タンパク質は一度に大量に摂っても大丈夫 1回のタンパク質量の上限はない?

タンパク質の1回の摂取量は20gとか30g程度で上限があるというのが定説のようになっているので、こまめにタンパク質摂取を行っている人もいるでしょう。でも私はそれを全く信じていませんでした。私自身は1日2食で、1回はそれほど多くのタンパク質を摂りませんが、夕食はビッグな食事を摂り、1食で500g前後の肉を食べることも珍しくありません。

これまでの、定説は恐らく下の図(図はこの論文より)からきていると思われます。この研究で頭打ちだったのはなぜかわかりませんが、ドリンクだったからだと推測していましたが、違ったようです。どうやら実験する時間が短すぎたようです。

今回の研究では、そのタンパク質摂取上限説を打ち破っています。筋トレの後、ホエイプロテインでタンパク質25g (25PRO)、タンパク質100 g (100PRO)、またはプラセボ(タンパク質0g)  (0PRO) を摂取します。それぞれのグループは12人ずつで、計36人の平均年齢25歳、BMI23.4の健康な男性です。12時間経過を追っています。(図はこの論文より)

上の図は血糖値、インスリン、アミノ酸の血中濃度です。血糖値の変化はどの群でもなく、インスリンは100gがほんの一時的に最も多く分泌されています。図のDの総アミノ酸量で見ると、25PROでは5時間後のアミノ酸濃度はプラセボと変わらなくなりましたが、100PROでは食後12時間の終了時点でも依然として大幅に高かったです。これは、100PROがまだ消化中であることを示唆しています。

 

一般には、タンパク質の摂取により全身のタンパク質合成速度が最大レベルまで刺激され、その後過剰なアミノ酸が酸化に向けられると考えられています。

上の図は、図のGがタンパク質合成、Hがアミノ酸の酸化、Iはタンパク質のネットバランス(タンパク質の合成量から分解量を引いたもの)です。Jはそれを一つにまとめたものです。

全身タンパク質代謝は100PROで、最も高いタンパク質合成反と最もプラスのネットバランスを示しました。しかも12時間後でもまだ続いています。タンパク質摂取はアミノ酸酸化の増加を少しだけ刺激しましたが、その増加はタンパク質合成の増加と比較すると無視できるようなレベルです。図のLのようにタンパク質摂取量と全身タンパク質のネットバランスとの間に強い正の相関関係をもたらしました。

 

 

上の図はタンパク質摂取後の筋肉タンパク質結合フェニルアラニン濃縮の増加を示していますが、食事タンパク質由来のアミノ酸が筋肉タンパク質に取り込まれていることを表し、100PROが大きく増加しているのがわかります。

 

上の図は筋原線維タンパク質合成を示し、6時間でも12時間でもタンパク質量が多くなるほど、血中のロイシンが多くなるほどタンパク質合成は増加しました。筋原線維タンパク質合成速度は、25PRO と比較した場合、100PROでは初期の0~4時間では約20%高いだけでしたが、その後の4~12時間では約40%高くなりました。

図のAに示すように、食後12時間にわたって体の循環中に現れる食事タンパク質由来のアミノ酸の絶対量は、25PROと比較して、100PRO摂取後の方が実質的に多くなっていました。そして摂取したタンパク質のパーセンテージとして表すと、25gのタンパク質を摂取した後、4 時間、8 時間、12 時間で循環系への食事タンパク質由来のアミノ酸の累積放出は平均してそれぞれ 51%、62%、66%と頭打ちになっていました。しかし100gタンパク質では、26%、44%、53%で、12時間を超えてもまだ増加しそうでした。

大量のタンパク質を摂取すると、完全な消化、アミノ酸の吸収、およびその後の循環へのアミノ酸の放出が可能になるまでに、より長い時間が必要であることを示しています。

図のBに示すように、血漿タンパク質への食事タンパク質由来のアミノ酸の取り込みは、25 g および 100 g のタンパク質を摂取した後の12時間で、それぞれ平均2gおよび4gと推定され、それぞれ摂取タンパク質の6%および4%に相当します。血漿タンパク質プールのサイズが小さいので筋肉よりもかなり少ないのでしょう。

図のCに示すように、筋肉への取込みは、25gのタンパク質を摂取した後、それぞれ4 時間、8 時間、および 12 時間にわたって、摂取されたタンパク質の12%、15%、18% が骨格筋に取り込まれたと計算され、やはり頭打ちに見えます。100gの場合は12時間で13g(13%)ですが、時間経過とともに直線的に増加しているので、まだまだ増加しそうです。

Dは摂取したタンパク質の代謝運命を表します。

Eは血漿タンパク質合成ですが、最初の4時間および食後12時間全体では摂取量増加に伴い合成速度も増加しました。

FおよびGは、循環中へのアミノ酸放出および末梢組織への血漿アミノ酸取り込みの食後の増加について、内因性タンパク質と外因性(食事)タンパク質の割合です。白が内因性で、グレーが外因性です。これも摂取量が増加すると、当然外因性の割合が高くなり、12時間で100PROだと30%程度になります。

Hは筋組織の合成に対する内因性タンパク質と外因性タンパク質の割合です。25PROで9%なのに対し100PROでは27%にもなります。

興味深いことに、mTORなど筋タンパク質シグナル伝達または筋遺伝子発現に対するタンパク質摂取の影響は観察されませんでした。恐らくこれらの検査の1回目が240分(4時間後)であったのが影響しているのでしょう。これらのシグナル伝達はタンパク質摂取後1時間程度で起こり、すぐに低下してしまうようです。しかし、大量のタンパク質を摂取しても、筋タンパク質シグナル伝達までもがずっと持続するのではないことがわかりました。これらのシグナルは初期の刺激が重要なのでしょう。アミノ酸のロイシンの利用可能期間が長くてもmTOR活性化が長引くわけではなく、食後の筋タンパク質合成速度の増加を持続させるのにシグナル伝達の強化は必要ないようです。

これらのデータは、タンパク質の完全な消化、アミノ酸の吸収、循環への外因性タンパク質由来のアミノ酸の放出、その後の組織タンパク質プールへのアミノ酸の取り込みを可能にするために、大量のタンパク質の摂取の場案には長時間を必要とすることを示しています。食後の状態の持続時間は摂取したタンパク質の量に依存し12時間をはるかに超える可能性があります。

 

これまでは食事性タンパク質がタンパク質合成に利用できる速度を超えて摂取されると、過剰なアミノ酸が酸化に向けられると言われていますが、どうやらそんなことはないようです。

もし、一度の食事でタンパク質摂取量の上限が決まっているのであれば、多くの種は絶滅し、人間も存在していなかったのではないかと思います。肉食の動物は、獲物がいなければ食事にありつけません。毎日決まった時間に好きなだけ食事ができるわけではありませんでした。食べられるときにお腹いっぱいに食べて、それが十分に体の構成成分となるということができるメカニズムを持っているからこそ、これまで絶滅しなかったのでしょう。

100 gという大量のタンパク質を摂取すると、全身タンパク質の分解率、筋肉のmTORシグナル伝達、または筋肉のオートファジーのマーカーを損なうことなく、長期にわたる同化作用をもたらすことが示されました。

恐らく、何度にも分けてタンパク質を摂取させることを推奨することは、どこかの産業、企業にとって有利なのかもしれませんが、何度も何度も食事をする必要はありません。人間は1日分のタンパク質を1回で摂っても、ちゃんと体が作り上げられるのです。もちろん、1回の食事でたくさんの量を食べられない人は分けて食べれば良いでしょう。

筋肉増強のゴールデンタイムも必要ないでしょうね。プロテイン業界が作ったウソかもしれません。

少なくとも1回の食事で20~30g以上のタンパク質を摂取しても、無駄にはなりません。

 

「The anabolic response to protein ingestion during recovery from exercise has no upper limit in magnitude and duration in vivo in humans」

「運動からの回復中のタンパク質摂取に対する同化反応は、ヒトの生体内での大きさと持続時間に上限がありません」(原文はここ

5 thoughts on “タンパク質は一度に大量に摂っても大丈夫 1回のタンパク質量の上限はない?

  1. シンプルな肉食系は消化に悪く、コメソバうどん小麦系は消化によいとか、よくテレビのバラエティーで見聞きしますが、自分としては以前から真逆の感想を持っていて、肉タマゴ系はまったく胃にもたれないのです。そうしたら最近、内視鏡で胃の中を毎日見ている内科医が実感として同様なことを本に書いていました。
    それから、網膜の血管を日々観察している眼科医が言うには、糖質制限をしている患者は細い血管が太くなり血流も増えてくると、こちらも本に書いています。
    これらの具体例はまさに事実が俗説を蹴っ飛ばすという意味で実に小気味よいですね

    1. 山下の猛やんさん、コメントありがとうございます。

      一般的な定説などは、誰かの思惑で出来上がっている可能性が高いと思います。
      常識や定説を疑ってみないと、健康にはなれないかもしれません。

  2. 自称「トレーナー」、
    玉石混交ですが、
    最優先目的がパフォーマンス向上
    でしようから、
    アドバイスは必ずしも健康に資する
    とは限らないのでしょうね。

    1. 鈴木武彦さん、コメントありがとうございます。

      十分なタンパク質を食事で摂っていれば、ゴールデンタイムなどは気にする必要はないのでしょうね。
      もちろん、時間制限食でも筋肉が減ることは考えられません。

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