インスリンで血糖値をコントロールすると、合併症やがん、死亡率のリスクは高くなる

2型糖尿病において、インスリンの注射で血糖をコントロールすることがあります。または、スルホニル尿素剤という薬によって無理やりすい臓からインスリンを出させる薬もあります。しかし、このようなインスリンを使った治療が本当に糖尿病の患者にとって良いのでしょうか?

糖尿病の状態のベースにあるのはインスリン抵抗性です。インスリンが効きにくいのです。それなのにインスリンを無理やり投与しても良いことがあるとは思えません。異常に大量のインスリンを投与すれば、血糖値は正常範囲になるかもしれません。そして、それを見て喜ぶのはあなたを担当している医師だけです。

あなたも一緒に喜んでいる場合ではありません。

糖尿病管理の主な目的は、正常血糖の達成と維持です。それが達成できれば健康が維持できるかどうかはわかりません。メトホルミン単独では血糖値が維持できないので、その他の薬の投与が行われ、それでも維持が難しいのでインスリン投与となるのでしょう。

インスリンを使った治療の転帰は実際には非常に悪いものがあります。インスリンを使わないとコントロールできないほど糖尿病が進行していて、そのために治療の転帰が悪くなるのかもしれません。しかし、インスリンそのものが悪いとも考えられています。

インスリン治療はどれほどリスクが高くなるのでしょうか?

2型糖尿病の方に次のような治療を行い、それぞれの有害事象のリスクを比較しました。スルホニルウレアとはダオニール、オイグルコン、アマリールなどの糖尿病の内服薬であり、強制的にインスリンを分泌させる薬です。メトホルミンはメトグルコなどの内服薬です。

メトホルミン単独療法
スルホニルウレア単独療法
インスリン単独療法
メトホルミン+スルホニルウレア併用療法
インスリン+メトホルミン併用療法
これらの群を、比較したのですが、重篤な有害事象(心血管疾患、がん、および死亡)のリスクについての結果は劇的でした。

メトホルミン単独療法は最低の死亡率であり、そのメトホルミン単独療法と比較すると、

・スルホニルウレア単独療法の結果、患者は心血管疾患、がん、および死亡の可能性が1.4倍以上高くなりました。
・インスリン+メトホルミン併用療法により、リスクは1.3倍に増加しました。
・インスリン単独療法のみではリスクが1.8倍に増加しました。

メトホルミンとインスリン単独療法のHbA1cとチャールソン指数でグループ分けでの比較もあります。ベースラインのHbA1cをlow(低)8.4%以下、medium(中)8.4%より大きく10.2%以下、high(高)10.2%より大きいと定義しました。チャールソン指数というのは併存している疾患の点数を計算すると、それが10年生存率を予測できるというものらしいです。点数は下のようです。

スコア疾患
1心筋梗塞、うっ血性心不全、末梢動脈疾患、脳血管疾患、認知症、慢性肺疾患、膠原病、潰瘍性疾患、軽度の肝疾患、糖尿病
2片麻痺、中等度~重度の腎疾患、末期臓器障害のある糖尿病、がん、白血病、リンパ腫
3中等度~重度の肝疾患
6転移性固形がん、AIDS

チャールソン指数を1点の人(low morbidity)と2点以上の人(high morbidity)と定義しています。HbA1cと組み合わせて6グループに分けました。(図は原文より)

インスリン単独療法はメトホルミン単独療法と比較して、死亡リスクは約1.9倍~2.8倍とすべてのグループでかなり増加しました。心血管疾患、がんをそれぞれ見ると6つのグループで有意なものと有意差がないものがありました。

インスリン単独療法はメトホルミン単独療法との個々の有害事象の比較を見ると、インスリン単独療法では、
・死亡率は約2.2倍
・心筋梗塞は約2倍
・重篤な心血管疾患は1.7倍以上
・脳血管イベントは1.4倍以上
・がんは1.4倍
・眼の合併症は約1.2倍
・神経障害は2.1倍以上
・腎臓合併症は3.5倍

スルホニルウレア単独療法はメトホルミン単独療法との個々の有害事象の比較を見ると、スルホニルウレア単独療法では、
・死亡率は1.7倍以上
・心筋梗塞は1.6倍以上
・重篤な心血管疾患は約1.4倍
・脳血管イベントは1.2倍以上
・がんは約1.1倍
・神経障害は1.1倍以上
・腎臓合併症は2.6倍以上

インスリンが血糖値をより「正常な」レベルに低下させれば、治療は成功したとみなされます。日本では初期の段階でいまだに投与されているスルホニルウレアでさえ、インスリンを強制的に分泌させ、上のように非常に悪い結果となっています。

2型糖尿病では、根本的な問題はインスリンを産生する能力の欠如でも高血糖でもありません。問題は、血液から細胞にグルコースを取込むためにインスリンを利用する細胞の能力の低下、つまりインスリン抵抗性です。もちろんアジア人はインスリン産生能が低い人が多いと言われているので、最初の段階ではインスリン不足も問題とはなるでしょう。しかし、恐らくはインスリン分泌不足にもインスリン抵抗性が加わって症状が悪化してくると考えます。

もともとインスリン分泌が少ないことだけが問題であるならば、子供の頃から問題が生じるはずです。しかし、若いころはインスリン感受性が正常であり、分泌が少なくても血糖はコントロールされて問題が起きていません。(もちろん、糖質摂取量が過剰すぎる現代では、子供も問題が起きています)

問題は、インスリンを使用する細胞の能力、インスリン感受性が低下していることです。インスリン抵抗性です。細胞がすでに分泌されているインスリンを上手く利用できないのに、さらに多くのインスリンを与えることは、人体にとって有益だと思いますか?明らかに、それは逆効果です。理論的に考えればこのことは正しいことだと思いますが、糖尿病を治療する医師はインスリンを強制的に分泌させる薬や注射で強制的にインスリンを注入する治療を有害だとは考えていません。逆に正しいことをしているとさえ思っているでしょう。

この研究が示しているように、強制的に体内にインスリンを注入すると、実際には様々な不利益が起こります。2型糖尿病の患者さんにとって重要なのは、数字を良くすることではなく、人生を良くすることのはずです。治療により問題が起きることは望んでいないはずです。

もちろん、すい臓が疲弊してインスリンが十分に出せなくなった場合に、インスリンの注射が必要になることもあるかもしれませんが、そうなる前にインスリンに頼らない食生活、つまり糖質制限にできる限り早く切り替えるべきではないでしょうか?

 

「Mortality and other important diabetes-related outcomes with insulin vs other antihyperglycemic therapies in type 2 diabetes.」

「死亡率および他の重要な糖尿病関連アウトカムとインスリンと2型糖尿病の他の抗高血糖治療との比較」(原文はここ

5 thoughts on “インスリンで血糖値をコントロールすると、合併症やがん、死亡率のリスクは高くなる

  1. 先日はご返答ありがとうございました。あれから足首痛め病院で有痛性外脛骨と診断され半月走れてません。函館マラソンは黄色信号です。質問ですがハンガーノック状態はフルマラソンでも起きますか?
    私はアミノバイタルゼリーを持って途中で飲んでますがスポーツドリンク同様に飲まない方がいいのでしょうか?
    先生のベスパプロ、ここでジョミがいいのでしょうか?すみませんがご返答宜しくお願いします。

    1. 吉川恭彦さん
      故障が早く良くなると良いですね
      ハンガーノックは普段の食事、直前の食事、ペースなど様々な要因によって起きることがあります。
      ジェル系はお好みで。レースの途中なら飲んでOKだと思います。

      1. 早速のご返答ありがとうございます!走りたいのですが痛みがありじっと我慢の日が続いてます。

  2. 清水先生、こんにちは。

    インスリンは身体に脂肪を蓄積させ、容赦無く太らせるだけでなく、重大な疾患まで惹き起こす可能性がありますが、ほんのわずかでも分泌量が増加しただけで人体に害を及ぼすようですね。

    外国で、(筋肉を膨らませる目的で)インスリンの注射を繰り返していたボディビルダーがある日突然死んだ、という報道が時折出ますが、その際の死因は大抵は「不明」と言われます。
    高血糖とインスリンの害を分かっている人なら、
    「不明?何を寝ぼけているのか。インスリンを注射しまくったからだろ」と突っ込むでしょう。

    インスリンは生命維持に欠かせないホルモンであるはずなのに、なんでこうも命の危険に直結するような作用を示すのでしょうか?

    1. クリードンさん、コメントありがとうございます。

      人間がいつの間にか、進化の過程で獲得したメカニズムに反した食事をするようになったからだと思います。

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