妊娠糖尿病と鉄の関連 フェリチン低値で鉄を補充する危険性

妊娠中の鉄欠乏は胎児にも影響があり、治療が必要であることも少なくありません。また、妊娠前には鉄欠乏でなくても、妊娠中は胎児への鉄の供給が非常に増加するため、妊婦さんは鉄欠乏になる可能性があります。それはフェリチンを測定するとはっきりわかるのですが、ではフェリチンが高ければ良いのかというと、そんな簡単なものではないようです。

この研究では妊娠初期や中期のフェリチン値が高いほど、妊娠糖尿病になりやすいというデータを示しています。もちろん、妊婦さんの年齢や糖尿病の家族歴、妊娠前のBMI値、CRPのレベルその他主要なリスク因子で調整をした後のリスクです。CRPは炎症所見を示しているので、フェリチンが炎症で高くなっている要因を排除しています。

グラフの横軸はフェリチン値を表しています。このグラフで示している妊娠週の時点ではまだ、妊娠糖尿病の診断はされていない時期です。原文は使っている単位が違うのでなじみのあるng/mLに変換していまので、小数点以下は若干の違いがあります。縦は妊娠糖尿病のなりやすさのリスクです。左のグラフは妊娠10~14週です。それを見ると、フェリチン値34.3以下と77.4以上ではリスクが2.43倍です。

右のグラフは妊娠15~26週です。フェリチン値22.1以下の妊婦さんと比べると、それ以上の妊婦さんでは妊娠糖尿病になるリスクが3倍以上になっています。

実際の妊婦さんのフェリチン値のグラフです。

bがフェリチンの値ですが実線が妊娠糖尿病にならなかった妊婦さん、破線が妊娠糖尿病になった妊婦さんです。横軸のVisit1~4は10-14週、15-26週、23〜31週、33-39週の受診を示しています。Visit3~4では妊娠糖尿病があるかないかに関わらずかなりの低値(フェリチン値で22前後)を示しています。つまり半分から3分の1ぐらいまでフェリチンが下がるのですね。

そこで、気になるのがaのグラフですが、これはヘプシジンの値を示しており、Visit2の時点で妊娠糖尿病にその後なる妊婦さんでは、ならない妊婦さんより有意に高値を示しています。

ヘプシジンの役割のひとつは鉄過剰に対して鉄吸収を抑制することです。様々なメカニズムで調整されているので、いまだに未解明の部分があります。フェリチンが高い分、ヘプシジンも高いとも考えられます。他のホルモンの影響もうけるので、妊娠時のホルモンの増減に反応しているのかもしれませんが、もしかしたら、妊娠糖尿病を何とか回避するために、ヘプシジンをたくさん分泌して頑張っているのかもしれません。

フェリチン高値が妊娠糖尿病の原因ではありません。これは一つの指標です。しかし、フェリチンは体に貯蔵している鉄の指標でもあるので、貯蔵鉄が多いほど妊娠糖尿病になるリスクが高いとも考えられます。炎症時にもフェリチンは増加しますが、今回の研究ではこの炎症の影響は排除されています。フェリチン値と妊娠糖尿病の関連性について(炎症とは関係なく)有意な関連性があるという研究は他にもあります。

考えられるのは、思ったよりも鉄は安全に貯蔵されていなくて、ちょっとの過剰の鉄でも、体の状態(例えば妊娠)によっては、鉄による酸化ストレスが高くなり、インスリン抵抗性が上がって妊娠糖尿病になるのかもしれません。体の鉄を低下させるとインスリン抵抗性が改善するという研究もあります。

それにしても、思ったより安全はフェリチン値は低いと思いませんか?この研究で妊娠糖尿病のリスクの低い妊婦さんの、妊娠初期の10~14週でのフェリチン値34.3というのは、「フェリチン低値の危険性」を訴えている人たちの言っている値から見ると比較的危険な数値です。フェリチン30以下は重篤な鉄不足らしいですから。そしてその後妊娠15~26週のフェリチン値22.1というのは完全に鉄不足です。このときに「危険な鉄不足だ!頑張って鉄を増やさなきゃ!お腹の中の子供のためにも、産後うつを回避するためにも!」と思ってせっせと鉄を補給したことにより、妊娠糖尿病になってしまう危険性すらあるということです。妊娠時の鉄欠乏は問題があります。しかし、妊娠糖尿病も非常に問題です。

「フェリチンが30以下だから、お腹の中の子供にあげたら、お母さんのフェリチンはゼロになっちゃう!」と思って鉄のサプリを飲み続けると、もしかしたら妊娠糖尿病が待っているかもしれません。普段からの食事で、極端な鉄不足にならないように気をつけることの方が重要です。妊娠したからと言って、大した鉄不足もないのに急いで鉄を補充することは何らかの問題がある危険があるかもしれません。

もちろん、今回の研究では他の栄養の摂取状況がわかりません。その栄養の摂取に影響される可能性は十分あります。しかし、500を超えるような極端なフェリチン値が影響しているわけでは全くありません。健康な値と言われている100すら余裕で下回るところでの話です。鉄過剰の状態というものの定義は実際にはよくわからないのが本当のところです。もしかしたら、人によっては100でも健康を害する鉄過剰かもしれません。

性ホルモンであるテストステロンやエストロゲンも鉄の吸収に関連しているようです。様々なホルモンなどで調整されていることを考えると、安易な鉄の増加計画による過剰な鉄摂取が逆に体のバランスを崩す可能性すらあります。

また、狩猟採集生活のときは現代と違って本当に鉄が不足していなかったのでしょうか?私は不足していたと思います。でも、不足ではなく、それがずっと進化の間続いており、それが正常な状態とも言えます。「狩猟採集生活では肉をたくさん食べていたから」鉄が満たされていた、というのは本当でしょうか?実際にはわかりませんが、そんなにいつも十分な肉があったとは思えません。特に大型の動物を捕らえることは、たまにしかなかったように思えます。後は小動物や昆虫が主なタンパク源であり、現代人よりもたくさんの鉄が豊富な赤肉を摂取できていたかは非常に疑問です。また、現代人よりも女性は子供をたくさん産んでいたのではないでしょうか?乳幼児の死亡率が非常に高いと思われるので、子供を出産する回数は今とは比べ物にはならないと思います。そうすると毎回、大量の鉄が妊婦さんから失われます。次の妊娠までに十分な回復ができている可能性も低いかもしれません。だから、それに合わせて適応して進化してきた可能性の方が高くはないでしょうか?そうすると、そんなに鉄が大量に必要でしょうか?もちろん、フェリチン値が極端に低かったり、すでに鉄欠乏性貧血になっているような状態が良いとは言えません。それは治療しなければならないでしょう。

適切な食事を摂れば、体が自然と調整してくれます。不自然な工業製品を栄養と思って体に入れることのリスクを考えましょう。自分で良く考えて、自分で選択してください。

「A longitudinal study of iron status during pregnancy and the risk of gestational diabetes: findings from a prospective, multiracial cohort.」

「妊娠中の鉄の状態と妊娠糖尿病のリスクの縦断的研究:前向き多分性コホートからの所見」(原文はここ

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