昨日の記事「青山学院大学陸上部の血液データ」で、選手のLDLコレステロール値の低さを指摘しました。LDLコレステロール値が低いと「さすが、アスリートは健康的だな」なんて勘違いする方もいるかもしれませんが、低いコレステロール値は私は問題だと思っています。その一つがメンタルの問題です。
自殺などに関する研究なので大規模なものは非常に少ないのですが、実は非常に多くの研究で、低コレステロールと自殺やうつ病との関連が指摘されています。
ある研究では、総コレステロール3.47nmol/L(134mg/dL)未満であると、それ以上の人と比べて、自殺行動のリスクが5倍以上、HDLコレステロール1.17nmol/L(45mg/dL)未満では2倍のリスクがあると指摘しています。
またある研究では、うつ病の患者で自殺念慮のない患者では、平均の総コレステロール値は237mg/dL、LDLコレステロール値137mg/dlでしたが、自殺企図があった患者では総コレステロール値155mg/dl、LDLコレステロール値は92.8mg / dlでした。
さらに、うつ病の時期と寛解(症状が治まってい)時期でのLDLコレステロール値を比較すると、自殺念慮があるなしに関わらず寛解期の方がLDLコレステロール値が有意に高いのです。もちろん寛解したからLDLコレステロール値が上昇したのか、LDLコレステロール値が上昇したから症状が改善したのかはわかりません。
うつ病期 | 寛解期 | |
自殺念慮なし | 137 ± 36.2 | 154 ± 37.7 |
自殺念慮あり | 97.2 ± 27.1 | 126 ± 37.1 |
自殺企図の後 | 92.8 ± 26.9 | 116 ± 36.6 |
総コレステロール値が160mg/dl未満であり、LDLコレステロール値が100mg/dl未満であることは急性期のうつ病の自殺行動のリスクを反映している可能性が考えられます。
また、お隣の国韓国からの報告では、総コレステロール値が200mg/dl未満の人と比較して、240以上の人では自殺の死亡率が男性で46%低下し、女性で41%低下しました。
さらに、健常は人と比較して、自殺患者は総コレステロール、HDLコレステロールおよびLDLコレステロール値が低いことが認められ、最も高い血清総コレステロール値の群と比較して、低い総コレステロール値の群は、自殺の試みのリスクが123%高く、自殺の完了のリスクが85%高いなど、自殺のリスクが112%高かったとしています。
さらにさらに、ある研究では自殺リスクの評価で、総コレステロール値の最高四分位の人と比較して、最低の総コレステロール値の群では自殺の試みのリスクが、男性では7.33倍、女性では15.6倍に増加することを指摘しています。
多くの研究は総コレステロール値の低下によるリスクの増加を示しているので、LDLコレステロール値低下との関連は少ない可能性はあるかもしれません。
どうして、コレステロールが低下すると、うつ病になったり自殺するリスクが増加するのかはまだはっきりしていません。コレステロール低下によるセロトニン前駆物質減少仮説というのもありますが、本当かどうかは疑問です。コレステロールは細胞膜を構成しますし、神経細胞には無くてはならないものです。しかし、血中のコレステロールは血液脳関門を通過できないので、直接血液からコレステロールが脳に届けられるわけではありません。
しかし、コレステロールの合成能が低下していると、中枢でのコレステロールの合成も低下している可能性は十分考えられます。
女性のアスリートの3主徴「low energy availability(ローエナジーアベイラビリティ・利用可能エネルギー不足)」「無月経」「骨粗鬆症」があります。以前はローエナジーアベイラビリティではなく、摂食障害でしたが、現在は摂食障害の有無ではなく、このようにエネルギー不足を指摘しています。しかし、心理的精神的に深刻な症状を呈する場合もあります。生理が止まることも合わせて考えると、やはりコレステロールの低下が大きな原因の一つだと考えられます。
では、なぜ彼ら長距離の選手のコレステロールの合成能が低下、または利用能が亢進しているのか?激しい毎日の練習やレースで消耗して利用能が亢進している可能性はもちろんあります。しかし、利用能が亢進したらその分合成能が高くなれば済む話ですが、それ以上の運動をしてしまっている可能性はあります。絶対的なコレステロール合成能の低下または相対的なコレステロール合成能の低下があるのでしょう。
それを解決するのによくある話が、バランスの良い食事です。しかし、青山学院の選手たちはみんな寮に住んでいて、原監督の奥さんが毎日朝晩食事を作っています。いわゆる「バランスの良い」食事です。しかし、それがこのような持久系の運動には「バランスが悪い」食事なのかもしれません。
どうしてもアスリートの場合、貧血などや持久系の運動の場合はCPKなどに目が行きがちですが、もしかしたらコレステロールもしっかりと管理すべきかもしれません。アスリートのメンタルヘルスは重要だと思います。
では、コレステロールを増やす食事とは?わかりませんが、何とか考えていずれ記事にしたいと思っています。
「Levels of serum total cholesterol and LDL-cholesterol in patients with major depression in acute period and remission」
「大うつ病の急性期および寛解の患者における血清総コレステロールおよびLDLコレステロール値」(原文はここ)
「Measurement of total serum cholesterol in the evaluation of suicidal risk」
「自殺リスク評価における総血清コレステロールの測定」(原文はここ)