これまで、何度も鉄に関する記事を書いてきました。がんとの関連以外でも「妊娠糖尿病と鉄の関連 フェリチン低値で鉄を補充する危険性」などで、糖尿病やインスリン抵抗性との関連を書きました。今回は以前の記事「鉄不足だからと言って鉄のサプリメントを飲めば良い、ってもんじゃない!その2 フェリチン高値とインスリン抵抗性」で取り上げた論文についてもう少しだけ詳しく述べたいと思います。
フェリチンは鉄の貯蔵量だけでなく、炎症とも関連しています。ですから、フェリチン高地と疾患の関連を述べても、それが鉄の貯蔵量が多いことと関連しているのか、疾患による炎症があって、それによってフェリチンが高くなっているのかはっきりしないことがあります。
「Body Iron Stores in Relation to Risk of Type 2 Diabetes in Apparently Healthy Women」
「明らかに健康な女性の2型糖尿病リスクと関連した体内鉄貯蔵」(原文はここ)
要約
2型糖尿病は、鉄過剰症の病気であるヘモクロマトーシスの一般的な症状である。しかし、鉄分の貯蔵量が増加していることが、健康な人における2型糖尿病の発症を予測するかどうかは明らかではない。
目的:2型糖尿病のリスクと関連した血漿フェリチン濃度およびトランスフェリン受容体濃度のフェリチンに対する比を調べる。
設定および参加者:看護師の健康研究コホート内での前向きな症例対照研究。1989〜1990年に血液サンプルを提供し、診断された糖尿病、心臓血管疾患、およびがんを有していなかった32,826人の女性のうち、698人が10年間の追跡期間中に糖尿病を発症した。
主なアウトカム指標:2型糖尿病の症例を測定する。
結果:フェリチンの平均濃度は、糖尿病発症群が対照群と比較して有意に高く、109.5対71.5、フェリチンに対するトランスフェリン受容体の平均比は有意に低く、102対141であった。BMIやその他の糖尿病のリスク要因に応じて調整したところ、フェリチンの五分位の増加に伴う第2型糖尿病の多変量相対リスクは、1.00、1.09、1.26、1.30および2.68であった。フェリチンに対するトランスフェリン受容体の比の五分位の増加に伴う相対リスクは、2.44、1.00、1.13、0.99 、および1.00であった。炎症性マーカー(C反応性タンパク質)でさらなる調整をしても、結果をほとんど変化させなかった。
結論:鉄分の体内貯蔵量の増加(フェリチン濃度の上昇とトランスフェリン受容体のフェリチンに対する比の低下)は、既知の糖尿病リスク因子とは独立した健康な女性の2型糖尿病リスクの増加と関連している。
この研究では、炎症があるかどうかということを調整して、関連を除外しても、またBMIで体型的なリスクを除外してもなお、フェリチンの増加と2型糖尿病の関連を強く認めているのです。
上の図は原文からのものですが、左のグラフはフェリチンの濃度とリスクの関連を示しています。(右はトランスフェリン受容体のフェリチンに対する比のグラフですが今回は言及しません。)横軸がフェリチン濃度、縦軸がリスクの高さです。そうすると、フェリチンが増加するに従い右肩上がりにリスクが上昇しているのがわかると思います。
上の表はフェリチンとリスクを表していますが、要約の中であった五分位というのが、どのように分けているのかが、一番票の上に書かれています。もっともフェリチン濃度の低い群は21.1未満です。その次は21.1~41.1、41.2~69.8、69.9~107.1、最大に多い群は107.2以上です。つまり、最大の群でも100をちょっと超えた程度なのです。最低の群の21.1未満は明らかに重篤な欠乏状態と考えている人もいるレベルです。(私はそうとは思っていませんが)そうすると、そのもっとも低いレベルの人と比べて、100を超えるような人では2.5倍以上の糖尿病発症の危険があるのです。
ヘモクロマトーシスなど異常なレベルでの鉄の過剰ではなく、人によってはまだ鉄欠乏であると考えるようなレベルであっても、糖尿病のリスクは上がってしまいます。だとすると、鉄はそんなに必要なのか?という疑問がわきます。というよりもやはり鉄は何らかの悪さをして、インスリン抵抗性を上げて、糖尿病を発症させるようです。非アルコール性脂肪肝と鉄も関連しているようなので、また取り上げたいと思います。
私は、とりあえず女性ではフェリチン値が20あって、何も症状がなく、食事でしっかり鉄が摂れていれば、全く問題が無いばかりか、その程度の方が健康的なレベルだと思います。女性の場合でフェリチン値が20よりも100の方が良いという根拠が見つかれば、訂正したいと思いますが、どれだけ探しても見つかりません。そのような根拠をお持ちの方は教えてください。