マルトデキストリンはデンプンの分解によって作られる糖質で、甘味はそれほど強くなく、ブドウ糖と同程度に速く吸収されるので、マラソンなどの時のエネルギージェルなどに多く使われています。
今回の研究では糖質(マルトデキストリン)だけの場合と植物性(大豆、米、グルテン、エンドウ)および動物性(卵、乳清)由来のタンパク質を同時に摂取した場合について分析しています。体重1 kgあたり0.2 gのマルトデキストリンのみを摂取する場合と、そのマルトデキストリンに様々なタンパク質を体重1 kgあたり0.2 g同時摂取する場合を比較しています。(図は原文より)
上の図の凡例は上からエンドウ、米、大豆、グルテン、乳清、卵、糖質のみです。図のaは血糖値の変動です。bは血糖値の2時間の曲線下面積です。血糖値は日本の単位にする場合は18をかけてください。そうすると、糖質のみの場合が最も血糖値を上げました。およそ30分でピークとなり、30ぐらいの上昇です。タンパク質の同時摂取ではどれもピークが15分で10~20程度の上昇です。30分値ではエンドウ、大豆、グルテン、乳清タンパク質で糖質のみよりも有意に低い値を示しています。しかし、その後の60分の値を見ると、タンパク質同時摂取ではベースラインよりも低下しています。乳清では他のタンパク質と有意差はありませんが、ベースラインより35程度の低下です。ベースラインを95としたら血糖値が60まで下がることになってしまいます。
2時間の曲線下面積ではエンドウ、大豆、グルテン、乳清で有意に糖質のみよりも低下しています。
上の図はインスリン値の変化です。糖質のみが最も増加量が少なく、乳清が最も増加しピークの増加幅は約3倍です。30分値は、糖質のみと比べてエンドウ、米、乳清タンパク質で有意に異なりました。インスリンの2時間の曲線下面積では大豆以外は糖質のみよりも大きくなりました。タンパク質の種類による有意差はありません。
上の図はグルカゴンの変化です。30分の値は、すべてのタンパク質を含んだもので糖質のみと比較して有意に高くなりました。糖質のみではベースラインよりも低下しています。そして、グルテンだけがグルカゴンの増加が弱く、だらっと下上昇を示し、低下する速度が遅くなっています。グルカゴンの曲線下面積で見ると、当然糖質だけと比較してどのタンパク質を含むものも大きくなっていますが、タンパク質同士を見ると、卵と比較してグルテンだけが小さくなっています。
様々な分析をすると、BCAA(分岐鎖アミノ酸)(バリン、ロイシン、イソロイシン)がインスリン反応の変動性の73%を説明しました。さらに、BCAAはグルカゴン反応の変動性の50%を説明しました。つまり、BCAAがインスリンとグルカゴンの変動性を予測する最も大きな因子であると考えられます。そう考えると、グルテンはBCAAをほとんど含まないことから、インスリンとグルカゴンの増加量が少なかった可能性があります。
そうすると、マラソンなど前にBCAA入りのエネルギージェルを摂取することは非常にマイナスになる可能性があります。インスリンを大量に分泌する可能性があるからです。インスリンが分泌されれば、その間脂肪をエネルギーにしにくくなってしまいます。つまり、持久系の運動であるのに糖質メインでエネルギーにしなければならなくなり、エネルギー切れを起こしやすくなってしまうのです。
よく筋肉を構成しているのはBCAAの割合が非常に多いので、運動時にBCAAを補給すると筋肉が分解されにくくなるなんていうことが言われています。しかし、本当かどうかは非常に怪しいです。
アミノバリューのホームページには次のようなことが書かれています。
「ランニングのような持久運動を行うとカラダは糖質や脂肪、血液中のBCAAをエネルギー源としますが、それがなくなると自らの筋肉の材料となっているBCAAをエネルギー源として利用するために、筋肉の分解を始めてしまいます。」
果たしてランニング中にエネルギー源となる糖質も脂肪もなくなるでしょうか?脂肪はたっぷりあります。糖新生もできます。それなのに大切な筋肉を分解するでしょうか?レース中ならまだしも、レース前にBCAAをあらかじめ摂取することにより、インスリンが分泌されると脂肪をエネルギーにできなくなり、筋肉が分解される可能性を高めるのではないでしょうか?そうなれば、レース中ずっと糖質とBCAAの補給が必要になってしまうのではないでしょうか?
もちろん今回の研究は運動はしていないので、どうなるかは不明ですが、BCAAは血糖値は大きくは上げない代わりに、インスリンをたっぷり分泌させている可能性があります。糖質制限でBCAA摂取ではどうなるかはわかりませんが。私は当然糖質制限で、卵やチキンやチーズをレース前に摂りますが、その中のBCAAはどのように作用するのか興味が非常にありますね。
「The effect of different protein hydrolysate/carbohydrate mixtures on postprandial glucagon and insulin responses in healthy subjects」
「健康な被験者の食後グルカゴンおよびインスリン反応に対する異なるタンパク質加水分解物/炭水化物混合物の効果」(原文はここ)