うつと鉄欠乏を結び付けている人もいるようです。鉄欠乏だと本当にうつのリスクが上がるのでしょうか?もしそうであれば、若い女性にうつが頻発しそうです。
一部の人が鉄の充足をフェリチン値で評価しようとしていますが、低フェリチンで鉄不足はわかっても、高フェリチンは鉄が十分に足りているかどうかの評価になりません。
うつとフェリチン値の関連を示す研究で最もはっきりした関係を示しているのは、テヘランの医学部の女子医学生192人を対象にした研究かもしれません。研究対象集団におけるうつ病の有病率は34.7%でした。かなりうつの有病率の高い集団ですね。(ここ参照、図はこの論文より)
上の図はうつと健康なコントロールの人の様々なパラメータです。最後のベックスコアはうつのスコアですが、恐らく間違いで、うつとコントロールが逆になっています。フェリチン値を見てみると確かにうつの方がフェリチン値が低いですね。しかし、うつの人でもフェリチン値は2~103の範囲でした。つまりフェリチンが100でもうつになります。フェリチン値15以下だと15を超える人比較してうつになる可能性は1.92倍です。鉄欠乏の発症率はうつの人の方が40.3%と健康な人の23.8%と比較して確かに高くなっています。
でも、なんかパッとしません。
アメリカのNHANES 2017 ~ 2020のデータを見ていましょう。18~25歳の917人が対象です。鉄欠乏の定義はフェリチンが30μg/L未満、血清鉄60μg/L未満またはトランスフェリン飽和度16%未満としています。
抑うつ症状はPHQ-9を使用して評価されました。うつはPHQ-9スコアが10以上であると定義されました。そうすると、男性は6.8 %、女性12.5 %と女性の方が うつ病を患っていました。(表はここより改変)
うつ | |||
---|---|---|---|
全体 | 男性 | 女性 | |
OR | OR | OR | |
鉄欠乏症(欠乏症なしを参照) | |||
フェリチン欠乏 | 0.80 | 14.13 | 0.34 |
血清鉄欠乏 | 1.32 | 4.84 | 0.51 |
トランスフェリン欠乏 | 1.69 | 13.79 | 0.72 |
上の表のように男性では様々な鉄欠乏のパラメータとうつの可能性は関連していて、フェリチン低値だとうつの可能性は14倍です。しかし、女性全体ではうつの有病率が高いのですが、フェリチン低値は逆にうつの可能性が0.34倍とフェリチンが低い方がうつになりにくいという結果です。
日本人の研究を見ていましょう。312⼈の男性(平均年齢はおよそ44歳)と216⼈の⼥性(平均年齢はおよそ41歳)が対象です。うつの評価はCES-Dスコアというものを用い、CES-Dが16以上の場合にうつ病症状が存在すると定義しました。この定義には他のカットオフ値も使⽤されました。⽇本⼈労働者の間で使⽤が推奨されている19以上と、重度のうつ病状態を⽰す23以上です。
男性の36.5%、⼥性の36.1%がCES-Dスコアが16以上でした。これも結構高めの有病率ですね。 CES-Dスコアが19以上および23以上の⼈の有病率は、男性でそれぞれ26.0%と14.4%、⼥性で26.4%と14.4%でした。フェリチンの平均値は、⼥性49.7 μg/L、男性163.9 μg/Lで、⼥性では50歳以上の⼈のフェリチンは77.6 μg/L、50 歳未満の⼥性では38.6 μg/Lでした。(図はここより)
上の図は男女別のフェリチン値に従って4つのグループに分けたときのCES-Dのカットオフ値別、うつの可能性を示しています。様々な調整をした場合、最もフェリチンが高いグループと比較しても、最も低いグループではうつ病の可能性は有意差がなく、それは男女とも、カットオフを変えても変わりません。
CES-Dを19で分けたときに男性ではフェリチン値が低い方がうつの可能性が高い傾向がありました。しかし、女性の最も低いフェリチン値のグループでは6.3であるにもかかわらず、最も高いグループとうつの可能性の違いはありませんでした。
中国人の研究を見てみましょう。平均年齢48.5歳の3,839人(男性59.5%)が対象です。うつ病の評価はSDSスコアというものを用い、この研究では、うつ病の症状を定義するために4つのカットオフポイント(40、45、48、50) が使用されました。(図はここより)
上の図はフェリチンによって4つのグループに分けたときの、うつ病との関係を示しています。うつの有病率は、SDSが40、45、48、50 でそれぞれ36.5%、17.6%、11.0%、7.0% でした。うつ病は4つのカットオフ(40、45、48、50)で行われ、いずれのカットオフでも有意な関連性は見られませんでした。
つまり、うつと鉄欠乏の関連性を示す研究もあれば、関連性が無いという研究もいくつもあります。特にうつとフェリチンの関係はあったとしても、低フェリチンがうつの原因ではないでしょう。
逆に鉄は酸化ストレスを増加させますし(「鉄と酸化ストレス」参照)、鉄は老化物質という考えもあります。鉄欠乏でないないのであれば、むやみに鉄を増やす必要はありません。
軟骨組織修復のために、ヒアルロン酸や
コンドロイチンなどという物を摂取する、事は言わずもがなですが、
サプリメントやビタミン剤、もしかしたらプロテインなどの摂取でも、期待した
効果が得られるのか?と言えば、
プラセボ効果以上の効能は、きっと
ないように思います。
しかし副作用や予期しない障害は必ずありそうです。
鈴木武彦さん、コメントありがとうございます。
足りない足りない教に嵌ってしまうと大変です。どんどん食事以外で必要なものが増えてしまいます。
足し算ばかりしていると、実際にはそれが掛け算になっていたり引き算になっていたり割り算になっていたりしていることに
気が付きません。塊で摂った栄養素がどのような影響を与えるのかすらわかっていません。
まずはちゃんと引き算をして、そのうえで足りないものを足すことが必要でしょう。