アメリカで飲酒運転の疑いがあるとして警察に車を停められた40代の男性から、許容量の約2.5倍ものアルコールが検出されました。(その記事ここ)これは1時間にアルコール飲料10杯を飲んだ量に匹敵するそうです。男性は絶対にアルコール飲料は飲んでいないと言い張りました。実は彼は「腸発酵症候群」という病気(?)だったそうです。(autobrewery syndrome(自家醸造症候群)ともいうようです。)腸内細菌の働きで、炭水化物が腸の中で発酵し、アルコールになってしまうのです。日本では1970年代に20~30例の症例が報告されているようです。お酒代がかからずに良い?とは言えないようです。
人間の消化管でのアルコールの内因性生産は、1948年に最初に報告されました。その内容は驚くべきものです。ウガンダの5歳の少年が食事で大量のサツマイモを摂ったところ、胃の中での発酵により大量のガスとアルコールが生成され、胃が爆発し、腹膜炎が発生し、結果として死亡したというものです。日本でも子供の症例報告がいくつもあるようです。
道路交通法において、酒気帯び運転の基準値となる呼気中アルコール濃度は0.15mg/L。血中アルコール濃度に換算すると、0.3mg/mL(0.03%)に当たります。これは、純アルコール20g(ビール中びん1本、日本酒1合、ウイスキーダブル1杯)を飲んだときの血中アルコール濃度0.2mg/mL(0.02%)~0.4mg/mL(0.04%)に相当します。
腸発酵症候群ではアルコールを含まない高炭水化物を食べた後、何日間も酔っ払っており、血中アルコール濃度は約4mg/mLに達することさえあるそうです。(本当でしょうか?)体内で生産されるエタノールは、「内因性エタノール」として知られているようです。
糖尿病の患者の内因性エタノールを調べたところ平均で0.00265mg/mLだったそうです。対照の健康な人の内因性エタノールは0.0004mg/mLだったので、6倍以上の計算になります。この内因性エタノール濃度は血糖値とは関連していませんでした。これだけの低濃度のアルコールがどれくらい影響するかはわかりませんが、最近の研究ではこのような内因性エタノールの増加やそれを作り出す腸内細菌の存在が、脂肪肝の患者で多く認められていることが報告されています。
非アルコール性脂肪肝の人の血中のアルコール濃度は0.0024mg/mLで、より体重が重い人では0.004mg/mLで、コントロールグループでは0.00062mg/mLでした。(図は原文より)
中国人の集団での研究では、脂肪肝の人の60%以上で高エタノール産生細菌が認められています。他の報告でも、非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)でアルコール産生細菌の非常に大きな増加が認められています。(その論文はここ)
比較的低い濃度ではありますが、このようなアルコールを作り出す細菌が腸内にいれば、糖質過剰摂取では常にその腸内細菌により持続的にアルコールが作り出され、アルコールを飲まない人でも肝臓に負担がかかっている可能性はあるのかもしれません。
アルコールを飲み、糖質過剰摂取し、肥満となれば脂肪肝になるのは当たり前でしょう。
そう考えると、糖質制限をすれば、このような細菌のエサが少なくなり、数もかなり減少する可能性があります。このような意味でも糖質制限が脂肪肝を改善するのかもしれませんね。
「Fatty Liver Disease Caused by High-Alcohol-Producing Klebsiella pneumoniae」
「高アルコール産生肺炎桿菌に起因する脂肪肝疾患」(原文はここ)