ピル(経口避妊薬)による脳の重要な部位が小さくなる可能性

女性は月経というものがあります。簡単にその流れを見ていくと、

脳の視床下部から性腺刺激ホルモン放出ホルモンが分泌されます。


性腺刺激ホルモン放出ホルモンの刺激により脳の下垂体から卵胞刺激ホルモン(FSH)
が分泌されます。


FSHにより刺激された卵巣で卵胞が成長し、この卵胞からエストロゲンが分泌されます。


エストロゲンの作用により子宮内膜が厚くなり、卵胞が成長し、卵胞から分泌されるエストロゲン値がピークに達すると、下垂体から排卵を促す黄体化ホルモン(LH)が分泌され、卵胞から卵子が排出(排卵)されます。


排卵後の卵胞は黄体となり、この黄体からプロゲステロンが分泌されます。

黄体が白体に変化するとともに、プロゲステロンは減少して、子宮内膜もがはがれ落ち排出されます(月経)。

このように視床下部-下垂体-卵巣へとホルモンの流れがあります。エストロゲンには視床下部に正または負のフィードバックがあります。女性はこのホルモンの上がり下がり、つまり月経周期により精神的な変動や、体重の増減を経験する人も少なくないでしょう。

アスリートとなると、この月経周期とコンディションの問題があります。欧米ではアスリートでなくても一般の女性がピルを使用していることは珍しくありませんが、日本では使用率が非常に少ないです。

女性アスリートでは2008年の報告では欧米で80%以上がピルを使用していましたが、日本では2012年の報告では2%と極端に少ないと報告されています。本当にこんなに少ないかな?市民ランナーレベルでもレースに合わせてピルを使用している人が結構いることは聞いたことがありますし、陸上をしていた女性は高校生からピルを使用していて、周りもほとんど使用していたと話していました。恐らくはもっと割合は多いと思います。

女性アスリートに対して、産婦人科医の中では積極的にピルの使用を推奨している人も最近は多いと思います。

さて、この月経に関わるホルモンの最初にある視床下部ですが、他のホルモンにも関連しています。

視床下部-下垂体ー副腎(HPA軸)というホルモンの流れも重要です。この流れはストレスに対する応答、摂食、情動などに関わっています。うつ病もこのHPA軸が大きく関連していると考えられています。ストレスに曝されると脳の視床下部より副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモン(CRH)を分泌し、そのCRHは脳の下垂体からの副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)分泌を促し、これが副腎皮質からのグルココルチコイド分泌を促します。ストレス刺激が過剰に伝わらないようにHPA軸の亢進は負のフィードバックによって、グルココルチコイドは視床下部や下垂体を通じてCRHやACTHの分泌を抑制しています。しかし,ストレスがずっと続くと、持続的にグルココルチコイドが上昇してしまいます。うつ病ではグルココルチコイドの上昇によるHPA軸の負のフィードバック機能が障害されていることが多くあります。

通常では末端の卵巣や副腎からのホルモン分泌は脳へのフィードバック機能があるのです。

視床下部に対するピル(経口避妊薬)を含む性ホルモンの構造的な影響は十分にはわかっていません。ピルでホルモンの分泌をコントロールしてしまうと、このフィードバック機能が障害されてしまうのかもしれません。

今回の研究はまだ、学会発表のみで論文になっていませんので、注意が必要ですが、ピルを使っている健康な女性の脳のMRIを見てみると、ピルを使用していない人とは明らかな差が認められました。

ピルを使用している人では明らかに視床下部の容積が小さくなっていました。さらに、視床下部の容積が小さいことは、強い怒りやうつ症状と強い相関が認められました。

つまり、ピルの使用は脳の構造、特に非常に重要な部位である視床下部に影響する可能性があります。

ピルは海外では避妊の最も一般的な方法1つです。日本では非常に避妊法としての使用は少ないでしょうが、月経不順、にきび、子宮内膜症、多嚢胞性卵巣症候群などの多くの疾患の治療にも使用されます。治療として必要であるのであればピルの使用は非常に有益かもしれません。ただ避妊以外は糖質過剰症候群とも考えられるものも多いので、糖質制限も非常に有益だと思われます。

しかし、女性で運動のために頻繁にピルを使用すべきかどうかはよく考える必要があるでしょう。オリンピックレベルのエリートのアスリートであれば、健康は二の次で競技に打ち込むのも良いとは思いますが、レジャーレベルの運動や中高生の頃からのピルの使用は十分に検討した方が良いと思います。

まだ、ピルの脳への影響は十分なことがわかっていません。この研究の全容も良くわかっていませんので、そのまま鵜呑みにすることはできませんが、無視もできません。

運動中毒(exercise addiction)とも言える女性アスリートも少なくないと思います。摂食障害を示す人は、摂食障害ではない人よりも運動中毒に苦しむ可能性が3.7倍高いという研究もあります。(その論文はここ

女性アスリートの三主徴は以前は「摂食障害」、「無月経」、「骨粗鬆症」でしたが、2007年に適切なエナジー・アベイラビリティーが確保されれば正常な月経、骨の健康も維持されるという考え方から、「摂食障害の有無に関わらない低エナジー・アベイラビリティー」、「機能性視床下部性無月経」、「骨粗鬆症」の3つに変更されました。しかし、摂食障害が関係している人も多いでしょう。いまだにスポーツに対しては十分な糖質が必要とされていますし、脂質は体重管理に影響を与えると信じられています。指導者から痩せることを強要される女性アスリートもいるでしょう。

食べるという行動は視床下部の摂食中枢と満腹中枢によって調整されています。そこに影響を与える可能性のあるピルはアスリートの摂食障害にとって良いのか悪いのかもわかりません。

進化の過程では、アスリートのような激しい運動は、危険を伴うような行動であり、女性はそのような運動に適応していないのではないかと思われます。男性のように女性が激しい運動をすること自体が何らかの有害性を持っているかもしれません。激しい運動、間違った食事や栄養学、ホルモン分泌への操作などが女性にどのような影響を与えるかはもっと考えるべきだと思います。

「Study Finds Key Brain Region Smaller in Birth Control Pill Users」

「この研究は、避妊薬の使用者の主要な脳領域が小さいことを見つけた」(プレスリリースの原文はここ

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