現代の医学において食事はただの毎日のエネルギー補給程度の意味しか持っていないでしょう。入院中の病院食のなんと貧弱なことか。病気や手術後の回復にタンパク質の必要性は増しているはずなのに、当然炭水化物が60%程度含まれた食事が出てきて、肉などはほんの少しだけです。体格の大きな若者でも90歳の高齢者でも同じものが提供されます。体重による違いなんてお構いなしです。
糖尿病の人などは、自分で食事を摂っているときよりも病院食の方が血糖値が高くなる人までいます。そして勝手にインスリンまで注射されてしまうこともあるでしょう。
病院側も病院食にかけられるお金が非常に少ないので、栄養価よりもコストが重視されてしまうと思います。味付けが薄味になる以外はファストフードやコンビニ弁当とそれほど違いはないかもしれません。
医師や看護師などの医療スタッフも普段の昼食はコンビニやカップ麵ですましている人も多いので、このような病院食には何の抵抗も感じないかもしれません。
また新型コロナウイルスの陽性者がホテルなどで療養していて、その時、そこを抜け出して外で食べ物を買ったりすることが問題になっています。(ここ参照)恐らく病気で療養中なのにコンビニ弁当レベルのものしか提供されないのでしょう。もちろんルールを破ることは問題ですが、人間にとって食事は非常に重要なものです。これをあまりに軽視している結果でしょう。さらに、糖質制限をしている場合には食べるものが無くて非常に困ると思います。「タダで食事を提供しているのだから文句を言うな!」という声も聞こえてきそうですが、宗教で禁じられている食材を出したり、アレルギーを起こす食材を出すことと何ら違いはないと私は思います。我々にとって糖質は毒なのですから。
さて、スイスで非常に興味深い研究が行われました。慢性心不全で入院している645人の患者に対して、通常の病院食と個別の栄養プランを立てて提供した食事で、どのような違いが出るかを比較したのです。その結果は驚きです。
個別の栄養プランは、病院の栄養士が1~2日ごとに個別の食事と検査を行い、エネルギー、タンパク質、微量栄養素の目標を設定して達成するようにしました。退院時に、患者は食事療法のカウンセリングを受け、必要に応じて経口栄養補助食品の処方を受けました。
コントロール群の患者は、栄養相談や追加の栄養サポートの推奨なしに、患者におまかせで食事の欲求に応じて標準的な病院の食事を受け取りました。塩分摂取量に制限はなく、患者の病状に応じて水分制限を個別に指示しました。
これらの患者が退院後、どのように食事を続けたかは実際には不明ですが、すべての患者の平均滞在日数が約10日でした。
上の図はAはコントロール(病院の食事のみ)と栄養サポートをした人の30日間の生存率です。Bは栄養リスクスクリーニングで中リスクの人、Cは高リスクの人のものです。
全体的に見て、栄養サポートをした方が生存率は高く、特にCの高リスクの人では大きく生存率に差が出ています。
30日間で、栄養サポート群の患者321人中27人(8.4%)が死亡したのに対し、コントロール群の患者324人中48人(14.8%)が死亡しました。オッズ比は0.44でした。つまり栄養サポートをせず、病院の食事だけだと2倍以上も死亡率が高くなるということです。
栄養サポート群の患者はまた、30日で主要な心血管イベントの可能性も半減しました(オッズ比0.50)。
180日間の死亡率は、栄養リスクの重症度が高くなるにつれて増加しスコアの1ポイント増加あたりの死亡する可能性は1.65倍でした。
病院の食事は決して健康的なものではないということです。
薬物治療は同様に行われているはずなので、食事により死亡率が大きく変化することになります。
病院の栄養士の仕事は本来、この研究の個別の栄養プランのように、一人一人を評価して目標を設定して、それを達成するようにすることではないかと思います。ただただ、厚労省などが根拠なく設定している栄養バランスを順守するメニューを考えることではありません。栄養サポートチーム(NST)がしっかりしている病院ではそれなりの栄養面の評価がされると思いますが、病院の栄養士が患者の血液データを見て栄養士の立場から評価することがあるでしょうか?回復期に必要なタンパク質を増量したりするでしょうか?食事摂取量が落ちているからと言ってエンシュア(糖質たっぷりの様々な栄養素の入った栄養ドリンクのようなもの)だけでごまかしていないでしょうか?
もちろん、日本の栄養士の多くは糖質過剰摂取の栄養指導をするので、個別の栄養プランも意味がどれほどあるかは未知数ですが、少なくとも必要なタンパク質量、微量栄養素に関しては個別に設定、提供すべきでしょう。
普段から食事は重要ですが、病気のときこそもっと重要になると思います。
「Individualized Nutritional Support for Hospitalized Patients With Chronic Heart Failure」
「慢性心不全の入院患者のための個別の栄養サポート」(原文はここ)
失礼な表現ですが、カロリー制限って栄養士にとっては便利なものですよね。
内容云々ではなく、足し算ができればいいわけですから。
鈴木 武彦さん、コメントありがとうございます。
カロリー神話が医療の世界に存在する限り、これからも変わらないでしょうね。
清水先生、いつもありがとうございます。
7年半前、心筋梗塞で3週間入院、同時に糖尿病(重症)と診断されました。
病院食後の血糖値は250越えですので、食前にノボラピッド(8単位)、就寝前にランタス(10単位)、夕食後ジャヌビア1錠を処方されてました。
入院前は健康だけが取り柄で、何もしなくても健康で歳を取って行くと思っていたぐらいバカでした。
ただ、唯一救いだったのは、病院は4人部屋だったのですが、他の人達が同じ物を食べているので、みんな糖尿病だと思っていたら、違うと聞いて、何かしら病院食に疑問が沸いた事です。
その時に江部先生のブログで糖質制限を知り、退院後、直ぐに糖質制限を始めましたので、上記の薬はまもなく全てなくなりました。
あくまでも自分一人の体験で言うのも傲慢で、糖尿病もいろいろ程度があるとは思いますが、糖質制限さえすれば治った状態にはできるような気がします。
現在は糖尿病は余り気にしていませんが、清水先生の「糖質過剰症候群」は自分自身に思い当たるところが多く有りますし、一番興味が有ります。。
病気予防の観点からしても、もっと広く浸透して行ったらと思う次第です。
太田さん、コメントありがとうございます。
ご自身で疑問を感じたので、それが良かったですね。
しかし、多くの人は病院で健康を害する食事が出るとは思っていません。
病院の食事で高血糖になるのだから、糖尿病で急いで治療が必要だと思ってしまうでしょう。
>アレルギーを起こす食材を出すことと何ら違いはない
まさにそのアレルギー食材を出されたことがあります。
たまご、牛乳にアレルギーがあった息子が1歳6ヶ月くらいのころに肺炎で入院した際、夕食にオムレツが出されたことを思い出しました。
さすがに別のメニューに取り換えてもらいましたが、問診票にもアレルギーの件は記入してあるのに病院でこんなことが起こるのかとびっくりしました。
これは薬を間違えて投与することとどう違うのでしょう。
薬なら大問題になるけど、食事なら何の問題意識もなく軽視されているとしか思えませんでした。
病院は、食事に治療効果など求めておらず(西洋医学として食事の治療効果などをあえて認めないようにも思いますが)、生命を維持するだけの意味しかないように思います。
言い方は悪いですが、要するに病院食は食事ではなく餌ですね。
そして今、糖質制限を実践するようになってからは、食事が体調に直結しているとしみじみ感じます。
糖質過多では、糖質の影響がありすぎて、他の食材の影響などを感じられなくなってしまっているのだと思います。
食事は肉体的にも精神的にも多大な影響があると感じられるようになってからは、糖質過多の食事に戻る気にはなれなくなりました。
西村 典彦さん、コメントありがとうございます。
病院の安全管理は以前よりは良くなりましたが、まだまだの病院もあるのでしょうね。
糖質過剰摂取状態では本当にその影響が強すぎでしょうから、その状態で脂質を摂り過ぎて、
「脂質が悪玉」と問題をすり替えているのが現状です。
「糖質過多では、糖質の影響がありすぎて、他の食材の影響などを感じられなくなってしまっているのだと思います。」その通りですね。
糖質摂取の快感は何物にも代え難く「止められない止まらない」状態となり糖質過剰、 依存。体も脳も糖質無しでは満足感を得られなくなるのでしょうね。 今思うと、かっぱえびせんのCMコピーは的確な糖質依存症コピーですね。
鈴木さん、コメントありがとうございます。
>かっぱえびせんのCMコピーは的確な糖質依存症コピー
言われてみれば、正にその通りですねw
糖尿病から透析になり、死んでしまった僕の友人。インシュリン以外に15錠もの錠剤やらカプセルを飲んでいた。「こんなに沢山よく飲めるね?」という僕の質問に、彼は「いや、飲むんじゃなくて、食べるんだよ。」薬のかわりに食事指導ができれば、彼は死ぬことはなかっただろうに。今頃になって悔しいです。障害者年金の20万円あまりで家族は生きていた。治療を断れば年金は支給されない。おかしな国だ・・・。
アラジンさん、コメントありがとうございます。
本当に薬だけでお腹いっぱいになるほど処方されている人が少なからずいますね。
薬をバッサリと切って少なくすると元気になる人が少なくありません。