赤肉には発がん性があるのか? その1

WHOは2015年に赤肉(牛肉や豚肉、ラム肉などです。もも肉などの赤身の肉ではありません)および加工肉は大腸がんのリスクを増加させると発表しました。論文はランセットという一流の医学雑誌に掲載されました。しかも、赤肉および加工肉とがんは関連ではなく、肉ががんの原因である、つまり発がん性があると報告したのです。

しかし、これは本当でしょうか?以前の記事「高血圧の薬に発がん性物質が混入? また中国だ!」にあるような、中国の工場が薬に混入させた発がん性物質と同じなのでしょうか?我々人類の祖先の主食とも思われる肉が本当にがんを発生させるのでしょうか?

以前の記事「エビデンスの難しさ その2 肉はあなたにがんをもたらすか?」ではエビデンスの難しさという観点から赤肉とがんの関連がないと思われるという主旨のことを書きましたが、今回はWHOの発表に直接入り込んでみたいと思います。

WHOの発表は、関連は認めたとしてもそれが因果関係だというのは非常に難しいと思うのですが、何かの力が働いたのか、肉が発がん性があるというのです。科学とは別の力が裏に隠れている気がしてなりません。

WHOのがんの専門の組織であるIRACが分析したのですが、その評価に使用した文献は800以上で、文献の内訳は、400件が赤肉のみ、300件が赤肉と加工肉の両方、100件が加工肉のみというものです。

その中から赤肉と大腸がんの関係は14件のコホート研究が選ばれました。14件中7件で赤肉の高消費量対低消費量で差があり、大腸がんに関連しているという結果になりました。15件のケース・対照研究で7件が高消費量対低消費量で大腸がんに関連ありという結果です。つまり合わせると、29件の研究で大腸がんと関連があるというのは14件とおおよそ半分ですが半分以下です。それだけ聞いても5分5分です。

加工肉では18件のコホート研究の内12件で大腸がんと関連あるという結果で、ケース・対照研究では、9件中6件で関連があるという結果。つまり27件中18件とこちらは3分の2が関連ありです。

疫学研究は関連はわかっても因果関係まではわからないはずです。

発がんのメカニズムはいろいろ考えられています。そのメカニズムの実験研究よるものを引用しています。WHOが引用した実験は6つで3つがラットによるもののみで、もう一つラットと人間両方を使った研究もあります。6つの実験研究の中で4つは同一の研究グループのようです。なんか臭いますね?

ラットを使った実験では肉を与える前に強力な発がん性物質を注射しています。またラットは人間と違い、恐らく赤肉は食べないでしょう。ラットは肉食でしたっけ?それにどんな生物も肉を食べる前に発がん性物質など注射したりしません。

糖質制限を批判したどこかの先生も同じようにラットの実験を使った研究をもとにして、持論を展開されていました。地球の片隅ならまだしも、WHOが同じ過ちを犯しているのはどうしてでしょう?

しかも他にラットを使った実験研究はあり、そこでは赤肉による発がんが証明されていません。そのような研究はWHOによって引用されていません。意図を感じます。

3つの実験では人間を使っていますが、非常に少数であり、しかも様々な不備、内容の不適切さが指摘されています。発がんのメカニズムは人間では証明されていません。

人間の疫学研究でも、今回引用された半分は赤肉で関連無しです。リスクは大腸の部位によって違ったり、消費量に必ずしも比例して直線的にリスクが増加するわけではなく、リスクが上がったり下がったりとジグザグの結果も多く認めます。これは因果関係が無い証拠でもあるでしょう。男女差が認められるものもあります。

さらに面白いことに、牛肉と豚肉を分けて調査しているもので、牛肉は消費量が増えるとリスクが高くなるのに、豚肉では消費量が増えるとリスクが逆に低下するというものも2つほどありました。訳がわかりません。

そして、WHOが発表した研究とは違うものですが、赤肉および加工肉と全原因死亡率、心血管疾患の死亡率、がんの死亡率を調べたものがあります。それによると、赤肉および加工肉のより高い消費が、全原因や心血管疾患およびがんによる死亡のリスクの増加と関連することを示唆していましたが、赤肉と死亡リスクとの間の有意な関連性は、米国の研究では見出されたのですが、他の地域(ヨーロッパとアジア)の研究では見出されなかったのです。もしかしたらアメリカ産の牛肉が問題があるのかもしれませんね?(表は原文より改変)

全原因死亡リスク心血管疾患死亡リスクがん死亡リスク
地域赤肉加工肉赤肉加工肉赤肉加工肉
アメリカ1.231.161.371.161.171.09
ヨーロッパ0.901.090.811.151.091.06
アジア0.930.930.220.87

 

国によって様々な食事が行われています。アジアの食事や地中海式の食事は健康的かどうかは実際にはわかりませんが(「地中海式の食事は健康的か? エビデンスにだまされないように」参照)、何もみんな肉だけを食べている人なんていません。あまりにも他の関連しそうな因子が多すぎます。そのような因子を排除した研究は困難です。一般的に健康に良くないと思い込まれている食事をする人は生活自体が不健康であることも多いです。また、食事の研究は限界があります。ほとんどはアンケートです。あなたは2日前の食事をはっきりと覚えていますか?私は覚えていません。最近1週間の食事を全部正確に覚えていられたら、超人的な記憶力です。そして、アンケートに答えるとき本当のことを誠実に答える人がほとんどでしょうか?怪しいですよね?そんな調査で集めた情報を分析したところで、限界があります。そのような研究から因果関係まで言っていいのでしょうか?

我々が指摘している糖質の有害性を排除した研究はもちろん皆無です。様々な因子で調整したものであっても、糖質量で調整はされていません。最近の江部先生のブログでも取り上げていたようにHbA1cの増加はがんと関連しています

私は赤肉はがんの原因とはならないと考えています。糖質を過剰に摂取した場合はそれだけでがんのリスクが高くなると思っています。つい最近の研究では、インスリン分泌が亢進する食事を摂取したり、砂糖を含んだ飲み物の摂取量が多い大腸がん患者は、再発および死亡のリスクが高かったと報告しています。ですから、赤肉を食べるときに糖質も大量に食べれば当然がんのリスクは高くなるでしょう。加工肉に関しては様々な化学物質が入っていますので、控えめの方が良いかもしれません。これについてはよくわからないといったところだと思います。

最近の肉食ブームは、多くの人はWHOのこの研究を気にしていないようなので安心しています。まあ、気にされる方は赤肉を食べるのを止めたら良いです。もちろん、現在の体の状態によりタンパク質の摂取量を考えなければならないこともあるでしょう。

私は今日も明日もモリモリ肉を食べますが。

 

「Red and processed meat consumption and mortality: dose-response meta-analysis of prospective cohort studies」

「赤肉および加工肉の消費と死亡率:将来のコホート研究の用量応答メタ分析」(原文はここ

 

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