AHAサイエンティフィックセッション2022に見るケトン体の可能性

アメリカ心臓協会(AHA)のサイエンティフィックセッション2022には興味深い研究がありました。学会発表レベルですから、エビデンスとしてはまだですが、ケトン体は心臓にかなり有益な効果がありそうです。

まずは豚さんの実験から。

「Abstract 12050: Ketone Ester Supplementation Reduces Cardiac Inflammation and Enhances Cardiac Energetics in Acute Myocardial Infarction」

「ケトンエステルのサプリメントは、急性心筋梗塞における心臓の炎症を軽減し、心臓のエネルギーを高める」(抄録はここ

仮説は、ケトン体は心筋梗塞後に心臓保護効果を発揮する可能性がある、というものです。豚さんに心筋梗塞を起こします。そしてケトンエステルを投与します。その結果、グルコースや脂肪酸の消費に影響を与えることなく、豚の心臓にβ-ヒドロキシ酪酸を増加させました。ケトンエステルを与えた群と与えない群で心筋梗塞のサイズは同じでしたが、炎症誘発性サイトカインであるTNF-⍺、IL-1、IL-6、心臓の損傷を示すトロポニンIなどはケトン体群で減少していました。ケトン体を与えていない豚の心臓では脂肪酸の消費が少なく、グルコースの取り込みには変化がなかったのですが、ケトン体群の豚の心臓はβ-ヒドロキシ酪酸と脂肪酸の消費が増加していました。心筋梗塞の急性期にケトン体を経口摂取することで、心臓の炎症と損傷を抑制し、心臓のエネルギー源の取り込みを変化させ、心臓エネルギーを増強しました。

 

「Abstract 10589: Effects Of 3-Hydroxybutyrate on Cardiac and Mitochondrial Function During Heart Transplantation」

「心臓移植中の心臓およびミトコンドリア機能に対する 3-ヒドロキシ酪酸の影響」(抄録はここ

仮説は、常温局所還流後の心臓はケトン体のβ-ヒドロキシ酪酸を注入することにより、心臓血行動態と心臓移植後のミトコンドリア機能を改善するというものです。約80kgのブタを15分間の無酸素心停止後、常温局所灌流の心肺バイパスマシンを使用しました。β-ヒドロキシ酪酸を注入する群としない群に分けました。ケトン体注入群では当然ケトン体値が上昇しました。それだけではなく心拍出量、1回拍出量も増加しました。心臓移植後、最大のミトコンドリア呼吸は、対照と比較して50%の改善に対応するベースラインレベル(ベースラインは何なのかわかりません)に戻りました。β-ヒドロキシ酪酸の注入により、常温局所灌流後の心臓血行動態の回復が改善され、ミトコンドリアの呼吸能力の改善と関連していました。

 

次は人間さんです。

「Abstract 15256: Treatment With Ketone Ester in Patients With Cardiogenic Shock Improves Cardiac Performance」

「心原性ショック患者におけるケトンエステルによる治療は心機能を改善する」(抄録はここ

仮説は、心原性ショックで入院した患者では、ケトンエステルによる急性治療は有益な血行動態効果をもたらす、ということです。強心薬や昇圧剤で治療された心原性ショック患者 12 例を対象として、ランダムな順序で、500mg/kg のケトンエステルを経腸的に注入したものと、マルトデキストリンを含む等カロリー、等容量のプラセボを投与されました。各研究期間は3時間続き、3時間のウォッシュアウト期間で区切られました。その結果、ケトンエステルは、血中のβ-ヒドロキシ酪酸をプラセボに対して有意に増加させ、心拍出量および1回拍出も増加しました。さらにケトンエステルは、プラセボに対して混合静脈血酸素飽和度(SVO2 )を増加させ、左室駆出率およびglobal longitudinal strainも増加させました。つまり、ケトンエステルによる治療は、心拍出量と左心室機能を増加させることにより、心原性ショック患者に有益な血行動態効果をもたらすことを示しています。

 

上の3つの研究のように、ケトン体の可能性はますます広がりそうです。心臓だけでなく認知症、頭部外傷、脊髄損傷など用途は非常に多いでしょう。特に急性期に速やかに投与できれば、かなり予後が改善するかもしれません。1日も早く日本でもケトン体を治療として使用できるようになるといいですね。少なくとも、様々な疾患などで摂食ができないときに、点滴で糖を体に入れることだけでもやめてほしいですね。せっかく体がケトン体を作ろうとしているのですから。

いまだにケトン体が有害だと思っている医師っているのかな?

One thought on “AHAサイエンティフィックセッション2022に見るケトン体の可能性

  1. ネズミさんより豚さんのほうが、より人に近いデータが得られそうですね。
    豚さんで移植臓器を調達、なども耳にしたこと有ります。

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