗躍していたりして…。実際に味の素はアミノ酸の研究のために東京大学や京都大学に多額の資金を出して寄付講座を作っています。製薬会社が自社の製品を売り込むために大学の教授に多額のお金を出していることと同じ構図です。
私の推測が間違っていると良いのですが…せめて、糖質過剰摂取はやめた方が…
「All-Cause and Cause-Specific Mortality Among Major League Baseball Players」
「メジャーリーグの野球選手における全原因および原因別死亡率」(原文はここ)