糖質摂取と運動についてご質問をいただきました。
糖質摂取は良くないことは私も理解しています。
それを横に置いておき、先生に伺いたいのですが、
糖質を1日100g摂っているとして、それを帳消しにすべく、400kcal消費する運動をすれば、帳消しにできると思われますか?
*1g あたりのエネルギー産生量の糖質4kcalを「仮に」当てはめています。
また、その運動は糖質摂取直後でないと効果がないと思われますか?
お考えを聞かせて下さい。
1日100gの糖質を3食に分けたとすると、1回30g程度です。これくらいの糖質であれば、恐らく食後の軽い運動で何とか出来る可能性もあると思います。ご質問の内容とはちょっと違うかもしれませんが、通常の糖質過剰摂取(1回に100g程度の糖質摂取)では食後のちょっとした運動をしてもあまり効果は期待できないかもしれません。
食後の運動は確かに短い時間で見れば、血糖値の上昇を抑え、インスリン分泌も抑制するでしょう。しかし、どの程度の食後高血糖の低下があるのでしょう。
今回の研究では、30分間の運動(1分間の運動(ジョギング)と30秒の休息を20セット)を食前(30分前)や食後(30分後)に行った場合と、短い定期的な運動(1分間の運動(ジョギング)と30秒の休息を3セット合計4分間、1日を通して30分ごと、合計20回)をした場合と何もせずに座っている生活をしている場合(コントロール)で、血糖値の変動を調べています。運動量としてはエネルギー消費が60分間で平均571kcalと推定される運動です。対象は比較的活動的な平均年齢23歳の11人の男性です。(図は原文より、表は原文より改変)
朝食 | 昼食 | 夕食 | |
---|---|---|---|
エネルギー摂取量 kcal/day | 658 ± 97 | 737 ± 24 | 904 ± 80 |
主要栄養素 g | |||
炭水化物 | 113.8 ± 16.6 | 104.5 ± 0.1 | 131.6 ± 11.7 |
脂質 | 14.6 ± 2.7 | 22.8 ± 0.8 | 28.0 ± 3.5 |
タンパク質 | 17.9 ± 4.2 | 28.5 ± 4.0 | 31.7 ± 2.9 |
主要栄養素 % | |||
炭水化物 | 69 ± 3 | 57 ± 2 | 58 ± 2 |
脂質 | 20 ± 2 | 28 ± 0 | 28 ± 2 |
タンパク質 | 11 ± 1 | 15 ± 2 | 14 ± 1 |
上の表は各食事のPFCバランスです。糖質制限の研究ではないので炭水化物量は通常の糖質過剰摂取です。どの食事も炭水化物量が100gを超えています。
上の図は1日の血糖値の推移です。黒い実線が運動しないコントロール、グレーの線が食事前運動群、グレーの破線が食後運動群、黒の点線が短い定期的運動群です。通常では夕食の方がインスリン抵抗性が低下するために血糖値の上昇は少なくなることが多いと思われますが、この研究では糖質摂取量がダイレクトに血糖値に反映しているように見えます。
興味深いことに食後運動群が血糖値の上昇タイミングがずれています。しかも、食後の血糖値が低下するスピードも遅く、ベースラインまで下がりきっていないようにも見えます。
上の図は朝食前後の血糖値変動だけを示しています。コントロールでは通常認められるように、食後45分くらいでピークとなっています。食前運動群では他のグループよりも食前からやや血糖値は高めですね。そして食後のピークを迎える時間も食後30分くらいと早いですね。
一方、食後運動群では運動開始からすぐに血糖値が低下しています。運動の効果は非常に高いですね。しかし、運動をやめた途端、血糖値は再上昇してしまい、ピークもコントロールよりも高く見えます。
最も血糖値の変動が少なかったのは短い定期的運動群でした。ということは、たった4分間で良いので、ちょこちょこ何度も運動するのが血糖値上昇抑制には最も効果的だと考えられます。
上の図は120分間の血糖値の曲線下面積です。どの運動群も差はありません。つまり、食後の運動により血糖値上昇の抑制は、ただ単に血糖値上昇の先送り効果しかないのかもしれません。短い定期的運動も曲線下面積では少なく見えますが、有意な差はありませんでした。
上の図は各食事の血糖値のピークの比較です。朝食では短い定期的運動群が他のグループと比較して、有意に血糖値のピークを抑えました。昼食では食後運動群と比較して短い定期的運動群が血糖値のピークを抑えました。しかし、夕食ではどのグループも差はありませんでした。
なぜか夕食では差がないんですね?論文の考察では夕食後は2回しか運動がなかったから、血糖値を下げるほどの運動にならなかったと考えていますが、夕食後の最初のピークそのものが高く、他のグループとあまり違いがありません。運動はインスリンと関係なくブドウ糖を取り込むGLUT4が増加するのですが、その効果ももしかしたら1日の中で見ると限界があるのかもしれません。つまり、朝と昼でかなりの糖質を摂取し、筋肉はお腹いっぱいで、夕食の糖質を受け入れる余裕がないのかもしれません。
また、食後運動群で運動停止直後からの血糖値再上昇は、運動強度や運動時間が少なすぎるのかもしれませんし、運動による消化管の吸収低下が起こり、ただ単に血糖値の上昇のタイミングが後ろにずれただけなのかもしれません。
糖質制限をしていて、たまに糖質を多く摂ってしまうこともあるでしょう。その時に食後の軽い運動の効果は糖質摂取量にもよりますが、1回に100gも摂ってしまうのであれば、運動の効果は限定的か、ほとんど無いとも言えます。何グラムの糖質オーバーがどれくらいの運動で効果があるのかは不明です。食後の運動でなんとかしようとするのであれば、強度は高めに1時間くらいはやったほうが良いかもしれません。もちろん個人差が大きいと思います。食後30分で強い強度の1時間の運動はお勧めはしません。吐いてしまうかもしれません。
「Effect of exercise timing on elevated postprandial glucose levels」
「食後血糖値の上昇に対する運動タイミングの影響」(原文はここ)
トレーナーや栄養士の方々がおっしゃるダイエットの法則
「体重は摂取カロリーと(運動での)消費カロリーで決まる」
も余りに単純化し過ぎで信憑性ないですね。
鈴木 武彦さん、コメントありがとうございます。
人間はそこまで単純ではありませんからね。
私は筋トレも有酸素運動も苦にならないので、糖質たっぷりな美味しいものが食べたい時は、食前にスクワットを、食後すぐにかかと落としを、食後30分後くらいからは、高さ15〜20cmの台で踏み台昇降を1時間はやっています(汗はもちろんかきますが、ドラマや映画を見ながらやると全然苦になりません)。
私は糖尿病ではないので、さすがにこれだけやれば食後血糖値は何も問題ないだろうと思っていますが、血糖値測定器を持っていないので実際のところは分かりません。いつか血糖値測定器を購入したら、運動と食後血糖値の関係について徹底的に実験して、自分の体質を調べてみたいと思っています。
踏み台昇降は、ウォーキング以上ジョギング未満の運動強度で、天候に左右されず、テレビの前でできるので、いろんな人に勧めています。ちなみに私は15cmの踏み台なら2時間映画を丸々1本鑑賞することがあります。
大阪高橋さん、コメントありがとうございます。
さすがにそれだけやれば大丈夫そうですが、血糖値の測定をしてみたいですね。