飽和脂肪酸は心血管疾患のリスクには関係しない

飽和脂肪酸はいまだに悪者扱いです。以前の記事「飽和脂肪酸は心血管疾患を増加させるか?」でも書いたように、飽和脂肪酸と心血管疾患との関連はほとんど認められないにもかかわらず、摂取制限を勧める人も多いでしょう。

日本人の食事摂取基準(2020年版)を見てみると飽和脂肪酸について次のように書かれています。

飽和脂肪酸は、体内合成が可能であり、したがって必須栄養素ではない。その一方、後述するように、高LDLコレステロール血症の主なリスク要因の一つであり、心筋梗塞を始めとする循環器疾患の危険因子でもある。また、重要なエネルギー源の一つであるために肥満の危険因子としても忘れてはならない。したがって、目標量を算定すべき栄養素である。

飽和脂肪酸は循環器疾患の危険因子というのが大前提になってしまっています。

また、「重要なエネルギー源の一つであるために肥満の危険因子としても忘れてはならない」というのが日本語として変ですね。重要なエネルギー源だから肥満の危険因子?

ところが、飽和脂肪酸摂取量と総死亡率、循環器疾患死亡率、冠動脈疾患死亡率、冠動脈疾患発症率、脳梗塞発症率、2型糖尿病発症率との関連をコホート研究で検討した結果を統合したメタ・アナリシスでは、いずれも有意な関連は認められなかったと報告されている。また、飽和脂肪酸摂取量と循環器疾患発症率との関連を検討した 21(心筋梗塞発症率の検討では 16)のコホート研究の結果をまとめたメタ・アナリシスでも、心筋梗塞との間に有意な関連を認めていない。しかし、その中の七つの研究が血清総コレステロール濃度を調整しており、これは過調整(over-adjustment)に当たり、両者の関連を正しく評価できていないおそれがあるとの指摘もある。

一方で、飽和脂肪酸を多価不飽和脂肪酸に置き換えた場合の冠動脈疾患発症率への影響をコホート研究で検討した結果を統合したプールド・アナリシスでは、発症率の有意な減少を報告している。さらに、介入研究(一次予防、二次予防を含む)を統合したメタ・アナリシスで、飽和脂肪酸を多価不飽和脂肪酸に置き換えた場合、心筋梗塞発症率(死亡を含む)の有意な減少が観察されている

一方で、メタ・アナリシスによると、日本人は、他の国民と異なり、飽和脂肪酸の摂取量と脳出血及び脳梗塞の発症(又は死亡)率との間には負の関連が観察されている

しかし、この関連が飽和脂肪酸の直接作用によるものか、他の栄養素等摂取量を介するものかについては更なる研究を要すると考えられる。

飽和脂肪酸摂取量をどの程度に留めるのが好ましいかを決める科学的根拠は十分ではない。

飽和脂肪酸は循環器疾患の危険因子というのが大前提なので、飽和脂肪酸摂取量と総死亡率、循環器疾患死亡率、冠動脈疾患死亡率、冠動脈疾患発症率、脳梗塞発症率、2型糖尿病発症率との有意な関連は認められなかった、ということは非常に困るのです。しかし、関連ありとなしの研究があるので、本来は関連はわからないとすべきところです。科学的根拠は十分ではないと言っているのですから。

上記で述べたように、既存の研究成果を基に目標量(上限)を算定することは困難である。そこで、日本人が現在摂取している飽和脂肪酸量を測定し、その中央値をもって目標量(上限)とすることにした。最近の調査で得られた摂取量(中央値)を基に、活用の利便性を考慮し、目標量(上限)を7% エネルギーとした。

簡単に言えば根拠もはっきりとしないけれど、飽和脂肪酸は7%にしておこうというものです。しかも、調査で得られた摂取量と言っても、食事アンケートによるものでしょう。非常に質に低いデータから得られたものですし、それが健康にとって良いことかどうかもわからないないのに目標量が決まってしまっています。いい加減ですね。国が決める摂取量の基準は大きな影響があるので、このような決め方は非常に問題です。国が出す指針なので、わからないことはわからないとした方が良いと思います。

さて、今回の研究では、糖質制限(ちょっとゆるめ)で21%もの飽和脂肪酸を摂取するのと、現在の推奨のPFCバランスを保ち、飽和脂肪酸も7%に制限した食事でどうなるかを分析しています。

対象は既知の心血管疾患または糖尿病の人を除き、BMIが25以上の18〜65歳の成人147人です。慣らし運転段階では、エネルギー摂取量を制限して、9〜10週間で12±2%の減量を促進し、目標の減量を達成した参加者を低炭水化物、中炭水化物、高炭水化物の食事に分けました。低エネルギーの慣らし運転の食事には、炭水化物から総エネルギーの45%、脂質から35%、タンパク質から25%が含まれていました。

その後の低炭水化物、中炭水化物、高炭水化物の食事では、どの食事群も1日2000kcalでタンパク質は20%としています。炭水化物と脂質は低炭水化物食では20%と60%、中炭水化物食では40%と40%、高炭水化物食では60%と20%でした。それぞれの食事群の脂質のうち、35%が飽和脂肪としています。つまり、低炭水化物、中炭水化物、高炭水化物の食事のそれぞれ21%、14%、7%が飽和脂肪です。総炭水化物に対する砂糖の添加量は、食事全体で15%に制御されていました。この3種類の食事を20週間続けました。(図は原文より、表は原文より改変)

変数低炭水化物中炭水化物高炭水化物低炭水化物-高炭水化物
複合スコア
 LPIR–5.3(–9.2、–1.5)–0.02(–4.1、4.1)3.6(–0.6、7.7)–8.9(–14.6、–3.2)
粒子サイズ
 TRL-P、nm0.15(–1.63、1.92)1.52(–0.35、3.39)2.63(0.72、4.54)–2.49(–5.09、0.12)
 HDL-P、nm0.09(0.03、0.15)0.03(–0.03、0.10)0.05(–0.02、0.11)0.05(–0.04、0.13)
 LDL-P、nm0.06(–0.05、0.18)0.16(0.04、0.28)–0.01(–0.14、0.11)0.08(–0.09、0.25)
粒子濃度
 大きい/非常に大きいTRL-P、%–9.5(–24.0、7.7)10.9(–7.6、33.2)38.5(14.9、67.0)–34.7(–49.4、–15.6)
 大きいHDL-P、μmol/L0.71(0.48、0.95)0.36(0.11、0.60)0.32(0.07、0.58)0.39(0.04、0.73)
 小さなLDL-P、μmol/L–193.9(–289.2、–98.0)–221.7(–322.5、–120.9)–107.5(–210.4、–4.5)–86.4(–227.2、54.3)
 大きいLDL-P、μmol/L55.3(9.3、101.3)54.6(6.4、102.9)–1.1(–50.4、48.2)56.4(–11.0、123.8)
 Lp(a)、%–14.7(–19.6、–9.5)–2.1(–8.2、4.3)0.2(–6.0、6.8)–14.9(–22.0、–7.1)
血中脂質
 中性脂肪、%–9.2(–15.6、–2.4)1.9(–5.6、10.0)7.6(–0.5、16.3)–15.7(–24.2、–6.2)
 総コレステロール、mg/dL16.1(11.5、20.7)18.5(13.6、23.3)16.2(11.2、21.1)–0.1(–6.8、6.7)
 HDL-C、mg/dL9.8(8.0、11.5)7.4(5.6、9.3)6.7(4.8、8.5)3.1(0.5、5.7)
 非HDL-C、mg/dL6.3(1.8、10.9)11.0(6.3、15.8)9.5(4.6、14.4)–3.2(–9.8、3.5)
 LDL-C、mg/dL10.0(6.3、13.7)11.7(7.8、15.7)8.2(4.2、12.2)1.8(–3.7、7.3)

上の表は炭水化物量を変えた食事を始めてから終わりまでの変化です。LPIRとはリポタンパク質インスリン抵抗性です。(ここ参照)

LPIRの変化は食事グループによって異なり、低炭水化物では減少、中炭水化物で変化なし、高炭水化物は有意でない増加を示しました。

低炭水化物と高炭水化物の違いが最も大きいものは、大きいおよび非常に大きいTRL-P(中性脂肪が豊富なリポタンパク質粒子)でした。高炭水化物では非常にTRL-Pが増加しました。大きいLDLは低炭水化物と中炭水化物で増加していました。

Lp(a)の変化率は、食事グループによって異なり、低炭水化物で減少、中炭水化物と高炭水化物は変化なしでした。Lp(a)はLDL類似のリポタンパク質で、虚血性心疾患や脳梗塞などで動脈硬化の因子と考えられているものです。

中性脂肪とHDLコレステロールの変化は、高炭水化物と比較して低炭水化物では、中性脂肪が減少し、HDLコレステロールが増加していました。これは心血管疾患のリスク低下を示しています。

LDLコレステロールはすべての食事グループで増加しましたが、高炭水化物と低炭水化物では違いはありませんでした。

 

上の図はLPIR、Lp(a)、LDLコレステロールの変化率です。先ほどの表で示したように、低炭水化物食ではインスリン抵抗性は低下し、動脈硬化の因子とされるLp(a)も低下していました。一方高炭水化物食ではインスリン抵抗性が増加していました。

この結果を見ると、炭水化物(糖質)の摂取量の増加は飽和脂肪酸が7%であるにも関わらず、インスリン抵抗性を増加させ、中性脂肪を増加させ、HDLを低下させます。一方、糖質の減少は飽和脂肪酸が3倍の21%であるにも関わらず、インスリン抵抗性を低下させ、中性脂肪を低下させ、HDLを増加させます。

さて、どちらが心血管疾患のリスクを増加させると考えますか?そして、そのリスク増加の犯人は飽和脂肪酸でしょうか?厚労省の飽和脂肪酸7%には全く根拠がありません。私は飽和脂肪酸が関係していないと考えています。

犯人は当然、糖質です。心血管疾患は糖質過剰症候群です。まずは糖質制限でリスク低下をしましょう。

 

「Effects of a low-carbohydrate diet on insulin-resistant dyslipoproteinemia—a randomized controlled feeding trial」

「低炭水化物食がインスリン抵抗性脂質異常症に及ぼす影響—ランダム化比較試験」(原文はここ

2 thoughts on “飽和脂肪酸は心血管疾患のリスクには関係しない

  1. 20週間の長期に渡って(先生もご指摘のように)厳密な食事管理は難しいのでは。
    にもかかわらず、低炭水化物の健康効果は発揮されてますね。
    あと、
    「飽和脂肪酸は、体内合成が可能であり、したがって必須栄養素ではない。」
    糖質こそ、ですよね。

    1. 鈴木 武彦さん、コメントありがとうございます。

      食事摂取基準は恐らく毎回シナリオができていて、それに当てはめているだけのような気がします。
      本気で見直しなどしていないでしょう。

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