新型コロナウイルスと血栓症 その6 血栓症と男女差

最近、新型コロナウイルスの血栓症の報道が少しずつ増えてきました。先日の記事「新型コロナウイルスと血栓症 その5」では、年齢と共に凝固因子が増加することを書きました。

実際に、通常の状況での血栓症は年齢と共に増加します。そして男女による差もあります。(図は原文より、表は原文より改変)

データは海外のものなので日本とは少し違いますが、年齢別で見てみると、閉経前の特に妊娠可能年齢では女性の方が静脈血栓症が多くなっています。さらに、欧米では妊娠可能年齢では経口避妊薬を飲んでいることも多いので、それが血栓症リスク増加の要因にもなっています。閉経後でも女性ホルモン療法は血栓症のリスクとなるでしょう。しかし、60歳以降は明らかに男性のリスクが高くなっています。

静脈血栓症の危険因子
オッズ比 男性オッズ比 女性
遺伝的危険因子
 第V因子(FV)ライデン3.7(3.0–4.6)3.1(2.4–3.8)
 プロトロンビンG20210A3.2(2.2–4.8)2.6(1.9〜3.5)
 血液型非O2.2(1.9–2.5)2.0(1.8–2.3)
後天的な危険因子
 ギプス使用14.5(7.7〜27.2)7.4(4.7〜11.6)
 入院8.6(6.6〜11.2)6.7(5.4〜8.4)
 手術6.4(5.0–8.1)6.8(5.4〜8.6)
 悪性腫瘍5.3(3.9〜7.3)5.0(3.8–6.6)
 外傷5.5(4.2–7.1)4.0(3.2–5.0)
その他
 身長170cm以上1.4(1.1–1.7)1.2(1.0–1.3)
心血管危険因子
 通常の体重(BMI 18.5~25)11
 過体重/肥満(BMI>25)1.5(1.3–1.6)1.8(1.6〜2.0)
 喫煙歴なし11
 これまでに喫煙1.2(1.0–1.3)1.3(1.2–1.4)

 

上の表は様々な血栓症の危険因子ですが、遺伝的なものはどうしようもありません。それ以外でもケガや入院などは当然、炎症を起こしたり、活動性が大きく低下するのでリスクが高くなるでしょう。体重や喫煙も少し関連しています。しかし興味深いことに身長も少し関連しています。身長が高くなると、下肢に血液がうっ滞しやすくなるということなのかもしれません。一般的には男性の方が身長が高いので、男性の血栓症が多い理由の一つかもしれません。

(上の図はここより)

上の図は生殖リスク因子(経口避妊薬、閉経後ホルモン療法、妊娠など)のない女性と比較した男性の静脈血栓症の起こりやすさです。BMIや喫煙で調整していますが、全体で男性は2.1倍もの危険性があると考えられます。

また、ある研究では、男性は女性よりも静脈血栓症の再発リスクが2.8倍高く、このリスクは、生殖リスク因子のある女性と比較して5.2倍、生殖リスク因子のない女性と比較して2.3倍でした。(この論文より)

どのようなメカニズムで男性の血栓症が起こりやすくなっているのか、は不明です。遺伝的要素が大きく関連しているとは思います。狩猟採取時代では、男性は狩猟を行う役割でしたので、外傷が多く、そのためすぐに出血を止めることができる遺伝子を持っていた方が生存に有利だった可能性があります。

いずれにしても、もともとの男性の血栓症のリスクの高さは、今回の新型コロナウイルスの血栓症にも大きく関係し、重症者や死者の男性の割合が高いことを説明すると思います。新型コロナウイルスでも死亡率では、男性は女性の2倍程度です。(この記事参照)血栓症リスクそのままです。

ニューヨークで、2020年3月23日から4月7日までの2週間にわたって、50歳未満の合計5人(33歳~49歳)の患者が、脳梗塞の新規発症した報告がありました。(論文はここ)5人の患者全員が新型コロナウイルス陽性でした。新型コロナウイルスの感染が広がる前の2週間の平均した50歳未満の脳梗塞発症は0.73人だったので、実に6.8倍です。5人中4人は男性です。

重症化、死者を減らすのであれば、もっと血栓症に対する注意が必要かもしれません。少なくとも無症状や軽症者の自宅療養ではパルスオキシメーターは必須にした方が良いでしょう。

 

「Differential risks in men and women for first and recurrent venous thrombosis: the role of genes and environment」

「初回および再発性静脈血栓症の男性と女性におけるリスクの差:遺伝子と環境の役割」(原文はここ

4 thoughts on “新型コロナウイルスと血栓症 その6 血栓症と男女差

  1. 母が使っていたパルスオキシメーターがあるのですが、肺炎ではどれくらいの値になるのでしょうか?

    1. まーさんさん、コメントありがとうございます。

      それは肺炎の程度、もともとの肺の状態で一概には言えません。高齢者、喫煙者でなければ通常は97以上程度を示すと思います。
      健康な状態でほとんど変動はありません。測定方法が正しければ通常は低下しません。それが2でも3でも低下しているのであれば、何かが起きています。
      しかし、今回は呼吸困難が表れる前に大きくパルスオキシメーターの値が低下することさえあるようです。
      それは肺炎ではなく肺塞栓によるものだと推測されます。

  2. 終息の見えないコロナ自体の怖さよりも、自分にとって非常に嫌な感じなのは
    マスメディアを巻き込み、自治体連合を「斬り込み部隊」に据えて、世論の「社会的な圧力」を下支えにした「問答無用的な自粛の押しつけ」。先の見えないトンネルというより、漆黒の穴倉に放り込まれた捨て猫のような気分です。

    そして政府・自治体の「大盤振る舞い」のあとにくるのはインフレ、物価の高騰、法定通貨の目減り、そして大増税・消費税の大幅アップ。なんせ戦時に匹敵する非常時ですからなんでもできます。

    降ってわいたような今回のコロナ禍、政府と「財界奥の院」的には結果オーライというところでしょうか

    1. やまもとさん、コメントありがとうございます。

      えせ正義の味方が急増中で非常に怖いですね。誰も経済的な補償をしてくれないのに、関係ない人が監視しあっている社会は異常です。
      恐怖で洗脳することは非常に簡単なことなんですね。国の出す言葉は、不安と恐怖だけで希望を持てるメッセージが皆無です。
      政府は「大盤振る舞い」なんていまだにしていません。多くの経済的に苦しんでいる人にお金が渡っていません。
      このままでは感染しても良いから、と外に出始めたり、経済活動を再開する人が大量に出てくるでしょう。

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