食事においてタンパク質が違えばインスリン分泌も違う

タンパク質は非常に重要な栄養素です。タンパク質の種類によってそこに含まれるアミノ酸は異なります。それにより代謝も変化する可能性があるのでしょうか?

今回の研究では、様々な食事性のタンパク質の違いにより、血糖値やインスリン分泌、満腹感などを比較しています。

BMIが18.5〜25の18〜30歳の健康な男性が対象で、マグロ、七面鳥、乳清(ホエイ)、または卵白のいずれかを含む異なる液体食を摂取しました。液体食600gのPFCバランスはタンパク質50.8g(71%)、脂質4.5g(14%)、炭水化物11g(15%)です。(図は原文より)

上の図はそれぞれの液体食摂取後の(A)食後血糖値(B)食後240分までの血糖値の曲線下増加分の面積です。

血糖値は–○–マグロ; –●–ホエイ; 卵白; –▲–七面鳥です。曲線下面積は左から卵白、七面鳥、マグロ、ホエイです。

そうすると、30分値では大きな違いがありました。ホエイ以外では血糖値は上昇し、ピークとなりましたが、ホエイだけは血糖値が低下しました。60分値はホエイでさらに低下しました。マグロも60分値では低下しています。曲線下の増加分の面積でも、卵白と七面鳥に対してホエイとマグロは少なくなっていました。

上の図は液体食の接種後のインスリンの推移と曲線下面積です。インスリンの単位はpmol/Lですが、6で割ると日本の標準的な単位のμU/mLになります。どれも30分値がピークですが、明らかにホエイのインスリン値が他のタンパク質よりも上昇していました。その次にはマグロです。曲線下面積も卵が一番小さく、ホエイが最も大きくなりました。

つまり、ホエイは他のタンパク質よりも食後の血糖値、曲線下面積が最も低いのは、最も多くのインスリンを分泌させていたからと考えられるのです。

液体食を摂取した4時間後に用意された食事を自由に食べることができました。その時の食欲などを分析した結果です。

表の上から自由な食事からのエネルギー摂取量、液体食摂取後の空腹感、満腹感、および予想される食物消費の視覚的アナログスケール評価の摂食後総面積です。そうすると先ほどのインスリンの図と同様の違いが認められました。つまり、ホエイが最も4時間後の自由な食事から摂取したエネルギーが少なく、ホエイ摂取後の空腹感が少なく、満腹感が多く、予想される食物消費が最も少なかったのです。卵白はホエイの全く逆でした。

マグロ、七面鳥、卵白の食事と比較して、ホエイが食欲と食物摂取を大幅に削減する効果を持ち、インスリン反応を著しく高めるのです。同じ動物性タンパク質でも食事の種類が違えば、インスリンの反応も違うようです。非常に面白いですね。

上の図はそれぞれの液体食の栄養成分です。アミノ酸の組成を見てみると、

ホエイには、マグロ、七面鳥、卵よりもイソロイシンやロイシンのBCAAが多く含まれていることが示されています。マグロには、七面鳥や卵よりもこれらのアミノ酸が多く含まれていましたが、ホエイほど多くはありません。バリンについてはホエイよりもマグロの方が多く含まれていました。BCAA、特にロイシンはインスリン分泌を促進すると考えられています。また、イソロイシンはラットの研究ではに骨格筋へのグルコースの取り込み増加して血糖値を低下させるという結果が出ています。(この論文参照)

またホエイは、他の液体食よりもフェニルアラニンとトリプトファンの含有量が最も高く、マグロには七面鳥や卵のタンパク質の液体食よりもこれらのアミノ酸が多く含まれていました。ホエイおよびマグロの食事中のフェニルアラニンおよびトリプトファンのより高い含有量が、食欲の抑制およびエネルギー摂取量の減少と関連している可能性があります。

アスパラギン酸、トレオニンもホエイとマグロで高いので、これらが何か関係している可能性もあるかもしれませんし、もちろんアミノ酸とは全く別の成分が関係しているかもしれません。

アミノ酸の違いが要因と考えると、アミノ酸組成のこれだけの違いが大きくインスリン分泌や血糖値に影響することもあるのですね。一般的な食事では単体の栄養素を摂ることはなく、これらのタンパク質も同時に摂取することは珍しくないので、あまり気にする必要はないでしょう。

しかし、なぜ人類はこのホエイタンパク質により満腹感を感じるように進化したのでしょうか?ホエイ摂取を制限するためでしょうか?他のタンパク質よりもインスリン分泌を高めることも何か進化的な要因があるのでしょうか?

牛乳の歴史は恐らくは農耕の歴史とそれほど変わらないでしょう。狩猟採集の時代では野生の動物の乳を搾ったとは思えません。動物を家畜化した後に牛乳やバターなどが食用になったと考えられます。そうすると、ホエイタンパク質というのは動物に肉や卵と違い、人類にとって非常に新しいタンパク質と考えられます。それが何か代謝の違いを生む原因になっているのかもしれません。

 

「The acute effects of four protein meals on insulin, glucose, appetite and energy intake in lean men」

「やせた男性のインスリン、グルコース、食欲およびエネルギー摂取に対する4つのタンパク質食の急性効果」(原文はここ

2 thoughts on “食事においてタンパク質が違えばインスリン分泌も違う

  1. 清水先生、こんにちは。
    この記事で紹介されている、タンパク質ごとのインスリンの分泌量がそれぞれ異なる、というデータですが、カナダの腎臓内科医ジェイスン・ファン(Jason Fung)が、2016年に出した著書『The Obesity Code』(日本語版の題名は『トロント最高の医師が教える世界最新の太らないカラダ』, 2019年1月に発売。原文からはあまりに剥離した扇動的なタイトルですが・・・)の中でも紹介しています。著者はこのデータと、大量の論文を根拠に、「タンパク質を食べてもかなりのインスリンが分泌される。血糖値もインスリン濃度も正常な人間にインスリンを注射し続けたところ、インスリン感受性が低下し、インスリン抵抗性になった」「牛乳を飲んだ後に分泌されるインスリンはかなりの量」といった論理を展開し、さらには「肉を食べると毎日体重が増える」とするコホート研究のデータも引用しています(しかし、この研究、どうも恣意的な感じがします)。

    ですが、「タンパク質を食べてもインスリンが分泌される」というのは、生理学や内分泌学を学んだ人なら常識のはずですし、「タンパク質を食べても大量のインスリンが出てくる。炭水化物を制限しても痩せない!太る!」などとしたり顔で言われても困ります。それにこの著者は、「乳製品は大量のインスリン分泌を促す」→「だから太る」と言いたいのでしょうが、その一方で「乳製品は体重増減とは関連が無い」「乳製品は食べてもいい」などと、明らかに矛盾した発言をしているのです。この本を読み進めていくと、「炭水化物を食べても太らない」とも解釈できる表現が随所に出てきますし、「炭水化物を食べても太らないんじゃないか。いや、むしろ、炭水化物を食べれば痩せるんじゃないか?」と錯覚する読者も出てくる可能性があります。

    この著者の結論としては「体重を減らしたいのなら断食が一番」なのですが、「断食とともにカロリーも制限すれば、体重を減らすのに効果的だ(と論文にある)」などと言い出してもいます。「カロリー制限は何の意味も無い」と本の中で何度となく言っていたくせに、「論文によれば、断食とカロリー制限を併用すれば体重を減らせるよ」などとふざけた発言もしているのは我慢なりません。

    たがしゅう先生は何度か長期間の断食を行っており、その記録をご自身のブログで紹介されておられますが、数日間連続での断食で減った体重は、その後速やかに元に戻ってしまったようです。

    https://tagashuu.jp/blog-entry-1151.html

    私は「断食を終えたあとに、減った体重が速やかに増えてしまった原因は、カロリー信者が真っ先に言いそうな『食べ過ぎ・運動不足』ではなく、明らかに別の要因だろう」と考えています。

    歴史上の先人たちはというと、

    ジャン・アンテルム・ブリア=サヴァラン(Jean Anthelme Brillat-Savarin, 1755~1826)は、

    「肉食動物は決して太らない」
    「ヒトを肥満にさせるのは、日々の食事を構成するデンプン質と小麦粉であり、これに砂糖も組み合わせれば確実に肥満をもたらす」
    「ヒトにおいても、動物においても、脂肪の蓄積はデンプン質と穀物によってのみ起こる、ということは証明済みである」
    「ジャガイモ、穀物、小麦粉由来のモノを食べ始めた途端、瞬く間に肥え太っていく」
    「デンプン質の食べ物を常食している動物の身体には、強制的に脂肪が蓄積していく。ヒトもまた、この普遍的な法則からは逃れられない」
    「デンプン質・小麦粉由来のすべての物を厳しく節制すれば、肥満を防げるだろう」

    こう断言していますし、ブリア=サヴァランと同時代の外科医で退役軍医、ジャン=フランソワ・ダンセル(Jean-François Dancel)は、
    「患者が主に『肉だけ』を食べ、それ以外の食べ物の摂取は少量だけにすれば、一人の例外もなく肥満を治癒できる」「炭水化物を避け、肉だけを食べれば肥満を治せるだろう」
    と断言しています。

    トマス・ホークス・タナー(Thomas Hawkes Tanner, 1824~1871)は、「『炭水化物を断つこと』こそが、減量を成功させる唯一の方法である」と確信していました。
    肥満治療について、「減食」と「身体活動」(「運動」)を、「ridiculous」(「何の価値も無い」)と切り捨てています。

    1863年に『Letter on Corpulence, Addressed to the Public』(『市民に充てた、肥満についての書簡』)を出版したイングランドの葬儀屋ウィリアム・バンティング(1796~1878)は、1日に4回食事を摂り、肉や魚を食べたいだけ食べ、砂糖やパンやビールを避ける食事法を続け、50ポンド(約23kg)の減量に成功しました。彼は体重のリバウンドを起こすことなく、天寿を全うしました。
    バンティングは『Letter on Corpulence, Addressed to the Public』の中で、体重を減らすためにあらゆる方法を試し、そのどれもが失敗に終わった趣旨を述べているのですが、その「減量失敗に終わった方法」の1つに『断食』を挙げているのです。(砕けて言うなら)「断食なんて止めときな。こんなことしたって体重は減らせないよ」と述べているのです。

    どうもこのJason Fungという人は、自身の結論である「どんなダイエット法よりも、断食が一番効果的なんだよ!」と主張し、それを優位に見せようとして、炭水化物を制限する食事法を真っ向から否定し、叩いています。が、著書の中では至る所に発言の矛盾が目立ちます。大量の論文を引用してはいるけれど、自身の結論に都合のよい形で援用しているだけのようにも見えます。だから「肉や乳製品は大量のインスリン分泌を促す」(→「だから太る」)、「乳製品は食べて構わない」などと、明らかに矛盾した発言が散見されるのです。

    清水先生のこの記事
    『高タンパク食は腎臓に悪影響がないばかりか糸球体濾過量(GFR)を増加させる』
    で、「タンパク質は非常に重要です。もうタンパク質を制限する必要はありません。モリモリ肉や魚や卵を食べましょう」と結論付けておいでですが、・・・どうでしょうか?タンパク質をたっぷり摂取していて、その身体は再び太りつつあるでしょうか?
    また、先生の『モンゴル人において乳がんの発生率が非常に低いのはなぜなんだろう?』も読み、私は人体実験も兼ねて、(脂肪分を除去していない普通の)牛乳も飲んでいるのですが、腰回りが膨らんでいく気配は今のところありません。

    長くなってしまいましたが、どうでしょうか。炭水化物を制限中であろう清水先生は肉や魚や卵を毎日摂取されておられるでしょうが、身体は太りつつありますか?
    私としても、「動物性食品を食べたら、本当に太るのか?」と少々不安であり、このような書き込みをさせて頂きました。

    1. クリードンさん、コメントありがとうございます。

      Jason Fung氏の本は読んでいませんが、翻訳本を読んだのであれば、翻訳の問題もあるかもしれません。
      いずれにしても、「断食は体重を減らす」ということは間違っていませんが、何日も断食をずっと続けるわけではありませんので一時的であり、食べ始めればまた体重は戻るので
      長期間の断食を行って体重を減らしたままにすることは不可能です。しかし、24時間以下の断食の繰り返しはインスリン分泌を減らすので体重は減ると思います。
      つまり1日の食事の回数を減らせば減量できると思います。そのような意味での断食のことをこの先生は言っているのではないでしょうか?
      体重が減るか増えるかというのは脂肪が増えるか減るか、筋肉が減るか増えるかによっても違うので、一概には言えませんが、私自身はBMIでいえば何年も21~22程度だと思います。
      夏場は体重が減り、冬場は体重が増加します。運動量によるものか、人間本来の冬場に脂肪をため込もうとする現象なのかはわかりません。
      タンパク質は恐らく2g/㎏程度毎日食事から摂取しています。
      動物性食品で現在のところ体重が増加してないのであれば、それがクリードンさんにとっての答えではないでしょうか?

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