高血圧になると血圧を下げる薬が処方されます。それにより糖尿病になるなんて誰も考えていないでしょう。しかし、現実には血圧の薬で血糖値がすることがあります。もちろん医師はそのことを知っているはずですが。
今回の研究では、ベースラインで糖尿病の病歴のある人を除外した後、高血圧の病歴のある41,193人の高齢女性、14,151人の若い女性、19,472人の男性を前向きに研究しました。追跡期間は8~16年です。その間に合計 3,589例の2型糖尿病症例がありました。
高血圧の薬の種類による糖尿病発症の違いを調べました。(表は原文より改変)
薬 | 年齢調整後のRR (95% CI) | 多変量RR (95% CI) |
---|---|---|
サイアザイド系利尿薬 | ||
なし | 1.0 | 1.0 |
あり | 1.30 (1.12 ~ 1.50) | 1.20 (1.04 ~ 1.40) |
βブロッカー | ||
なし | 1.0 | 1.0 |
あり | 1.34 (1.17 ~ 1.54) | 1.25 (1.08 ~ 1.43) |
カルシウムチャネルブロッカー | ||
なし | 1.0 | 1.0 |
あり | 1.19 (1.02–1.39) | 1.08 (0.92–1.26) |
ACE阻害剤 | ||
なし | 1.0 | 1.0 |
あり | 0.89 (0.74–1.08) | 0.91 (0.75–1.10) |
他 | ||
なし | 1.0 | 1.0 |
あり | 1.27 (1.07 ~ 1.51) | 1.19 (1.00–1.42) |
まずは、上の表は降圧薬の使用と高血圧高齢女性における2型糖尿病発症のリスクです。利尿薬とβブロッカーでは、糖尿病発症リスクが高いですね。1.2倍から1.25倍です。
薬 | 年齢調整後のRR (95% CI) | 多変量 R (95% CI) |
---|---|---|
サイアザイド系利尿薬 | ||
なし | 1.0 | 1.0 |
あり | 1.87 (1.43–2.44) | 1.51 (1.15 ~ 1.98) |
他 | ||
なし | 1.0 | 1.0 |
あり | 1.69 (1.30–2.18) | 1.37 (1.05–1.77) |
薬 | 年齢調整後のRR (95% CI) | 多変量RR (95% CI) |
---|---|---|
サイアザイド系利尿薬 | ||
なし | 1.0 | 1.0 |
あり | 1.37 (1.12–1.67) | 1.31 (1.07 ~ 1.60) |
βブロッカー | ||
なし | 1.0 | 1.0 |
あり | 1.26 (1.06 ~ 1.50) | 1.21 (1.01 ~ 1.45) |
カルシウムチャネルブロッカー | ||
なし | 1.0 | 1.0 |
あり | 1.13 (0.92 ~ 1.40) | 1.03 (0.83–1.28) |
他 | ||
なし | 1.0 | 1.0 |
あり | 0.97 (0.79–1.20) | 0.94 (0.76–1.16) |
上の表は降圧薬の使用と高血圧男性における2型糖尿病発症リスクです。同様に利尿薬とβブロッカーでリスクが1.31倍から1.21倍です。
別の研究を見てもやはり、利尿薬とβブロッカーは新規に糖尿病発症の可能性が高くなるようです。(ここ参照)
上の図は様々な薬との比較です。利尿薬(Diuretics)とβブロッカー(Beta-blocker)が他も薬よりもリスクが高いことがわかります。
下の図はそれぞれの血圧の薬がインスリン抵抗性の増減にどのように影響があるかを示しています。(下図はここ参照)
上の図を見るとサイアザイド系の利尿薬とβブロッカーはインスリン抵抗性を増加させ、ACE阻害薬とαブロッカーはインスリン抵抗性を低下させています。それに伴って利尿薬とβブロッカーでは中性脂肪も増加しています。
実はカルシウムチャネルブロッカーもインスリン分泌を減少させるとされており、多少高血糖のリスクはあるようですが、恐らくは臨床的には問題にならないのでしょう。もちろん最近よく処方されるARBとかは大丈夫ですが。
いずれにしても、高血圧の薬の中でもインスリン抵抗性を増加させ、血糖値を悪化させ、新規の糖尿病を発症させるリスクが高い薬があることは注意が必要です。
ある研究で、βブロッカーおよび利尿薬で血圧の治療されている男性を対象に、60歳を過ぎてからの心筋梗塞の発症を調べたところ、空腹時血糖値の上昇と、高血圧の治療が心筋梗塞発症の有意な予測因子でした。βブロッカーとサイアザイド系利尿薬による降圧治療中にプロインスリン濃度が上昇し、空腹時血糖値が上昇するインスリン抵抗性が増加し、インスリン抵抗性状態と誘発された代謝障害の両方が、心筋梗塞を発症するリスクの増加と関連していると結論付けています。(この論文参照)
以前の記事「高血圧の薬で血圧が上昇することがある」で書いたように高血圧の薬で血圧が上がることがありますし、今回のように血糖値が上がることもあります。いずれにしても代謝の問題を食事ではなく、薬で何とかしようとすると、別の代謝に歪が出てしまうのでしょう。
下肢のむくみで利尿薬を処方されるパターンもあるので、その場合も血糖値悪化に注意が必要でしょう。
高血圧は糖質過剰症候群です。糖質過剰摂取のままで、高血圧の薬で耐糖能が悪くなるなんて、いったい何をやっているのでしょうか?
「Antihypertensive medications and the risk of incident type 2 diabetes」
「降圧薬と2型糖尿病発症のリスク」(原文はここ)
「国民薬」と言って良いほど、
高齢者で飲んでない人は
珍しいくらいの降圧剤ですが、
医療へのgate drug的にも
感じます。