以前の記事「高齢者は血圧を下げてはいけない! その1」では80歳以上の高齢者では血圧を下げすぎることが逆に死亡率を上げることを書きました。
今回は75歳以上での研究で、血圧と死亡率の関連と、さらにその高齢者が身体的な活動の機能低下や認知機能の低下が起きている場合とそうではない場合で分析しています。(図は原文より)
上の図は左が収縮期血圧(高い方の血圧)で、右が拡張期血圧(低い方の血圧)です。縦軸は10年間の死亡率のリスクです。そして、収縮期血圧では160~179mmHgを1として、拡張期血圧では90~99を1としてその他の範囲の血圧と比較しています。もうこの時点で驚きです。収縮期血圧が160~179でリスクが最低なのですから。
収縮期血圧が160-179の人よりも収縮期血圧が120未満の人は1.64倍、収縮期血圧が120~139の人は1.32倍の死亡リスクを増加させました。収縮期血圧が180未満の人だけで見ると、血圧が高いほど死亡率が低くなるのです。
上の図は日常の身体的な活動性(ADL)や認知機能(MMSE)との関連を示しています。同じように左が収縮期血圧、右は拡張期血圧で、横軸は血圧が10mmHg増加するごとの死亡リスクを表しています。1.0のところに点線がありますが、それよりも左に行けばリスクが低下、右に行けばリスク増加です。グラフの一番上がADLと認知機能の両方が障害されている人、真ん中がどちらかの機能が障害されている人、一番下がどちらも機能が維持されている人です。
ADLでも認知機能でも障害されている人では、血圧が高くなるほど死亡率が低下したのですが、機能がが維持されている人ではそのような関連は認められませんでした。
両方の機能が障害されていると、血圧が10mmHg増加するごとに死亡リスクが11%低下していました。片方だけの障害では6%の死亡リスクの低下でした。
つまり、すでに身体および認知機能が低下しているということは体に問題が起きているということです。そうすると、心臓や脳などの重要な臓器への血液の流れが低下してしまう可能性が高くなっています。そこに低血圧が加われば、さらに血流が低下してしまい、死亡リスクの増加をもたらしてしまうと考えられます。様々な臓器や組織に一生懸命に血液を届けるために血圧を上昇さえなければならない体になっているのです。
そう考えれば血圧を無理に下げることがどれほど危険なことか理解できるのではないでしょうか?動脈硬化もあまり進んでいない人では身体的機能も保たれ、認知機能も保たれる可能性が高く、血圧はそれほど高くなくても問題ありません。しかし、すでに動脈硬化が進んだ人はある程度高い血圧が必要なのです。
全ての人に一律の血圧の目標を掲げるのは馬鹿げています。身体的に弱ってきた高齢者、認知機能が低下してきた高齢者は血圧を高めにしましょう。
「Blood pressure and 10-year mortality risk in the Milan Geriatrics 75+ Cohort Study: role of functional and cognitive status」
「ミラノ老人学75歳以上のコホート研究における血圧と10年死亡リスク:身体機能および認知の状態の役割」(原文はここ)