鉄の吸収率

体内の鉄の総量は3~4gであり、70%は赤血球に含まれるヘモグロビン鉄、残りの 30% がミオグロビン,電子伝達系,代謝酵素の補欠分子としてのヘム鉄として利用されている他,網内系細胞に貯蔵されています。(ここ参照)

鉄は汗や細胞の入れ替わりなどにより1日1~2mgという少量失われています。しかし、それ以外鉄を排出するメカニズムは持っていません。赤血球には鉄が必須であり、新たな赤血球のヘモグロビンに必要な鉄は25mg程度です。食事による外部からの鉄の補給は1日1~2mg程度なので、ほとんどがリサイクル鉄です。

進化の過程で、鉄が豊富にあったのであれば、このようなリサイクル機構は必要なかったでしょうし、余れば排出すれば良かったでしょう。しかし、鉄は恐らく貴重なミネラルであり、十分に摂取できた時代は無かったと考えられます。一方、そんな貴重な鉄ではあっても、非常に吸収が悪いことを考えれば、必須のミネラルでありながら、人体にとって有害となり得るものだということも十分推測できます。つまり、鉄は諸刃の剣と考えられます。

鉄のリサイクルの主役は免疫細胞のマクロファージであることも非常に面白いところです。恐らく進化の過程では、感染症との戦いが非常に重要であり、感染に対する防御には鉄の制御が必須だからではないでしょうか。

さて、鉄の吸収について、よく非ヘム鉄は吸収が悪く、ヘム鉄は吸収が良いと言われています。もちろん間違いではないのですが、両方の鉄は体内の鉄の状態などによって変化します。

正常な人における、さまざまなレベルの鉄の状態での非ヘム鉄およびヘム鉄の吸収を見てみましょう。4.8 mgの鉄(非ヘム鉄3.4mg、ヘム鉄1.4mg)を含んだ食事をしたときのものです。(図、表はこの論文より改変)

血清フェリチン(μg/L)鉄の吸収 (%)鉄の吸収 (mg)
非ヘムヘム非ヘムヘム合計
普通の男性1002.520.60.080.290.37
普通の女性307.731.60.260.440.70
鉄欠乏症1021.546.80.730.661.39

フェリチンが10と非常に低い場合の非ヘム鉄の吸収は、フェリチン100のヘム鉄の吸収率を上回るほどになります。鉄の吸収量を見てもフェリチン10は100のときよりもおよそ4倍吸収されます。もちろん他の要因でも吸収率は変化するでしょう。鉄欠乏だと非ヘム鉄の吸収量はヘム鉄の吸収量を超えています。

上の図は健康な人での鉄の吸収率をグラフにしたもので、上がヘム鉄、下が非ヘム鉄です。ヘム鉄はフェリチン100と10では2~3倍の違いですが、非ヘム鉄は10倍ほどの違いが出ています。逆に考えれば、ヘム鉄に対するダウンレギュレーションはあまり働かないということになります。

 

(上の図は原文より)

上の図は、フェリチンとヘプシジンレベル、腸内鉄吸収(緑)、マクロファージからの鉄リサイクル(青)、赤血球生成に利用可能な総鉄(赤)を示しています。そうすると、フェリチンが50のところで大きな変化があります。フェリチンが50以上となるとマクロファージからの鉄の放出が急激に低下しているのです。腸の鉄吸収もかなり少なくなっています。そうすると、人体の鉄代謝において、フェリチンが50前後の状態で十分ではないかと考えられます。それ以上となるとヘプシジンが増加し、マクロファージからの鉄放出を減らし、腸管からの吸収も減少させてしまうのです。

フェリチンが50以上というのは、もしかしたら人間の鉄代謝のメカニズムを超えたところになるのかもしれません。無理矢理大きな数値を目指すことは有害になる可能性が高いでしょう。

フェリチン=鉄の貯蔵の指標、という古典医学にいまだに固執している人もいるようですが、コレステロール=悪玉という考えとあまり違いはありません。低いフェリチンは鉄欠乏を表すと考えられますが、高いフェリチンは何を示しているのかはそれだけではわかりません。さらに現在はフェリチンそのものが有害な役割を担っている可能性が高いと考えられています。

鉄は必須のものですが、過剰な鉄は老化物質と考えられており、がんをはじめ様々な疾患と関連しています。食事で鉄を摂取していれば、体が自然と調整をしてくれます。吸収を高めたサプリの摂り過ぎには要注意でしょう。

 

「Should we reconsider iron administration based on prevailing ferritin and hepcidin concentrations?」

「一般的なフェリチンとヘプシジンの濃度に基づいて、鉄の投与を再考する必要がありますか?」(原文はここ

2 thoughts on “鉄の吸収率

  1. > 恐らく進化の過程では、感染症との戦いが非常に重要であり、感染に対する防御には鉄の制御が必須だからではないでしょうか

    感染症と鉄の関係と言えば、進化的な観点からは非適応的な遺伝子異常である鎌状赤血球症(鉄欠乏貧血)がマラリア多発地域の人々に特異的に多い、つまり鎌状赤血球症は「感染症のマラリアに対し対抗的に機能している」というよく知られた話がありますね。
    また、慢性の結核患者は鉄分レベルが低く、貧血を治そうとして鉄剤を与えると感染が悪化するというデータもあります。

    この辺の話は、進化医学の嚆矢と言われる名著

    『病気はなぜ、あるか Why We Get Sick』
    https://www.amazon.co.jp/%E7%97%85%E6%B0%97%E3%81%AF%E3%81%AA%E3%81%9C%E3%80%81%E3%81%82%E3%82%8B%E3%81%AE%E3%81%8B%E2%80%95%E9%80%B2%E5%8C%96%E5%8C%BB%E5%AD%A6%E3%81%AB%E3%82%88%E3%82%8B%E6%96%B0%E3%81%97%E3%81%84%E7%90%86%E8%A7%A3-%E3%83%A9%E3%83%B3%E3%83%89%E3%83%AB%E3%83%95%E3%83%BBM-%E3%83%8D%E3%82%B7%E3%83%BC/dp/4788507595

    に詳しい。
    同書によって視野を大きく広げられたという記憶があります。
    (刊行から20年も経っていますが内容は陳腐化していないと思います)

    私の母(93才健在、コロナワクチン未接種)は何十年も前から貧血を指摘されていました。
    内科医の実弟からは「鉄分豊富な食品を摂りなさい」と何時もしつこく言われていたのですが、QOLの低下を自覚しない長年に渡る貧血は一種の体質ではないか、それを正すべき(治すべき)悪い状態と決めつけるのは「木を見て森を見ず」ではないか、という漠然とした思いがありました。
    『病気はなぜ、あるか』は、まさにその問題も含めて新鮮で豊富な教示を与えてくれるものでした。

    (なんか書籍の宣伝コメントみたいになってしまいました)

    1. NANAさん、コメントありがとうございます。

      情報ありがとうございます。
      鉄は老化物質ですので、不都合な症状がないのであれば、特に高齢者は無理やり上げる必要はないように思います。

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