10日間の断食でどうなる?

人類は飢餓との戦いをしてきたので、絶食時間が長くなってもそれに対応できるように進化してきました。様々な疾患は、人類の初期設定に合わないようなものを食べたり、頻回の食事をしたり、一部のものを食べ過ぎたり、など食事の誤りによって起きていると考えられます。

絶食時間もどれくらいが最も良いのかはわかっていません。数日の断食は健康に良い効果を示すこともあるでしょう。では、10日間の断食で、どのような変化があるでしょうか?

対象は13人の男性で、平均年齢は39.6歳、平均体重は72.1kg、平均BMIは24.6(範囲19.2〜31.9)でした。

医学的監督の下で3日間のベースライン (BL)、10日間の完全な絶食(水のみ)(CF)、4日間のカロリー制限 (CR)、5日間の完全回復 (FR) を行いました。(図は原文より、表は原文より改変)

上の図は、体重変化です。10 日間のCF 後に平均で7.28kg減少しました。特に体重は最初の 3 日間で急速に減少し、前日と比較して1日あたり平均1.20kg 減少しました。体重の下降トレンドは CR2 まで続きました。CF10と比較すると、FR2では大幅な増加が見られ、4日間のFR後、体重は断食前よりも3.45kg減でした。

上の図は血圧や心筋などのパラメータです。脈拍は断食で徐々に増加し、CF8でピークとなり、CR3で下降し始めて、FR3でベースラインに戻っています。これは脱水に関係しているのでしょうね。逆に収縮期血圧は断食で低下して、FR1で最低レベルに達し、FR3でベースラインに戻っています。CKやCK-MBは変動していますが有意ではありませんでした。

BFCF3CF6CF9CR3FR5
MONO%8.16±1.679.53±2.389.85±2.869.90 ± 2.39 *8.88±1.549.37±1.70
MONO (10 9 /L)0.47±0.100.61 ± 0.19 *0.58±0.190.57±0.190.45±0.120.49±0.12
NEUT(10 9 /L)3.27±1.203.85±1.733.33±1.123.24 ± 1.65 *2.44 ± 0.82 *2.70±1.02
NEUT%53.60±5.9257.15±6.7854.83±6.2251.54 ± 9.25 *47.78 ± 7.97 *50.21±7.28
RBC (10 12 /L)4.77±0.574.78±0.585.03±0.615.39 ± 0.63 *5.08±0.604.61±0.49
Hb (g/L)147.92±14.36148.69±15.30156.62±15.60160.46 ± 14.65 *153.08±12.66137.77±13.75
HCT (%)43.22±3.5143.35±3.5645.28±3.4947.30 ± 3.40 **44.10±2.6742.25±3.39

上の表は血液のパラメータです。MONO(単球)は断食で増加し、NEUT(好中球)は減少しています。赤血球、Hb、ヘマトクリット値は全て増加しています。脱水による濃縮でしょうかね?

 

総タンパク質 (TP)、アルブミン (ALB)、グロブリン (GLB) などの栄養タンパク質指標の血中濃度は、FR5 での TP の減少を除いて、全体を通して常に安定していました。ただし、比較的早期に変化するプレアルブミンは CF3で大幅な低下を示し、CF9で最低値に達しまし、FR5でもベースラインを下回りました。CFおよびCR期間中のレチノール結合タンパク質の変化もプレアルブミンと同様な傾向でしたが、FR5でベースラインに回復しました。トランスフェリンもCF3で著しく減少し、FR5でもベースラインを下回りました。(レチノール結合タンパク質とトランスフェリンなどのタンパクは短時間の動的な栄養状態をリアルタイムで示すものです。)栄養が入ってこないので、より重要なタンパクを選択的に合成しているのかもしれませんね。

上の図は体組成です。BF3 と比較して、脂肪量 (FM)はCF6とFR5でそれぞれ約10.7%と17.2%大幅に減少しました。除脂肪量 (LM)はCF6で9.2% 減少し、FR5ではベースラインレベルに回復しました。全身の総脂肪量の割合は、CF6では2.0%しか減少しませんでしたが、FR5では85.7%まで持続的に減少しました。対照的に、全身に占める総除脂肪量 (LM)の割合は、CF6では変化が見られませんでしたが、FR5では5.5%増加しました。まあ、10日間の断食くらいではほとんど筋肉は減少しないようです。

総体水分量 (TBW)、細胞外液 (ECF)、細胞内液 (ICF)については、CF6では総体水分量が11.4%大幅に減少し、TBWの割合に大きな変化はありませんでした。FR5では、TBWは断食前のレベルまで回復し、TBW% は 3.7% 大幅に増加しました。細胞外液 (ECF)、細胞内液 (ICF)はCF6で著しく減少しました。FR5でECFとICFは断食前のレベルまで回復しました。ECF%は増加を示しましたが、ICF%は減少しました。

上の図は糖の代謝のパラメータです。血糖値はCF1から低下し、CF4で最低値となっています。CF8でベースラインに戻っています。一方ケトン体のβヒドロキシ酪酸はCF1から上昇しはじめ、CF5でピークとなり、そのまま高値を維持し続け、CF10から徐々に低下しはじめ、CR3ではベースラインに戻っています。カロリー制限食は当然糖質たっぷりなのでケトン体も低下するのでしょう。しかし、その前の断食の後半にケトン体値が低下し始めるのは興味深いですね。

HBA1cをこんなに頻繁に測定する意味があるのかどうかは疑問ですが、一応CF3ですでに低下しています。インスリンおよびインスリン抵抗性(HOMA-IR)は断食中のみ低下し、CR3ではすでにベースラインに戻ってしまっています。

上の図は脂質パラメータです。10日間の絶食期間中に中性脂肪とHDLコレステロールがわずかに減少しましたが、有意ではありませんでした。断食中に総コレステロールとLDLコレステロール、ApoB、Lp(a)は増加しました。

肝機能および腎機能です。一部の人でALTとASTがFR5 で増加しているのは非常に興味深いですね。クレアチンインはやや増加し、シスタチンC (Cys-C)は減少し、それに伴いeGFRはやや減少していますがFR5ではベースラインに戻っています。

上の図はビタミンと電解質です。断食中、脂溶性ビタミンのビタミンA、E、D3の血中濃度は、CF3でそれぞれ87.15%、17.77%、233.09%増加し、断食中は高いレベルを維持し、食事開始後に断食前のレベルに回復しました。水溶性ビタミンであるビタミンB群とビタミンCに顕著な変化は観察されませんでした。ビタミンCはFR5で大きく低下しているのも興味深いですね。

通常の考えでは、断食は栄養不足、特にビタミン不足につながります。しかし、ビタミンCは断食中は安定し、完全回復食(FR)で大きく低下しているので、糖質を大量に摂取するからビタミンCの消費が大きく増加しているのかもしれません。糖質制限でビタミンCがそれほど必要ではないのではないかという考えと一致します。また、ビタミンB2の増加傾向とビタミンB6のわずかな減少傾向、CF9でのビタミンB1とB9の急激な減少があったのみで、ビタミンB群に大きな変化はありませんでした。脂溶性ビタミンはCF3またはCF6で減少するどころか最高値に達しました。エネルギー源として脂肪が分解される過程で、それらが保存された組織からビタミンが放出されたのかもしれません。または断食により需要が大きく減少したのかもしれません。もちろん、血中濃度は体の中に存在している量をそのまま反映しているとは限りません。しかし、思ったほどビタミンは必要ないのでしょう。糖質過剰摂取がビタミンの需要量を増加させているのかもしれません。。

ナトリウム (Na) のレベルはCF6から大幅に減少し、その後137mmol/L下限を下回りました。FR5ではベースラインレベルに戻っています。塩素イオン (Cl) もNaと同じ傾向です。マグネシウムはCF6からCR3まで減少しました。ナトリウムは血中からシフトして減少したのか、それとも断食中でもインスリンが低下するので、意外と尿中に排泄されているのかもしれません。これも糖質制限時に塩分制限が必要ないという考えと一致します。

呼吸商 (RQ)と安静時代謝率 (RMR) です。RQ値はBF2での0.833からCF9での0.716へ低下し、その後CR3で0.765、 FR4で0.868ともとに戻りました。これはもちろんエネルギー代謝が、断食中に主要なエネルギー源が脂肪に切り替わったことを示していますし、食事を戻せば糖質が主要なエネルギー源になることを示しています。

RMRは、CF3で8.2% (平均差138.2Kcal/日) の増加を示し、CF9では5.3%  (平均差-110.4Kcal/日)減少しました。その後もCR3で8.2% (平均差-166.8 Kcal/日)減少し、FR4 でも5.4% (平均差-119.8 Kcal/日)減少しました。つまり、安静時代謝率はすぐに回復していないようです。

私は食事が好きなので、最近は1日以上の断食をしていません。1日1回の食事でも問題ないですが、2回食べています。1日3回しっかり規則正しく食べることが健康的だというのはウソでしょう。

 

「Effects of 10-Day Complete Fasting on Physiological Homeostasis, Nutrition and Health Markers in Male Adults」

「成人男性のホメオスタシス、栄養、および健康マーカーに対する10日間の完全絶食の影響」(原文はここ

2 thoughts on “10日間の断食でどうなる?

  1. 「糖質制限でビタミンCがそれほど必要ではないのではないかという考えと一致します。」
    サプリより「糖質制限」ですね。

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