LDLコレステロール値が低いと、驚くほど発熱、敗血症および悪性腫瘍の発生リスクが高くなるかもしれない

LDLコレステロールをいまだに医療の中では「悪玉」と考えている医師が多いのは事実でしょう。コレステロールそのものはLDLに含まれているものもHDLに含まれているものも同じであり、それを運んでいるLDLやHDLの質の問題が最もリスクと関連すると思います。

しかし、LDLコレステロール値を低下させることに懸命になることが最も良いことだ、と長年教育を受けてきたので、そう簡単には洗脳は解けません。

ある大規模な研究では、冠動脈疾患で入院した患者では、入院時のLDLコレステロール値が100mg/dL未満の患者がほぼ半数でした。つまり、正常だと言われている範囲の中にLDLコレステロール値があっても、冠動脈疾患には十分なり得るのです。逆い言えば、LDLコレステロール値は関連していないとも言えます。

にもかかわらず、そのような正常範囲のLDLコレステロール値で冠動脈疾患になるような人に対しては、もっとLDLコレステロールを低下させることが必要だと考えてしまっています。どんどんスタチンを使ってLDLコレステロールを低下させれば、リスクが低下するという幻想を抱いているのです。

しかし、今までにも書いてきたようにスタチンはほとんど効果がありません。(「スタチンは誇大広告で成り立っている?」「心血管疾患のリスクの低い人にスタチンを投与する意味はない?」など参照)わずかな差を大きく見せるトリックを使って、我々を騙しているしか考えられません。

そこで、まんまと騙されてLDLコレステロール値が70mg/dl以下という極端な低値になっても人間は大丈夫なのでしょうか?私は大丈夫ではないと考えています。コレステロール値が高くなるのはそれなりに体内の調節があってのことであり、不必要に高くなっているわけではないと思います。目を向けるのは別のものであるのですが、スタチンをいっぱい使うためにはLDLコレステロール値をターゲットにするしかないのです。集中的な脂質低下のためのスタチン療法に関するいくつかの研究では、全原因死亡率の有意な低下は見られていません。

今回の研究では、そんなLDLコレステロール値が極端に低値である人が様々なリスク増加に曝されている可能性を指摘しています。しかも、驚くほどリスクが高いのです。

LDLコレステロール値が70mg/dl以下のグループでは、肝臓がんやその他の固形癌との関連は認めなかったのですが、血液がんのリスクはなんと15倍以上にもなったのです。そしてLDLコレステロール値が増加するほど、そのリスクは低下するのです。

さらに発熱や敗血症といった感染のリスクに関しても70mg/dl以下のグループでは70mg/dl以上のグループと比較して、5.3倍に増加するのです。これらのリスクもLDLコレステロール値が増加するほど低下します。

LDLコレステロールが少ないことは感染のリスクを増加させると考えられています。LDL(HDLも)は細菌が出す毒素と結合する能力があります。そうすると炎症物質が減少します。LDLは感染と闘うことができるものなのです。

また、LDLはCoQ(コエンザイムQ10)を運んでいます。CoQはミトコンドリアの電子伝達系に必要なものだけでなく、抗酸化作用もあります。CoQの低下はミトコンドリアの機能を低下させ、ATP合成能が低下するので、エネルギー不足になりかねません。スタチンもCoQの合成を抑制するので、ミトコンドリア機能低下を起こすと考えられます。

LDLが減少すると、全身を循環するCoQを供給することを低下させることによって腫瘍性形質転換のリスクを増加させ、身体の細胞の抗酸化能を低下させる可能性があるとも考えられます。それが今回の血液がんの爆発的なリスク増加と関連している可能性は十分あるでしょう。

それでもまだLDLコレステロール値を低下させたい方は、それも自由です。自分でよく考えましょう。

 

「Low serum LDL cholesterol levels and the risk of fever, sepsis, and malignancy」

「血清LDLコレステロール値が低いことと、発熱、敗血症、悪性腫瘍のリスク」(原文はここ

要約

血清LDLコレステロール(LDL)の脂質低下療法は、心臓血管の罹患率および死亡率の低減に有益であることが判明している。最近、非常にリスクの高い患者の推奨LDLレベルは70mg/dl未満に低下し、そのような低レベルの代償はどうなるのかという疑問が生じた。この懸念を解明するために、低血清LDLコレステロール値(≦70mg / dl)と発熱、敗血症および悪性腫瘍の発生との関連性を調査した。203人の患者のチャートの後ろ向きの分析を行った。グループ1(n=79)は血清LDLレベル≦70mg/dlであり、グループ2(n=124)はレベル> 70mg/dlであった。グループ1では、血液がんのオッズ比が15倍以上増加した(OR 15.7)。LDLの1mg/dlの増加毎に、血液がんのオッズ比(OR 0.976)の2.4%の相対的減少と関連していた。低LDLレベルはまた、グループ間の発熱および敗血症のオッズを増加させた(OR 5.3)。要約すると、低血清LDLコレステロールレベルは、血液がん、発熱、および敗血症のリスク増加と関連していた。

4 thoughts on “LDLコレステロール値が低いと、驚くほど発熱、敗血症および悪性腫瘍の発生リスクが高くなるかもしれない

  1. メダボの保健指導をしており、気になり拝見しました。
    私はLDLが低くて、医者に心配ないと言われましたが、そうではないのですね。増やす方法はありますか?
    飽和脂肪酸を増やし、その分糖質を減らすやり方になりますか?
    風邪ひくと治るまで3〜4%週間かかります。
    微熱でも人より倦怠感が強めで、そこまでだるいのかと思われるくらいです。胃腸炎の時も。発熱時のタフさもLDLに関係しているのでしょうか。

    糖質は総エネルギーの50% ぐらい食べてます。肉(毎日)、魚(週2回)、豆類(毎日)食べてます。間食(毎日2回)
    運動なし、5000〜8000歩/日
    総コレステロール184
    LDL59
    HDL102
    中性脂肪57

    1. 堀さん、コメントありがとうございます

      保健指導をされているのであればご存知だとは思いますが、食事でコレステロールを食べても、LDLコレステロール値は上がりません。
      脂質のデータだけでは情報が少なすぎて何とも言えませんが、おっしゃる通り糖質を減らせば、風邪もひきにくくはなると思いますし、体調も良くなると思います。
      糖質50%、間食2回は人間には必要ではないと、私は思います。

      申し訳ありませんがLDLを食事で変化させられるかどうかは、現在のところはっきりした回答はありません。

  2. 早速ご返信いただき、ありがとうございました。
    LDL、食事の影響は少ないながらもあると理解しておりました。
    保健指導は2年目でまだまだ研鑽中です。記事が興味深く、参考にさせていただきます。

    1. 堀さん
      勘違いされないでいただきたいのですが、LDLだけでなく全てのデータは食事の影響を十分に受けます。
      ただ、私のコメントはコレステロールをたくさん食べたら、それがそのままLDL上昇にはならないという意味です。
      糖質制限とLDLコレステロール上昇3 脂質をもっと食べるべき?(人体実験)」などを参考にしていただければと思います。

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