先日、あるネットの記事についてコメントを頂きました。内容はセカンドミール効果と言われるものについてです。
その記事のオリジナルはここです。「昼食後の血糖値スパイクを抑えるには朝食から対策!この食品を食べると良い」
記事の解説は 大妻女子大学 というところの教授です。食物繊維が血糖値の上昇を緩やかにし、とった食事の効果が次の食事に現れる「セカンドミール効果」、というものについて書かれています。また、レジスタントスターチという難消化性のでんぷんについてもその効果を説明しています。根拠となる研究は示されていません。
そのセカンドミール効果のメカニズムは、腸内細菌は水溶性食物繊維をエサにして増殖して、短鎖脂肪酸(酪酸や酢酸など)を作り出し、小腸にある細胞(L細胞)が刺激されてGLP-1という消化管ホルモンを分泌します。このGLP-1 が、血糖値が上がる前に、先回りしてインスリンを分泌させ、血糖値の上昇を抑える、というものです。
だから、食物繊維やレジスタントスターチを朝食に摂ろうと言っています。なるほど。
では、実際に朝食に食物繊維が少ない食事と、多い食事と比較して、昼食後の血糖値上昇に違いがあるかどうかを調べた研究を見てみましょう。今回の研究は2型糖尿病の人を対象にしています。(図は原文より、表は原文より改変)
朝食A | 朝食B | 昼食 | |
---|---|---|---|
エネルギー (kJ) | 1833 | 1515 | 2378 |
タンパク質 (g) | 19 | 15 | 24 |
炭水化物 (g) | 78 | 62 | 75 |
Tat (g)←これは何かわかりません。 脂質でしょうか? | 5.5 | 6.0 | 19 |
食物繊維 (g) | 3.4 | 12.4 | 2 |
水溶性食物繊維 (g) | 1.0 | 6.6 |
上の表は朝食の組成です。朝食Aはファリーナ(穀粉)を含む高血糖負荷の食事で、朝食Bは食物繊維の入ったシリアルを含む低血糖負荷の食事です。朝食Bにはたっぷりの水溶性食物繊維が含まれています。比較するためにファリーナのみの食事を朝食Cとしました。
上の図は朝食から始まり、4時間後に昼食を摂り、トータル7.5時間の血糖値の推移です。図は表示が間違っており、□が朝食Cで、△が朝食Bだと思います。朝食Aは230くらいまで上昇し、朝食Bでは200くらいまで上昇していました。。朝食後の血糖値のピークは60~90分後です。明らかに朝食A(約75g)よりも朝食Bの方が糖質は少ない(約50g)ので、朝食後の血糖値の差30というのは妥当な線でしょう。そしてどちらも昼食後の血糖値の上昇幅は明らかに朝食よりも低下しています。どう見ても昼食後に食物繊維の良い影響は認められません。
ただ、どちらの朝食も、昼食前の血糖値も450分時の血糖値も朝食前のベースラインよりも下回っています。
上の図はインスリン値です。朝食後は60~90分がピークで、朝食Aの方が明らかに高く75くらいです。朝食Bは45くらいです。昼食後も一時的には朝食Aの方が明らかに高くなっていますが、どちらも朝食後よりも昼食後の方がインスリンの分泌量は少なくなっています。210分のインスリン値でもベースラインまで低下していないので、昼食時には空腹時と比べるとインスリンの追加分泌がすでに起きている状態での食事になるので、血糖値の上がり方が少ないのであると思われます。
時間 | 朝食A | 朝食B |
---|---|---|
午前 | ||
血糖 (mg/dl/h) | 6.45±0.04 | 6.36±0.04 |
インスリン (μIU/ml/h) | 4.86±0.11 | 4.47±0.10 |
午後 | ||
血糖 (mg/dl/h) | 5.84±0.03 | 5.92±0.03 |
インスリン(μIU/ml/h) | 4.23±0.06 | 4.55±0.06 |
上の表は血糖とインスリンの曲線下面積を午前と午後でそれぞれ見ています。午前、つまり朝食による血糖とインスリンの曲線が描く面積は、朝食Bの方が朝食Aよりも少なくなっています。しかし、午後つまり昼食による面積はインスリンで朝食Bの方が逆に多くなっているのです。血糖値に関しては有意差は無いですがやや朝食Bの方が多く見えます。
つまり、食物繊維豊富な朝食による影響は昼食後の血糖値やインスリン値に小さいながらも負の影響を与えたことになります。
どうやら2型糖尿病では、食物繊維にセカンドミール効果は期待できないようです。朝食後の血糖値の差も単純に糖質摂取量の差と言えるので、やはり糖質をどれだけ摂るかが問題でしょう。食物繊維による血糖値の上昇のピークが30分程度遅くなる可能性はありますが、食後血糖値の上昇幅には食物繊維の影響は非常に小さいようです。
セカンドミール効果は恐らく、食物繊維などに限ったことではなく、朝食と昼食の時間間隔の関係が全てではないかと思います。つまり、ファーストミール摂取によるインスリンの追加分泌がまだベースラインに戻っていない状態でセカンドミールを食べれば、当然ファーストミールよりも血糖値の上昇が少なくなると思われます。
朝食に何も食べなかった人は、昼食を摂った際に血糖値が急上昇するのに対し、朝食を摂った人は昼食後の血糖値の上昇が緩やかなのは、糖質過剰摂取であれば当然でしょう。ただ、朝食を非常に早い時間に摂って、昼食までの時間が非常に長い場合には恐らくセカンドミール効果は起きないでしょう。
しかし、このことが1日3食規則正しく食事をすることが健康に良いことの根拠として使われてしまいます。朝食を食べようが食べまいが、糖質制限であれば、昼食の血糖値の急上昇はありません。糖質過剰摂取であれば、朝食を摂った人の朝食後の血糖値急上昇は起きるのですから、 昼食後の血糖値の上昇が穏やかになったとしても全く健康的ではありません。
ところで、GLP-1の効果はどこに行ってしまったのでしょう?少なくとも糖尿病の人はこのような本当に効果があるかどうかわからないものに期待するよりも、糖質制限をする方が確実な効果があります。
次回はGLP-1についても考えてみたいと思います。
「Effects of breakfast meal composition on second meal metabolic responses in adults with Type 2 diabetes mellitus」
「2型糖尿病の成人におけるセカンドミール代謝反応に対する朝食の組成の影響」(原文はここ)