糖質制限でケトーシスになっている人が糖質制限を止めたらどうなる? その1

我々人類は断続的で時間制限のある摂食パターンに適応してきたことが示唆されています。進化の過程で獲得した代謝は、食べることのできる回数は1回か2回程度、非常に短い時間帯で、糖質もほとんどない食事が初期設定となっています。つまり糖質制限食+時間制限食です。

糖質過剰摂取により高血糖、高インスリン血症となり、アポトーシス(プログラムされた細胞死)を阻害し、慢性の炎症を起こしながら、細胞の成長と分裂を促進することで、慢性疾患を引き起こし、健康寿命を短縮する可能性があります。

糖質制限でケトン体が増加するケトーシスと、糖質制限を止めてみたときの様々なパラメータの動きはどうなるでしょう。

今回の研究では、試験開始前にケトーシスのライフスタイルを送って習慣的(平均3.85年)にケトン体質に適応している健康な閉経前女性10名が対象で、平均年齢32.30歳、平均BMI20.52でした。ケトーシスは、研究開始前の6か月間、夕食前の午後4時から6時までの1日1回の毛細血管のケトン体の一つであるβヒドロキシ酪酸測定によって判定されました。

研究の最初の21日間(フェーズ1:P1)はずっと超低炭水化物高脂肪食 (VCHF) で、エネルギー摂取量の割合として、炭水化物8%、タンパク質17%、脂質75%でした。食べるものは自由です。炭水化物8%なので、ガッツリ糖質制限です。1日4回血糖値とケトン体値(βヒドロキシ酪酸値)を測定しました。βヒドロキシ酪酸値を0.5mmol/L(日本の単位では500μmol/L)を維持してケトーシスを保ちました。

22日目に検査して、23日目から21日間(フェーズ2:P2)ではケトーシスを抑制するような食事をします。つまり糖質過剰摂取です。βヒドロキシ酪酸値0.3mmol/L未満が目標です。1日あたり少なくとも267gの炭水化物を摂取することを推奨し、炭水化物55%、タンパク質20%、脂質25%で自由に少なくとも3回に分けて食事しました。

44日目にまた検査して、45日目から21日間(フェーズ:P3)は再び糖質制限でケトーシスに戻りました。さてどうなったでしょう。

かなり詳細に色々調べていますので、今回だけでは書ききれませんが、まずは見ていきましょう。(図は原文より、表は原文より改変)

まずはケトン体の測定値です。

平均βヒドロキシ酪酸 (mmol/L)
参加者 行った測定の数 252 件のうち条件を満たされた測定の割合 P1 P2 P3
1011 251 99.6 2.7 0.1 2.3
1021 252 100 2.8 0.1 2.2
1031 252 100 2.6 0.1 1.8
1041 252 100 1.5 0.2 1.6
1051 251 99.6 1.7 0 1.6
1061 245 97.22 0.7 0.1 0.8
1071 248 98.41 1.7 0.2 2.4
1081 250 99.21 2 0.1 1.2
1091 251 99.6 1.8 0.1 2.5
1101 252 100 1.5 0.1 2.4
平均 250.4 99.37 1.9 0.1 1.9

上の表はそれぞれのフェーズでのβヒドロキシ酪酸値の平均です。ケトーシスのフェーズ(P1とP3)でβヒドロキシ酪酸値0.5mmol/L以上、糖質過剰摂取のP2では0.3未満という条件は99%以上の達成率です。日本の単位でβヒドロキシ酪酸が1000~2000を超えている人が多いので、かなりしっかりと超低糖質ですね。

P1 P2 P3
年齢(歳) 32.30 (±8.97)
身長(cm) 160.95 (±7.28)
重量(kg) 52.99 (±4.24) 55.65 (±4.10) 53.93 (±4.04)
BMI 20.52 (±1.39) 21.54(±1.30) 20.82 (±1.46)
腹囲/ヒップ 0.75(±0.03) 0.77 (±0.03) 0.74 (±0.03)
腹囲/身長 0.43 (±0.03) 0.45(±0.03) 0.43 (±0.03)
体脂肪量(kg) 14.21 (±2.55) 15.88 (±2.23) 14.78 (±2.20)
体水分量(L) 28.15 (±2.87) 29.15 (±2.96) 28.42 (±3.15)
収縮期 (mmHg) 103.25 (±6.24) 103.70 (±10.17) 100.00 (±9.54)
拡張期 (mmHg) 70.75 (±4.91) 69.45 (±7.14) 68.15 (±7.36)

上の表はそれぞれのフェースの体組成などを示しています。もちろん予想通りに、フェーズ2で体重や体脂肪などが増加して、フェーズ3で戻っています。

上の図は呼吸商(RQ)です。呼吸商を見れば何がエネルギー源になっているかが推測できます。糖質だけがエネルギー源の場合、呼吸商は1.0です。脂質だけの場合0.71です。0.7以下の場合はケトン体が燃焼してエネルギー源になっていることを意味します。ケトン体の呼吸商は0.25です。上の図の平均の呼吸商はP1で0.66、P2で0.72、P3で0.65ですので、P1やP3ではケトン体もかなりエネルギー源となっていることが推測できます。ただP2でも比較的呼吸商は低く、やはりいつもケトーシスにあった体は、糖質過剰摂取をしても、比較的脂質をエネルギーにしやすい体となっているのかもしれません。

上の図はA:インスリン、B:インスリン様成長因子のIGF-1、C:血糖値、D:ケトン体のβヒドロキシ酪酸値です。インスリンは単位がpmol/Lですが日本の単位μU/mlにするには7で割ります。(6で割ると書いているものもあるのですがよくわかりません)インスリン値の平均はP1の33.60pmol/L(日本の単位で4.8)からP2で59.80pmol/L(日本の単位で8.5)に大きく増加しています。

IGF-1も同様に、149.30μg /Lから273.40µg/Lに増加しました。

血糖値は日本の単位で78.6mg/dLから92.3に増加しました。ケトン体はもちろん減少(2.43から0.18mmol/Lへ)しています。

上の図は甲状腺に関するホルモンです。左からTSH、T3、T4です。 T3も、P1の3.81pmol/LからP2で5.51pmol/L に大幅に増加しました。糖質制限ではT3が低下するので、糖質過剰摂取のP2ではT3が増加するのは当然ですね。TSHとT4に有意な変化はありませんでした。

P1 P2 P3
インスリン (pmol/L) 33.60 (± 8.63) 59.80 (±14.69) 31.60 (± 9.38)
IGF-1 (μg/L) 149.30 (± 32.96) 273.40 (± 85.66) 136.90 (± 39.60)
血糖値 (mmol/L) 4.36 (± 0.53) 5.12 (± 0.59) 4.41 (±0.30)
βヒドロキシ酪酸 (mmol/L) 2.43 (± 1.28) 0.18 (±0.13) 2.31 (±0.71)
TSH (mU/L) 1.40 (± 0.74) 1.56 (± 0.75) 1.25 (±0.81)
遊離T3 (pmol/L) 3.81 (± 0.28) 5.51 (± 0.72) 4.05 (± 0.54)
T4 (pmol/L) 13.51 (± 1.61) 13.24 (± 1.49) 12.65 (± 0.66)

上の表はそれぞれのフェーズのインスリンや血糖値などの糖代謝に関するパラメータと甲状腺のパラメータ変化のまとめです。

いずれのパラメータの変化もケトーシスに戻ったP3でP1の時と同様な値に戻っています。

今回の記事は予想通りの結果ですね。血糖値もインスリン値およびIGF-1もケトン体値も、そしてT3も糖質摂取量次第で変化します。普通の食事はフェーズ2ですが、その食事がいかに血糖値やインスリン値などを上げているかがわかります。

次回以降はもう少しこの研究の結果を見ていきます。

「Ketosis Suppression and Ageing (KetoSAge): The Effects of Suppressing Ketosis in Long Term Keto-Adapted Non-Athletic Females」

「ケトーシス抑制と老化 (KetoSAge): 長期ケト適応非アスリート女性におけるケトーシス抑制の効果」(原文はここ

One thought on “糖質制限でケトーシスになっている人が糖質制限を止めたらどうなる? その1

  1. 「我々人類は断続的で時間制限のある摂食パターンに適応してきたことが示唆されています。進化の過程で獲得した代謝は、食べることのできる回数は1回か2回程度、非常に短い時間帯で、糖質もほとんどない食事が初期設定となっています。つまり糖質制限食+時間制限食です。

    糖質過剰摂取により高血糖、高インスリン血症となり、アポトーシス(プログラムされた細胞死)を阻害し、慢性の炎症を起こしながら、細胞の成長と分裂を促進することで、慢性疾患を引き起こし、健康寿命を短縮する可能性があります。」

    求めて止まない「健康」の秘訣がこの一文に集約されていると思いました。

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