以前の記事「レムナントリポタンパク質は食後12時間経っても大量に残っている」で書いたように、空腹時であっても相当量のカイロミクロンのレムナントが残っています。
健康な人におけるカイロミクロンの中性脂肪の半減期は非常に短く、約5分と言われています。カイロミクロンの粒子自体の半減期は、なかなか適切な測定が困難であるため、はっきりしたことはわかりませんが、ハーパー生化学には半減期が1時間と書かれています。ただカイロミクロンの粒子の半減期は、カイロミクロンの中性脂肪の半減期よりも確かに長く、非常に不均一であると思われます。
カイロミクロンのレムナントは、もともとのカイロミクロンの大きさが非常に大きいため、相当な中性脂肪を失った後であるにもかかわらず、VLDLと同じような大きさであることもあるかもしれません。そうするとカイロミクロンのレムナントが消えるのも、少なくとも同じようなサイズのVLDL粒子と同じような長さではないかと考えられます。しかし、その後もだんだん小さくはなったとしても12時間後の空腹時でも、健康な人でさえかなりのカイロミクロンのレムナントが残っています。
高中性脂肪と低HDLコレステロールの群では、正常と比べてカイロミクロンのレムナントコレステロールは約11倍、カイロミクロンのレムナント中性脂肪は約6倍と前回の記事では書きました。
下の研究データは健康な日本人男性に脂肪負荷試験をした時のものです。
0 hr | 2 hr | 4 hr | 6 hr | |
TC | 208±7 | 207±6 | 209±6 | 208±5 |
TG | 101±15 | 153±18† | 210±31† | 165±33* |
HDL-C | 70±6 | 70±6 | 68±6 | 68±8 |
LDL-C | 121±8 | 121±9 | 118±8* | 119±7 |
RLP-C | 4.8±0.5 | 6.6±0.5† | 8.2±1.1† | 8.0±1.6* |
RLP-TG | 13±2 | 58±9† | 100±20† | 69±20† |
ApoB | 100±5 | 101±6 | 100±5 | 100±6 |
ApoB-48 | 0.53±0.04 | 0.82±0.08† | 0.99±0.14† | 0.92±0.14† |
RLP-TG/TG | 0.13±0.04 | 0.41 ±0.12 | 0.46±0.14 | 0.36±0.13 |
RLP-TG/RLP-C | 2.8±0.4 | 8.5±0.9† | 12.3±1.5† | 7.8±0.9† |
このデータでわかることは、まずApoBが脂肪負荷の後で変動していないことです。ApoBの多くはApoB100という、VLDLやLDLのアポリポタンパク質です。VLDLは肝臓で作られます。ApoBが変化していないということは、肝臓が分泌するVLDLはほとんど脂肪負荷で変化しないということです。ApoB48というカイロミクロンのアポリポタンパク質は脂肪負荷後に4時間後をピークとして増加しています。
中性脂肪を見てみると、これも4時間後をピークに激増していますし、レムナントの中性脂肪もこれまた4時間後をピークに激増しています。中性脂肪の増加が109であり、レムナントの中性脂肪の増加が87です。つまり、増加した中性脂肪の約80%はレムナントのものです。
そして、VLDLは増加せず、カイロミクロンはApoB48の増加から考えて、増加しているのは明らかなので、このレムナントの中性脂肪の多くはカイロミクロンのレムナントだと考えられます。
ApoB48は6時間後でもそれほど減少していないので、サイズは小さくなったとしても、まだまだしばらく残存したままだと考えられます。
6時間後まで4時間後にLDLコレステロール値がやや低下した以外、HDLもLDLもほとんど変動していません。
さらにほかの研究データを示します。健康な人の空腹時と朝食後4時間後、そして朝食から4時間後には昼食を摂り、その4時間後(朝食から数えると8時間後)のデータです。
変数(mg/dL) | 空腹時 | 食後 | |||
---|---|---|---|---|---|
4時間 | 変化率(%) | 8時間 | 変化率(%) | ||
TC | 184.9(21.4) | 181.7(22.6) | -1.8(3.3)* | 182.2(21.9) | -1.4(5.3)* |
TG | 90 [71-117] | 116 [97-159] | +50 [21-76] † | 132 [90-230] | +65.8 [30-86] † |
HDL-C | 52.4(8.6) | 49.2(9.3) | -6.3(6.6)* | 47.7(10.5) | -9.6(8.8)† |
非HDL-C | 132.5(23.9) | 132.5(25.9) | -0.2(4.8)* | 134.5(27.6) | +1.3(7.5)* |
LDL-C | 111.8(20.8) | 105.6(21.2) | -5.6(4.2)† | 105.2(20.5) | -6.0(5.5)† |
RemL-C | 5.4 [3-7] | 5.9 [4-8] | +32.6 [6-48] † | 5.7 [4-11] | + 22.6 [6-62] * |
総ApoB | 81.2(14.1) | 79.8(14.0) | -1.6(6.4)* | 79.2(15.6) | -2.7(6.7)* |
Apo B-48 | 0.51 [0.4-0.8] | 1.24 [0.9-1.4] | +121.3 [90-163] ‡ | 1.42 [0.9-2.0] | +147.2 [94-231] ‡ |
先ほどの研究と同じように、ApoBは変化していないばかりかやや低下しています。その一方でApoB48は朝食後4時間で増加し、昼食後4時間でさらに増加しています。中性脂肪も4時間後増加し、昼食後4時間後でもさらに増加しています。つまり、ここでも中性脂肪値の増加はカイロミクロンによるところが非常に大きいことがわかります。LDLやHDLは、むしろ低下していることも先ほどと同じです。
この研究では肥満の人のデータも取っていますが、肥満の人ではやはり空腹時のApoB48が0.82と高くなっています。やはり、カイロミクロンのレムナントが消え切っていない可能性があります。
このように食事を4時間ごとのように頻繁に摂っていると、中性脂肪値は上がり続け、レムナントも増え続けるように思えます。つまり、悪さをしているのはLDLではなく、レムナントである可能性の方が高いのではと考えられるのです。
食後にTGスパイクを起こす人は、恐らくカイロミクロンが激増し、その後のカイロミクロンのレムナントも非常に大量にできていると考えられます。実際の粒子の数はVLDLとは比べ物にならないほど少ないカイロミクロンですが、その大きさからかなりの影響力があると考えられます。
カイロミクロンそのものが悪いとは思っていません。そのレムナントが悪さをしているのではと考えています。
「Fasting and postprandial apolipoprotein B-48 levels in healthy, obese, and hyperlipidemic subjects」
「健常者、肥満者、および高脂血症患者における空腹時および食後のアポリポタンパク質B-48レベル」(原文はここ)
「Remnant Lipoproteins: A Subfraction of Plasma Triglyceride-Rich Lipoproteins Associated with Postprandial Hyperlipidemia」
「レムナントリポタンパク質:食後の高脂血症に関連する血漿トリグリセリドに富むリポタンパク質のサブフラクション」(原文はここ)