献血頻度によるフェリチンと血管機能

鉄は非常に重要です。鉄欠乏は確かによくありません。日本人、特に若い日本人の女性の鉄は非常に少ないことが多く、また日本の食事の鉄含有量が少ないのか、フェリチンが欧米ほど高くないことを指摘する人もいます。フェリチン値は低いと鉄の貯蔵量の低下を反映しますが、フェリチン値が高い場合は、炎症なのか、それとも何らかの原因で細胞が壊れてフェリチンが上昇しているのかわかりません。欧米ではフェリチン値が100~200なんて当たり前という人がいますが、実際にはそうではありません。そして、例えばアメリカ人において代謝的に健康な人は1割いるかどうか、と言われており、そんな代謝的異常な集団のフェリチン値を参考にすることは問題でしょう。

逆にアメリカなどは代謝異常、鉄過剰に苦しんでします。鉄は酸化促進物質ですし、老化促進物質でしょう。

鉄過剰でフェリチン値が高いというとすぐにヘモクロマトーシスのように500とか1000という異常な値をいう人がいますが、本当の正常なフェリチン値はわかっていません。

欧米の研究であっても、健康な対照群のフェリチン値は通常、男性であっても100前後、100以下のことも珍しくありません。何らかの疾患が存在する場合、炎症でフェリチン値が上昇することもあるかもしれませんが、フェリチン値が上昇するほどの鉄過剰で炎症が起きているかもしれません。鶏が先か卵が先かわかりません。

今回の研究では、高頻度で自発的に献血を行っている人と、低頻度の献血の人を比較しています。健康な男性では、500mLの全血を 1 回献血すると、ヘム鉄が大幅に失われ、1年に1回の全血献血で血清フェリチン値が44%低下するそうです。この研究で高頻度というのは過去2年間で8回以上の献血で、低頻度は過去10年間に少なくとも2回の献血があり、過去2年間は年に1回以上の献血を行っていない状態を指します。

アメリカ人の50~75歳の高頻度献血者40人(平均年齢61歳、男性73%)、低頻度献血者42人(平均年齢58歳、48%)を比較しています。高頻度のほうが男性が多く、高脂血症の割合が高く、スタチン使用者が多いという違いがありました。それ以外の群間の違いはありません。

さて、グループごとの血液の状態はどうだったでしょうか?(表は原文より改変)

献血頻度別の鉄分状態の血液マーカー (平均±SEM または血清フェリチンの四分位範囲の中央値)
高頻度低頻度P
血清フェリチン、ng/mL17 (15)52 (48)<0.001
血清鉄、mg/dL75±684±30.19
総鉄結合能(TIBC)、μg/dL363±10325±70.003
鉄飽和度、%22±228±20.03
ヘモグロビン、g/dL13.9±0.214.1±0.20.35
ヘマトクリット、%41±0.642±0.50.39
MCV、fL88.0±0.990.3±0.50.03
MCHC、%33.9±0.233.9±0.20.84
RDW12.5±0.212.0±0.10.007
白血球数、×1000個/mm 35.2±0.25.6±0.20.17
血小板数、×1000細胞/mm 3253±8278±110.06

予想通り、フェリチン値は高頻度群で非常に低く、73%が男性であるにも関わらず、平均で17ng/mLです。鉄の飽和度も22%です。一方低頻度群でもフェリチン値は52です。フェリチン値が12未満という大幅な減少は高頻度群40人中17人、低頻度群42人中2人でした。どちらの群も貧血は認められていません。

上腕動脈径は安静時でも閉塞後の反応性充血の血流でもグループ間で違いはありませんでした。しかし、動脈硬化による血管の機能的変化をみるFMD(血流依存性血管拡張反応、低い方が血管の機能が低下している)は、高頻度群で有意に増加しており、5.5%対3.8%でした。そしてそれは2年および10年にわたる献血数の増加と有意に関連していました。高血圧、高脂血症、または処方薬を使用している人を除外した分析でも、10人の高頻度献血者におけるFMDは、21人の低頻度献血者よりも有意に大きいままで、6.1%対3.5%でした。

上の図はFMDのグループ間の差です。男性よりも女性の方が差が大きく、高脂血症がない方が差が大きく、炎症があると差が大きくなりました。

血管炎症のマーカーであるIL-6、sICAM-1(可溶型細胞間接着分子-1)は、グループ間で差はありませんでした。しかし、酸化ストレスのマーカーである3-ニトロチロシンの血清レベルは35対43nmol/L、と低頻度群と比較して高頻度群で有意に減少しました。

高頻度の献血者は、低頻度の献血者と比較して、体内の鉄貯蔵量の減少、酸化ストレスの減少、および血管機能低下の減少が認められました。もちろん、鉄がすべてに関連しているかどうかはわかりません。ほかのメカニズムがあるかもしれません。しかし、鉄が酸化を促進すると考えると、この研究の結果は納得できるものです。特に年齢を重ねるにつれ、鉄は危険な存在になる可能性があります。

過去2年間に1~2回程度の低頻度の献血でもフェリチン値の平均は52しかありません。アメリカ人の2000年ころのフェリチンの中央値は男性で134~150、女性で32~86程度です。(「アメリカ人のフェリチン値は?」参照)2000年ころにはすでに肥満が増加し、代謝障害の人が多くなっていることを考えると、この中央値でさえ、炎症と関連している可能性もあり、実際に代謝的に健康な人ではもっと低い値だと推測ざれます。

細胞、特に肝臓の細胞が障害を受けるとフェリチン値が上昇するので、アルコール摂取でもフェリチン値は増加します。(「フェリチンとアルコール」参照)アルコールで鉄の吸収が良くなると考える人もいますが、肝機能を表す逸脱酵素と関連していることを考えると、単に肝細胞が壊れて、フェリチンが出てきたと考える方が自然でしょう。

鉄欠乏は良くありませんが、フェリチンを上げるためだけに鉄サプリを使うのは、酸化ストレスを増加させてしまう可能性があります。フェリチンが血中に出てきたときにはそこに貯蔵されていた鉄はバラまかれてしまいます。献血を推奨するわけではありませんが、鉄サプリの使用は慎重にすべきでしょう。

 

「Iron stores and vascular function in voluntary blood donors」

「自発的献血者における鉄貯蔵と血管機能」(原文はここ

5 thoughts on “献血頻度によるフェリチンと血管機能

  1. あの、中国習近平国家主席も認める世界ナンバーワン国家、アメリカですが、
    「アメリカ人において代謝的に健康な人は1割いるかどうか、と言われており、
    そんな代謝的異常な集団のフェリチン値を参考にすることは問題でしょう。
    逆にアメリカなどは代謝異常、鉄過剰に苦しんでします。鉄は酸化促進物質ですし、老化促進物質でしょう。」
    病理も世界一なのかもしれませんね。

    1. 鈴木 武彦さん、コメントありがとうございます。

      アメリカがナンバーワンかどうかはそれぞれ違うと思いますが、
      代謝的にほとんどの人が不健康な国のデータが日本人に当てはまるかどうかはわかりません。
      様々なことがアメリカより10年遅れていることがありますが、代謝異常はアメリカに追いつきたくはありませんね。

  2. 献血について質問させてください。
    7月に初めての献血をしました。
    (成分献血  血漿)
    来週、2回目の成分献血(血小板)を行う予定です。

    成分献血なら、身体へのダメージはほぼ無いだろうと思っているのですが、如何でしょうか?

    1. appleさん、コメントありがとうございます。

      何をもってダメージというのかがわかりませんので、お答えは難しいです。
      健康を害することはないでしょう。

  3. 清水先生
    コメントありがとうございます。
    漠然とした質問で申し訳ございません。
    健康を害することが無ければ、定期的に献血しようと思っています。
    ありがとうございました。

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