糖尿病の本質はインスリンなのか、グルカゴンなのか、それとも別のものか?それは別のものでしょう。人間の進化の過程で獲得したメカニズムに適応していない食事が原因です。もちろん糖質過剰摂取です。
ただ、糖質とタンパク質に対するインスリンの反応を考えると、まだ私が知らないことがいっぱいありそうです。
今回の研究では糖尿病の人と健康な人を対象に糖質だけ摂取した場合と、糖質+タンパク質同時摂取の場合で分析しています。
摂取するものは、1時間当たりで体重1㎏あたり0.7gの糖質(50%ブドウ糖+50%マルトデキストリン)とタンパク質+アミノ酸の混合物を同時に含むものと含まないものです。タンパク質+アミノ酸は1時間当たりで体重1㎏あたり0.35gの量で、カゼイン加水分解物として50%、遊離ロイシンとして25%、フェニルアラニンとして25%です。(図は原文より)
上の図のAはインスリン値です。Bは3時間のインスリンの曲線下面積です。白が糖質のみ、黒が糖質+タンパク質です。Aの四角のグラフがコントロールで、丸のグラフが糖尿病で、横軸は時間です。Bの左が糖尿病で、右がコントロールです。
そうすると、最もインスリン分泌の少ないのは糖尿病の糖質のみの場合です。やはりβ細胞の機能が低下しているのでしょう。逆に最もインスリン分泌が多いのは健康な糖質+タンパク質摂取の場合です。しかし、糖尿病で糖質のみの場合と比較すると糖尿病の糖質+タンパク質摂取ではものすごい量のインスリンが分泌されています。糖質のみの場合の約3倍です。糖尿病ではインスリンの分泌能が低下していると考えられるのに、タンパク質を同時に摂取するとこんなにもインスリンが分泌されるのです。本当は分泌能は維持されているのでは?それとも、残り少ないβ細胞が力を振り絞っているのでしょうか?
上の図はCペプチドとプロインスリンの値です。プロインスリンのベースラインでは健康な人よりも糖尿病で高値になっています。しかし、どちらもタンパク質を同時に摂取すると増加しています。糖質摂取でのβ細胞で作られるプロインスリンは糖尿病でも健康でも違いがないように見えます。そして糖尿病でタンパク質を同時摂取した場合のプロインスリンは最も高くなっていることを考えると、β細胞はインスリンを作り出す機能は十分に残存していると考えられます。それにも関わらず、酵素で分解されたインスリンとCペプチドが糖尿病で低下しているということは、酵素の不足または酵素の作用不全があるのかもしれません。それとも、血中のプロインスリンの値はβ細胞のインスリン産生能を反映していないのでしょうか?インスリン抵抗性や薬物による過剰なインスリン分泌促進によりβ細胞に負担がかかると、プロインスリンがプロセッシングされずに血中に分泌される結果、高プロインスリン血症になると考えられています。
しかし、タンパク質を同時摂取するとちゃんとインスリンが分泌されるではありませんか?タンパク質の場合はプロインスリンも増加しますが、インスリンもCペプチドも増加しているのです。
タンパク質を摂取した時のインスリンの増加、Cペプチドの増加の大きさを考えると、β細胞は糖質よりもタンパク質により反応している可能性があります。つまり、糖尿病は糖質に対する反応不全であり、タンパク質に対する反応は大きく低下していないのではないかと考えられるのです。タンパク質に対する反応は十分にあるということは、グルカゴンとの関係が強いのでしょうか。血糖の上昇よりもタンパク質摂取によりグルカゴンが分泌され、それに伴うインスリンの分泌は糖尿病でも十分分泌されているのです。同じすい臓の中のランゲルハンス島(すい島)に隣り合わせに存在するので、糖質に対する信号伝達とタンパク質に対する信号伝達は別の経路なのかもしれません。プロインスリンを分解する酵素の不足や作用不全であれば、タンパク質同時摂取でも、糖尿病の場合にはインスリン分泌量はそれほど増加しないはずです。β細胞に負担がかかり、プロセッシングされずにプロインスリンが出るという考えが正しいのであれば、タンパク質同時摂取でもインスリン増加はもっと少ないのではないでしょうか?タンパク質摂取時の酵素は実は別の酵素が出るのか、それともグルカゴンに酵素を増加させるような作用があるのか?グルカゴンにそのような作用があるのであれば、糖尿病でのグルカゴンの増加は矛盾するように見えます。
ただこのことにより、やはりインスリンも進化の過程で獲得したメインの作用は、タンパク質の代謝に関係したものだと思われます。より重要な機能は最後まで残存し、もともとはそれほど重要ではない糖質の代謝機能が最初に障害されるのかもしれません。
謎ですね。まだまだ私にはわからないことばかりです。
上の図のAは血糖値、Bは血糖値の3時間の曲線下面積です。当然糖尿病の方が高くなりますが、タンパク質同時摂取では、糖質のみよりも血糖値は低下しています。この結果により、ピークの血糖値が低下するので、糖質を摂る場合タンパク質も同時に摂取すると有益だと思う人もいるかもしれません。しかし、その分インスリン分泌が大幅に増加しているのです。高インスリン血症も有害です。
糖質とタンパク質同時摂取の血糖値低下の反応を利用すると、脂質制限は理にかなっていると勘違いしてしまうかもしれません。食事療法でカロリー制限食でエネルギー量を減らすために脂質を制限する食事は、インスリン分泌を増加させ、血糖値を低下させる可能性があるのです。
しかし短期的に見れば、それでも良いのかもしれませんが、長期的にみると、インスリン分泌量は増加してしまい、β細胞はどんどん疲弊してしまいます。そうすると結果的には糖尿病の悪化を促進しているようにも考えられます。そうだとすると、糖尿病の人はタンパク質の過剰摂取も有害である可能性があります。(「高タンパク質摂取による有害性は? その1」参照)
ただ、今回の研究のように、糖質に対するインスリンの反応は低下しているのに、タンパク質に対する反応は低下していません。これをどう考えるかですね。もともと糖質は大した量ではないはずで進化した人間は、最初は大量に入ってくる糖質にしっかりと反応していて、β細胞が酷使され続けた。このままでは非常に重要なタンパク質に対応できないので、糖質に対する反応を抑制した、またはいつも大量に糖質が入ってくるので糖質に対する反応低下を起こした。その結果、反応はタンパク質のみに集中した。つまり、糖質に対するインスリン分泌のメカニズムとタンパク質に対するインスリン分泌のメカニズムは別であるので、糖尿病になってもタンパク質のインスリン分泌は十分に残存しているのではないでしょうか?β細胞にも担当者がいて、糖質とタンパク質では担当者が違う?それとも、タンパク質では別の臓器もインスリンを分泌している?
そういえば、タンパク質摂取でインスリンが分泌されるメカニズムを私は理解していないかもしれません。グルカゴンが催促するの?グルカゴンに催促されたら、残り少ないβ細胞は断り切れなくてインスリンを出してしまうの?
もう少し勉強してみます。知っている人がいたら教えてください。
「Co-ingestion of a protein hydrolysate and amino acid mixture with carbohydrate improves plasma glucose disposal in patients with type 2 diabetes」
「タンパク質加水分解物とアミノ酸混合物と炭水化物の同時摂取は、2型糖尿病患者の血漿グルコース処理を改善する」(原文はここ)
テーマから少しズレると思いますが。
「タンパク質は食いだめできない」
と言われていますが、そこにどうしても疑問があります。
ヒトの体はエネルギー確保のために余剰栄養分を脂肪に変換して蓄積するシステムは厚いですよね。
古の人類が肉食中心であって狩猟生活が長かったとしても、そんなに確実に豊富に肉を食せたともなかなか考えにくい。肉食の野生動物を見ても分かるように。
では、食いだめの出来ないタンパク質、狩猟採集で肉体を酷使するであろうに、ちょっと肉にありつけなかったら自らの筋肉を分解して得ていたのでしょうか?
それこそ生命の危機に直結するのではないかと思うのです。
タンパク質を貯めることが出来ないとすれば、せめて筋肉の分解を防ぐシステムがあってしかるべきだと考えますが。
タンパク質を分解して脂質や糖質を得ることは出来ても、逆は出来ないのであれば、筋肉はどうやって保全されているのでしょう。グルカゴンやインスリンは、そういうことに関与しているということでしょうか。
ねけさん、コメントありがとうございます。
ケトン体の存在が関係していると私は考えています。
今日の記事を読んでみてください。