マウスウォッシュで血糖値改善? コロナのイソジンうがいに続きまたも大阪から

最近、こんな記事を見つけました。(記事はここ

マウスウォッシュが2型糖尿病の改善にもつながる! – 阪大の研究成果

大阪大学(阪大)は2月20日、2型糖尿病患者が消毒薬「クロルヘキシジン」を配合した市販マウスウォッシュを用いてうがいを行うことで、口腔内に存在する悪性度の高い歯周病菌種が減少すると同時に、血糖コントロール状態が改善することを明らかにしたと発表した。

同成果は、阪大大学院 歯学研究科 口腔全身連関学共同研究講座の又吉紗綾特任講師(常勤)、同・伊藤直人招へい教員、同・仲野和彦教授らの研究チームによるもの。詳細は、英オンライン総合学術誌「Scientific Reports」に掲載された。

30歳以上のおよそ8割もの人々が罹患しているとされる歯周病は、歯周病菌が歯と歯茎の境目に溜まることで引き起こされ、歯茎に炎症が生じたり、口臭を悪化させたりすることで知られる。歯磨きなどを怠ると生じ、そのまま放置しておくと、歯を支える骨などが溶けてしまう危険性すらあることから、決して軽視してはならない疾患である。同疾患を抑制するには、家庭で日常的に歯磨きやうがいなどの口腔ケアを行って歯周病菌を減らしたり、歯科で治療を受けたりする必要がある。

そうした中で近年になって、歯周病に罹患することで糖尿病にも悪影響が生じることが明らかになった。それまでの研究からも、糖尿病患者が歯科で歯周病の治療を受けた場合、歯周病そのものが改善するだけでなく、血糖コントロール状態が改善されることも報告されていた。その一方で、糖尿病患者のうち、遺伝の他に、過食や肥満、運動不足などが罹患要因として知られる2型糖尿病患者が、クロルヘキシジン配合マウスウォッシュを用いたうがいを行うことによって口腔および全身の状態にどのような影響を及ぼすかについては、明らかにされていなかったという。

そこで研究チームは今回、2型糖尿病患者に対し、消毒薬のクロルヘキシジンを配合したマウスウォッシュを用いて半年間うがいをしてもらい(対照群は水道水でのうがい)、歯周病菌種数と血糖値の変化を評価したとする。

今回の研究では、大阪府内の糖尿病クリニックを受診中の2型糖尿病患者173人が対象とされた。そして半年間のうがいの結果、クロルヘキシジン配合マウスウォッシュを用いてうがいを行うことで、口腔内に存在する悪性度の高い歯周病菌種が減少すると同時に、比較的若い2型糖尿病患者において血糖コントロール状態が改善することが明らかになった。

クロルヘキシジン配合マウスウォッシュを用いたうがい習慣は、家庭で行うことのできる口腔ケアの中でも簡便であることから、日々の生活に取り入れやすいと考えられるという。研究チームは、今回の研究成果を啓発することにより、2型糖尿病患者が歯科医院でのプロフェッショナルケアに加え、クロルヘキシジン配合マウスウォッシュを用いたうがいを積極的に日常の口腔ケアへ取り入れることで、歯周病の改善だけでなく、歯周病によって惹起される血糖値上昇の改善にもつながることが期待されるとしている。

大阪大学の研究のページもこの記事にも下の図が掲載されています。(図はここの阪大のページより)

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パッと見、マウスウォッシュでうがいをすると、HbA1cが1%程度低下しているように見えます。本当であれば凄い効果です。マウスウォッシュしただけですから。しかし、この図について、このように書かれています。

「クロルヘキシジン配合マウスウォッシュうがいによる悪玉歯周病菌種の減少および糖尿病マーカー(HbA1c)改善の1例

1例のデータで、この実験の内容を説明しているわけではないようです。チャンピオンデータの可能性もあります。では、本当の論文を見てみましょう。

対象は173人の2型糖尿病の人で、平均年齢66.9歳、HbA1c7.36、2型糖尿病罹患期間13.46年、BMI23.66です。患者には、6か月間1日3回水でうがいをし、その後6か月間うがい薬で1日3回うがいをするよう指示されました。(図は原文より)

図2

上の図はうがいによる悪玉歯周病菌の数とHbA1cの推移です。クロルヘキシジンという消毒薬が入っているので、歯周病菌はマウスウォッシュのうがい6か月で激減しています。そして、HbA1cも大きく低下しています。この上の図は先ほど書いたように、顕著に効果があった一人の症例にすぎません。

消毒薬入りマウスウォッシュで菌が減少するのは良いとして、HbA1cはこんな顕著な効果を示していない他の人たちではどうなのでしょうか?

1日1回以下のうがいをした患者では歯周病菌の数が減少しなかったため、1日2~3回うがいをした161人の患者に焦点を当てました。

図4

上の図のAは歯周病菌の数です。ベースラインと6カ月、つまり水によるうがい、そして12か月のマウスウォッシュによるうがいで比較すると、確かに12か月で菌は減少しています。次に図のBを見てみましょう。これはHbA1cです。ベースラインと比較して6か月で低下しています。えっ?6か月は水によるうがいだったはずです。マウスウォッシュの12か月を見るとベースラインと変わりありません。

実はHbA1cは季節によって変動しすることがわかっています。水によるうがいとうがい薬によるうがいは異なる季節に行われました。161人の患者の過去のHbA1cデータを確認したところ、図のCのようになっていました。冬から春にかけてHbA1cは高く、(春~)夏から秋にかけて低くなっています。水うがいが季節のHbA1c改善期と一致し、マウスウォッシュによるうがいは増悪期と一致していました。そのことを調整すると、図のDのように水うがいもマウスウォッシュもHbA1cの変化を示しませんでした。

下の表は様々な因子とHbA1cの変化の関連です。

水うがいマウスウォッシュうがい
年齢(歳)
  ≤ 680.03±0.06 −0.06±0.07
  ≥ 69 −0.04±0.050.15±0.05
HbA1c  (%)
  ≤ 7.40.02±0.040.12±0.05
  ≧ 7.5 −0.02±0.08− 0.05 ± 0.08
性別
 男 −0.03±0.050.05±0.06
 女性0.06±0.060.04±0.08
2型糖尿病の期間 (年)
  ≤ 130.00±0.060.06±0.07
  ≥ 140.00±0.050.02±0.05
BMI (kg/m 2 )
 普通0.05±0.060.04±0.05
 太りすぎ −0.03±0.070.04±0.10

マウスウォッシュによるうがい後のHbA1cは、68歳以下のグループの方が69歳以上のグループよりも有意に低くはなっていましたが、非常に差はわずかです。最初に提示した顕著な効果とは程遠いですね。ベースラインでのHbA1cで分類すると、マウスウォッシによるうがい後のHbA1cは、7.5%以上の群の方が7.4%以下の群よりも有意に低くなりましたが、これも差はわずかです。逆に考えれば、69歳以上の群と、ベースラインでHbA1cが7.4以下の群では、マウスウォッシでHbA1cが増加してしまっています。

彼らの結論は、「2型糖尿病患者は1日2~3回消毒薬入りマウスウォッシュでうがいをすることで歯周病菌を減らすことができ、特に若い患者では血糖コントロールの改善につながる可能性がある。」と言っています。臨床的に意味のないHbA1cの変化を持ち出して、効果があるように発表するのは問題でしょう。顕著な効果があった人は、もしかしたらうがいを行いながら食事を改善したのかもしれません。

ちなみに、この研究は大阪のウェルテック株式会社が資金を出しています。利益相反バリバリです。

大阪はうがいが好きな文化があるのでしょうか?イソジンもクロルヘキシジンもいりません。

そもそも消毒薬などが入ったマウスウォッシュは口腔内の細菌叢を壊します。手指消毒も皮膚の常在菌を殺してしまいますし、抗生剤なども腸内細菌叢を殺してしまいます。人間は細菌やウイルスなどとともに共生しています。良い常在菌を殺してしまう行為は本当に害がないとは思えません。問題は細菌叢の状態を悪くさせる行為、無駄な消毒、糖質過剰摂取などです。それらにより本来あるべき常在菌が変化して、様々な有害なことが起きていると思います。

歯周病菌も別に感染を起こして、どこからか移ってきた菌ではないでしょう。常在菌の一部で、他の菌とのバランスが保たれていれば、何も起きません。しかし、口腔内細菌叢のバランスを崩すようなことをし、糖質過剰摂取で唾液などの組成が変化したり、悪さをする菌の栄養となる糖質が増加して、歯周病を起こしているのではないかと思います。つまり、当然ですが歯周病は糖質過剰症候群です。歯周病が糖尿病の悪化因子になる可能性はないとは言いませんが、歯周病が糖尿病を起こしているわけではありません。

無駄で無益なマウスウォッシュはやめましょう。まずは糖質制限です。

 

「Effects of mouthwash on periodontal pathogens and glycemic control in patients with type 2 diabetes mellitus」

「2 型糖尿病患者の歯周病原菌および血糖コントロールに対するうがい薬の効果」(原文はここ

5 thoughts on “マウスウォッシュで血糖値改善? コロナのイソジンうがいに続きまたも大阪から

  1. 「まずはシュガーコントロール・糖質制限でむし歯、歯周病を予防しましょう」がすべての歯科医の合言葉だと思っていたら大間違いでした。先日、診療を受けた歯医者は意味不明につぶやきました「教科書は教科書・・・?」(笑)ちなみにこの歯医者、貴景勝並みの巨漢でした。糖質制限を勧めてきました。

    1. カルダノ栄太さん、コメントありがとうございます。

      糖質が虫歯や歯周病の原因だとわかっていない歯医者に糖質制限を勧めても仕方がないです。

  2. マウスウォッシュで血糖値が良くなるなら糖尿病になる人いませんよね
    前に記事にされてたとおり血糖値スパイクを予防するには糖質制限しかありません。
    薬や注射に頼る前に食生活の見直し、糖質制限しかないと思います

    1. ギムレットさん、コメントありがとうございます。

      大学の研究なんて所詮こんなもんです。企業の広報にすぎません。

  3. >糖質が虫歯や歯周病の原因だとわかっていない歯医者に糖質制限を勧めても仕方がないです

    なにものも学ばず、なにもわかっていない無知な歯医者であれば仕方ないでしょうが、実はその巨漢歯医者はドックベストによる治療をホームページ上でうたう歯科病院だったのです。ご承知のようにドックベスト治療の論理的前提には「シュガーカット・糖質制限」があるはずですから、わかっていないでは済まされない、肥満体の歯医者であってはいけないものがあったわけです。

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