以前はがんは主に中年期以降の病気として考えられてきました。しかし近年若年発症のがんが増加しています。増えているのに、対策は早期発見早期治療だけで良いのでしょうか?
がんの発症には2ヒット説という仮説があります。がんを発症するには、遺伝性のある患者では生殖細胞において既に1回目のヒットすなわち変異を有しており、その後何らかの2回目のヒットが加わることでがんが発症し、一方、非遺伝性の患者では何らかの2回ヒットを受けることでがんが発症する、つまり遺伝性のがんも非遺伝性がんも2回の変異を受けた結果、発がんするという仮説です。
遺伝性のがんは置いておいて、若年発症の非遺伝性のがんでは、どこでヒットを受けているのでしょう。私は1回目はお腹の中、つまり胎児の頃ではないかと思っています。そして、その後生まれて、成長過程の食事が2ヒット目だと思います。または胎児の頃にヒットを受けなくても、成長過程での頻回の糖質過剰摂取が続けば、その蓄積が2回のヒットとなるのではないかと思います。
拙著「肥満・糖尿病の人はなぜ新型コロナに弱いのか 「糖質過剰」症候群II」でも書いたように、AYA世代のがんの増加は非常に恐ろしい現状です。(「AYA世代女性は糖質制限を」参照)
今回の研究では1990〜 2017年の南オーストラリアにおける消化器がんの発生率と生存率の傾向を分析しています。(図は原文より、表は原文より改変)
上の図は各消化器がんの発生率の推移です。緑が男性、オレンジが女性。上側が50歳以下、下が50歳を超える人です。左から結腸直腸、すい臓、胃、食道です。50歳を超える人達の結腸直腸がんは減少傾向にありますが、逆に若年層では大きく増加しています。
上の図は男女、部位、年代による比較です。多くの場合男性の方が発生率が高くなっています。そして18~50歳の2010~2017年を1990~1999年と比較すると、結腸直腸で1.31倍、すい臓で1.83倍、胃で2.24倍、食道で2.6倍です。
患者の特徴 | 18〜50歳 | 50歳以上 | ||
---|---|---|---|---|
発生率(95%CI) | 発生率比(95%CI) | 発生率(95%CI) | 発生率比(95%CI) | |
全体 | 10.60(10.16–11.06) | 196.56(194.20–198.94) | ||
年齢(年) | – | 1.17(1.16–1.18) | – | 1.05(1.05–1.05) |
性別 | ||||
女 | 9.42(8.82–10.04) | 1 | 156.19(153.30–159.11) | 1 |
男 | 11.78(11.12–12.46) | 1.25(1.15–1.36) | 242.33(238.51–246.21) | 1.55(1.51〜1.59) |
時代 | ||||
1990〜 1999年 | 9.13(8.44–9.86) | 1 | 203.04(198.61–207.53) | 1 |
2000〜 2009年 | 10.19(9.46–10.96) | 1.12(1.00–1.24) | 190.74(186.87–194.66) | 0.94(0.91〜0.97) |
2010〜2017 | 12.89(11.98–13.83) | 1.41(1.27–1.57) | 197.16(193.15–201.24) | 0.97(0.94–1.00) |
がん部位 | ||||
結腸と直腸 | 8.85(8.44–9.27) | – | 159.27(157.15–161.42) | – |
膵臓 | 0.75(0.63〜0.88) | – | 16.08(15.41–16.77) | – |
胃 | 0.63(0.53–0.75) | – | 13.44(12.83–14.08) | – |
食道 | 0.38(0.30〜0.47) | – | 7.76(7.30〜8.25) | – |
1990〜1999年と比較して、18〜50歳人の割合は、2010年以降に1.41倍と大幅に増加しました。
専門家はがんが多くなっていることはわかっていますが、なぜ多くなっているのかはわかっていません。2ヒット説を考えると、妊娠中の母親の食事による1ヒット、そして生まれてからずっと糖質過剰摂取に晒されるのが2ヒット目になるのではないかと考えます。
アメリカのAYA世代のがんに関する最近のデータでは、若年発症がんの発生率が青年では毎年1%、20〜39歳の女性では毎年0.4〜1.1%の割合で増加していることを示しています。
たとえば、青年(15〜19歳)は急性リンパ性白血病と悪性リンパ腫になる割合が高く、20〜39歳の人は臓器のがんの発生率が高くなります。20〜39歳の女性のがんの発生率の上昇は、主に乳がん、甲状腺がん、皮膚の悪性黒色腫の増加によって引き起こされています。2007年から2016年の10年間に、20〜39歳のすべての成人で、結腸直腸がん、子宮内膜がん、腎臓がん、および女性の乳がんの有意な増加が認められました。
ずっと現状を眺めているだけでは改善しないばかりか、悪化していくでしょう。がんは糖質過剰症候群であり、糖質はがんのエサであることを考えれば、現在の食事の間違いが大きく影響していることをどうやったら否定できるでしょうか?
まずは糖質制限です。子供に糖質入りの食品の販売制限をすべきです。子供にたっぷりと糖質を与えると子供は笑顔になり罪悪感は感じないかもしれませんが、やっていることは虐待かもしれません。
「Gastrointestinal Adenocarcinoma Incidence and Survival Trends in South Australia, 1990-2017」
「南オーストラリアにおける消化管腺癌の発生率と生存率の傾向、1990〜 2017年」(原文はここ)
「Young-Onset Carcinogenesis – The Potential Impact of Perinatal and Early Life Metabolic Influences on the Epigenome」
「若年発症発がん–エピゲノムに対する周産期および若年期の代謝の影響の潜在的影響」(原文はここ)
病気になる事は、特に癌と診断されれば、
現代社会の悲劇のひとつです。
「スウィーツは別腹」とか言ってる場合ではありませんね。
癌治療中も「食べられる物を何でも」
などと、糖質たっぷりの食品提供の現状。
どうにかならないのでしょうか。
鈴木 武彦さん、コメントありがとうございます。
どうにもなりません。製薬会社、医療業界、(さらに食品業界を含めて)はお客さんを増やしたいですから。
ガン専門医という触れ込みで押川某という人が自身のユーチューブチャンネルのなかで、「ガン患者は糖質を食べても問題なし」と言ってます。メールでやりとりしていますが、まったく聞く耳を持ちません。困ったものですが、「目をつぶれば世界は消える」という類の頑固者の意見を変えさせるのは100年かけても無理でしょう。医者に限りませんが、概して専門家という人は始末が悪いですね
カルダーノ永太さん、コメントありがとうございます。
人の意見を変えさせるのは難しいと思います。
誰のどの考えを正しいと思うかはそれぞれの自由ですから、それぞれが考えて判断すればいいと思います。
がん専門医もがん患者が少なくなると困りますからね。