糖質摂取により血糖値よりも乳酸が先に増加する

いまだに乳酸は疲労物質だと思っている方もいるかもしれません。乳酸は疲労物質でも老廃物でもありません。エネルギー源です。例えば、乳酸の代謝を筋肉で見ると、速筋線維はミトコンドリアが少なく、グリコーゲンが比較的多く、解糖系が進むと乳酸ができやすいのですが、遅筋線維および心筋はミトコンドリアが多いので、乳酸をたくさん使うことができます。速筋線維でできた乳酸が遅筋線維や心筋で使われ、このようなメカニズムを細胞間乳酸シャトルともいいます。

また、脳では、神経細胞は血流からのブドウ糖ではなく、隣接するアストロサイト(星状細胞)から乳酸を受け取って、その乳酸を主なエネルギー源としているという乳酸シャトル仮説が唱えられています。アストロサイトから神経細胞への乳酸シャトル仮説は、アストロサイトがブドウ糖を代謝して乳酸を生成し、その後細胞外に放出されて神経細胞に取り込まれ、神経細胞ではその乳酸はピルビン酸に変換され、TCA回路に入り、神経活動の亢進を維持するために必要なエネルギーを生成すると考えられています。

もしかしたら、ブドウ糖そのものを解糖系で代謝して、その後TCA回路に入るのではなく、一旦乳酸に変えて、それをピルビン酸に戻して、TCA回路でATPを作ることをわざわざしている可能性があります。

今回の研究は乳酸についての非常に興味深いものです。乳酸シャトルは我々の体には重要なのかもしれません。

対象は21~35歳(平均年齢26.4歳)の男性7名と女性8名、健康でBMIが18.5~30未満(平均23.5)でした。12時間の絶食後、経口ブドウ糖負荷試験(OGTT)を行いました。(図は原文より)

図1

上の図は、OGTTによるインスリン、グルカゴン、血糖および乳酸の濃度の推移です。5分後を注目してください。血糖値がまだ上昇していないにもかかわらず、インスリンは増加し、乳酸も増加しています。その後はもちろん血糖値が上昇しグルカゴンは低下し、インスリンは増加しています。乳酸はずっと上昇のままですが、30分値で一旦ちょっと減少しています。

乳酸:ピルビン酸比(L:P)は、OGTT前は10でしたが、OGTT後15分までに20に上昇し、観察期間中10以上を維持しました。L:P の変化はピルビン酸ではなく主に乳酸の変化の結果でした。

図2

上の図は動脈ブドウ糖出現率(Ra)、乳酸出現率、図のcはOGTT後5分の乳酸とブドウ糖の出現率の変化量です。先ほどもあったように、血糖(ブドウ糖)が上昇する前のOGTT5分値ですでに乳酸が上昇してきています。乳酸出現率はその後30分でちょっと減少、再度その後上昇です。

図のcに示すように、5分間ではほとんどブドウ糖の出現率は増加していないのに、乳酸出現率は大きく増加しています。つまり、ブドウ糖が血中に入る前、つまり腸で解糖が行われて、そこで乳酸が生成されていると考えられます。ブドウ糖負荷の約2%が5分以内に乳酸として出現したことになります。

乳酸出現率は30分で一旦減少するので、最初の30分が腸での解糖による乳酸シャトル相、その後が全身性の乳酸シャトル相と考えています。

図3

上の図はaがOGTT前後の酸化(エネルギー源となった)によって消失した乳酸の割合、bがOGTT前後の糖新生において使われる割合を示しています。乳酸の酸化速度は、OGTT後に46%から57%に著しく上昇しました。

図のbに示すように、空腹時では乳酸は糖新生を介して消失している割合が高いので、血糖値維持に使用されていると考えられます。しかしブドウ糖を負荷すると、糖新生は減少し、直接エネルギー源として使用されることが多くなるのでしょう。

図4

 

上の図はaがOGTT後30分での、摂取したブドウ糖の行方です。bは120分間での行方です。黄色が血中の乳酸、青が肝臓のグリコーゲンおよびブドウ糖、赤が血中のブドウ糖、緑は糖新生です。75gのブドウ糖は30分間(腸の乳酸シャトル相)で、血中乳酸として9g、肝臓を迂回した血糖として3g、糖新生を介した乳酸由来の血糖として2g、肝臓のグリコーゲンおよび肝臓に保持されるブドウ糖として61gでした。血糖で全体で5gなので、1g/L=100mg/dLですね。

その後120分での全身性乳酸シャトル相を含めた全体として、75gのブドウ糖負荷は、29gは血中乳酸として、24gは肝臓からのブドウ糖放出からのブドウ糖で、8gは糖新生からのブドウ糖で、14gは肝臓のグリコーゲン貯蔵庫として残っているか、不明です。しかし、いずれにしてもブドウ糖を経口摂取すると非常に多くの割合が血中の乳酸に変わっています。解糖系が非常に亢進しているのがわかります。

乳酸シャトルは2相性であり、経口摂取してすぐの腸の解糖と、その後のブドウ糖が解糖系で全身で処理される全身相があると考えられます。

そして、経口摂取から5分以内で乳酸と共にインスリンが上昇しているのは、インスリンが腸の解糖に関わっていることだと思われます。さらに、乳酸はもしかしたらもっと体内で重要な役割があり、シグナル伝達物質でもある可能性があります。

また肝臓のグリコーゲン合成は、ブドウ糖の摂取後2分ですでに起こるそうです。(ここ参照)経口摂取されたブドウ糖は、食後の初期段階では肝臓での取り込み率はかなり高く、肝臓のブドウ糖の代謝または貯蔵能力を超えた場合にブドウ糖が直接循環に移行すると考えられます。進化の過程では、糖質はほとんど無かったために、できる限り早く肝臓に貯蔵しようと進化したのかもしれません。

いずれにしても、乳酸生成は普通に起きていることで、疲労物質でも老廃物でもありません。腸で一度乳酸に変えてから血中に入ることで体へのダメージを減らそうとしているのか、他の何か重要な目的があるのか、よくわかりません。また、全身性の乳酸シャトルにしても、血糖をそのまま取り込むよりも乳酸として取り込む方が何らかの利点があるのかもしれません。それとも少しでも早く血糖値を下げたいがためのメカニズムでしょうか?

まだまだわからないことばかりです。

「Enteric and systemic postprandial lactate shuttle phases and dietary carbohydrate carbon flow in humans」

「ヒトにおける腸内および全身の食後の乳酸シャトル相と食事性炭水化物炭素流」(原文はここ

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です