私はほとんどの病気は糖質過剰摂取が原因だと思っています。そして、糖質制限をすれば非常に多くの病気は改善または寛解するとも思っています。
今回の報告は非常に衝撃的であるとともに、やっぱりな、という思いが両方ありました。
筋萎縮性側索硬化症(ALS)は、不治の神経変性疾患です。難病情報センターの情報によると、いろいろ原因は考えられていますが、一次運動ニューロン(上位運動ニューロン)と二次運動ニューロン(下位運動ニューロン)が選択的にかつ進行性に変性・消失していく原因不明の疾患とされています。病勢の進展は比較的速く、人工呼吸器を用いなければ通常は2~5年で死亡することが多い、とも書かれています。個人差も大きくもっと長く生きる方もいます。ALSと言えば、スティーヴン・ホーキング博士ですが、発症から50年以上も生存しました。エプスタインに何か良い治療を紹介してもらっていたのでしょうか?
日本でも認可されているリルゾール(商品名リルテック)が生存期間を僅かであるが有意に延長させると言われていますが、コクランの分析では、ALS患者の生存期間中央値を約2~3か月延長するだけのようです。とても治療薬と呼べるレベルではありません。
ALSにはいくつかのタイプがあるようですが、進行は球麻痺型が最も速いとされ、症状発現からの生存期間中央値は24か月ですが、発症から3か月以内に死亡する例もあるそうです。
今回の症例報告はそんな球発症型ALSの21か月の病歴のある64歳男性のものです。身長160cm、体重72.2 kg、BMI28.2の彼は、症状の悪化を考慮して、リルゾールが提案されましたが拒否し、18か月間時間制限ケトン食(TRKD)を実施しました。毎日2食で、食事時間は1食につき1時間、1日2時間に制限されました。その他の時間は絶食(水、お茶、コーヒーのみ許可)とされました。食事は重量比(?)で脂質60%、タンパク質30%、食物繊維5%、糖質5%でした。主に自然食品(緑色野菜、肉、卵、ナッツ、種子、クリーム、天然の油)で構成され、毎食満腹になるまで食べることと、カロリー摂取量を制限しないことが推奨されました。(図は原文より)
上の図は平均血糖値とケトン体値です。平均血糖値は6.52mmol/L(日本の単位で117mg/dL)、ケトン体は0.77mmol/L(日本の単位で770μmoL/L)でした。
体重はベースラインで72.2kg、18か月で69.0kg でした。ヘモグロビン、クレアチニン、肝機能検査、およびHbA1cの血液検査は18か月にわたって正常なままでした。中性脂肪は115から142 mg/dLに増加し、HDLは43mg/dLのままというのは意外でした。LDLは120から209mg/dLに増加し、総コレステロールは186から279mg/dLに増加しました。上の図は、ALSに関連する様々なパラメータの推移です。
詳細は省略しますが、ベースラインと比較して、ALS機能評価スケールは7% 改善、努力呼気量17% 改善、努力肺活量13% 改善、うつ病は正常化、ストレスレベルは正常化、生活の質19%改善、疲労23%改善でした。嚥下障害と神経認知状態は安定したままでした。測定可能な低下は、身体機能、最大吸気圧、および最大呼気圧に限定されていました。重大な副作用は発生しませんでした。
ALS機能評価スケールは通常は1か月あたり1ポイントずつ低下するそうです。患者のベースラインスコアが42なので、18カ月でスコアは 24 に低下するはずですが45に改善しました。努力肺活量は1か月当たり平均 2~3% の減少が予測されるそうです。ベースラインが3.83 L(111%)なので、少なくとも2.87 L(75%)まで低下するはずですが4.33 L(124%)に改善しました。
症状の発症から45か月以上が経過した現在、機能的に自立しており、時間制限ケトン食に専念しているそうです。
彼はケトン食の前に21か月で体重が10kg減少しましたが、ケトン食の18カ月で体重が減少したのはわずか3.2kgでした。これは恐らく筋肉の温存の効果ではないかと思われます。
スタチンがALSのリスクを高め(「ホーキング博士とスタチン」参照)、ALS患者の方が健康な男性よりもLDLコレステロールが低いという研究(ここ参照)があることなどから、もしかしたら、糖質制限がミトコンドリア機能を高めるだけでなく、LDLコレステロール上昇効果によってALS改善に寄与している可能性があります。
いずれにしても、体に何か起きたら糖質制限ですし、そうなる前に糖質制限ですね。
「Time-restricted ketogenic diet in amyotrophic lateral sclerosis: a case study」
「筋萎縮性側索硬化症における時間制限付きケトジェニックダイエット:ケーススタディ」(原文はここ)