以前の記事「インフルエンザと肥満」「インフルエンザと糖尿病」で書いたように、糖尿病や肥満の人ではインフルエンザの重症度が増加する可能性があります。
糖尿病がインフルエンザの重症度を増加させるメカニズムははっきりわかっているわけではありません。しかし、恐らくは高血糖が大きく関係していると考えられます。高血糖が細菌感染の発生率と重症度を増加させる可能性があります。例えば、HbA1cが7%以上の糖尿病では、HbA1cレベルが7%以下と比較して、活動性のある結核のリスクが3倍以上増加するという報告があります。(ここを参照)
さらに、高血糖は免疫を抑制すると考えられています。白血球の中で殺菌作用のある顆粒を持った好中球の脱顆粒は高血糖で減少します。つまり、殺菌作用が弱くなるのです。また、白血球の食作用を障害するとも言われています。実験上ではグルコース濃度の上昇によりインフルエンザウイルスの感染と複製が大幅に増加することがわかっています。
また、糖尿病において、より高い空腹時血糖値が有意に呼吸機能の低下と関連しているという報告もあります。(ここを参照)
重度のインフルエンザウイルスの感染中、肺の内皮細胞は、肺の病変と死亡を引き起こすサイトカインを産生します。そして食後高血糖は内皮のサイトカイン産生や炎症と内皮機能障害を誘発します。つまり、少なくとも部分的には食後高血糖が、肺内皮細胞への影響を介してインフルエンザの重症度を増加させると推測されます。
そうすると、インフルエンザの中で最も重症である一つのインフルエンザ脳症はどうでしょうか?(図は原文より)
上の図は2010~2015年の日本のインフルエンザ脳症の年齢分布です。子供でおきることの方が多いのですが、大人でも起きます。致死率は18歳未満では平均で8%、18歳以上では子供よりも高く14%になります。65歳以上では20%と非常に高くなりますが、比較的体力もあり致死率が低いと考えられる18~49歳でも7%にもなります。
全国の医療機関を対象に成人のインフルエンザ脳症に関する初のアンケートを実施した調査で、2013/14~2015/16年の3シーズンに診療した16歳以上のインフルエンザ脳症患者に関して回答を集めました。(ここ参照)この3シーズン当たりインフルエンザ脳症と診断された患者は118人でした。この結果として16歳以上の成人における年間100万人当たりのインフルエンザ脳症の罹患率は0.98と推測されました。
詳細な情報提供に同意が得られた44人について検討を行ったところ、インフルエンザAは81.4%、インフルエンザBは18.6%でした。入院時の平均年齢は52.7歳。初診時に93%の人に意識障害が認められ、けいれんが26%、異常行動が40%の人に見られたということです。半数の人は2週間以内に退院していました。発症シーズンにインフルエンザワクチンを接種していた人は33%でした。脳炎の発症前に解熱鎮痛薬を使用していた人は34%で、アセトアミノフェンが25%、ロキソプロフェンが12.5%で、脳炎・脳症との関連性が指摘されているメフェナム酸やジクロフェナクナトリウムを使っていた人はいなかったそうです。また脳炎発症前に抗インフルエンザウイルス薬を使用していた人は46.2%でした。
そうすると、インフルエンザワクチンの接種率は30%台とされているので、インフルエンザワクチンに重症化を防ぐ効果はないと思われます。少なくとも脳症を防ぐことは難しいでしょう。また、インフルエンザ脳症との関連をとりだたされている解熱鎮痛薬に関しては大人ではあまり関連していないようです。アセトアミノフェンなら大丈夫とは言えませんし、それらの薬が危険とも言えないでしょう。抗インフルエンザ薬に脳症を防ぐ効果はないと考えられます。
さらに予後不良因子を多変量ロジスティック回帰分析により検証したところ、高血糖が有意な独立した予後不良因子として検出されました。この調査を行った医師は「インフルエンザ脳症の病態には高サイトカイン血症の関与も指摘されている。血糖値はサイトカインレベルに関連して動くことが報告されているが、今回の結果からも高血糖が高サイトカイン血症を反映していることがうかがえる」と言っています。
しかし、「高血糖が高サイトカイン血症を反映する」のではなく、上の方で書いたように高血糖が高サイトカインを誘発しますので、私は逆だと思います。高血糖を起こしやすい人は要注意でしょう。インフルエンザに感染した時に糖質を摂ることは避けた方が良いでしょう。あくまで想像ですが「風邪ひいたときのお粥」が悪さをしている?
「Characteristics and Outcomes of Influenza-Associated Encephalopathy Cases Among Children and Adults in Japan, 2010-2015」
「2010年から2015年の日本の子供と大人のインフルエンザ関連脳症の特徴と結果」(原文はここ)
「Influenza Virus and Glycemic Variability in Diabetes: A Killer Combination?」
「インフルエンザウイルスと糖尿病の血糖変動:殺人的組み合わせ?」(原文はここ)