医師の処方内容は、製薬会社にちょっと何かもらったくらいでは変わらないと思っている人もいるでしょう。医師の中にも、こんなエサでつられないぞ、と思っている人も多いでしょう。
でも、製薬会社が渡す、たった20ドル(3,000円以下)のお弁当の効果は絶大です。以前の記事「どうして真実が通説にならないのか?」で書いたように、食事を提供された回数や、食事の値段などと薬の処方について調べた研究があります。(ここ参照、図もここより)
脂質異常症の薬のスタチン系の薬剤の一つ、ロスバスタチン(商品名クレストール)、高血圧などの薬のβ遮断薬の一つ、ネビボロール、高血圧の薬のARBの一つ、オルメサルタン(商品名オルメテック)、抗うつ薬のSNRIの一つ、デスベンラファキシンについて調べています。

上の図で、4日以上薬剤に関連して食事を提供された医師は、0回の医師と比較して、ロスバスタチンを1.8倍(15.2%対8.3%)、ネビボロールを5.4倍(16.7%対3.1%)、オルメサルタンの4.5倍(6.3%対1.4%)、デスベンラファキシンを3.4倍(1.7%対0.5%)の割合で処方しました。たった1回でも0回と比べると大きな違いがあります。

上の図は1回の食事の平均の値段により、どのように違いがあるかを示しています。20ドル未満は紺色のグラフ、オレンジ色のグラフは20ドル以上の食事です。デスベンラファキシン以外では、食事を提供されればされるほど処方割合が増加しています。20ドル以上ではその効果も少し大きいようですが、20ドル未満でも十分効果があるのです。ちょっと豪華なお弁当程度で薬の処方割合が増加すれば安いものなのでしょう。
医師の処方の意思決定なんて、こんなものなのです。
他の研究も見てみましょう。(ここ参照、図もここより)この研究は、製薬会社がスポンサーのシンポジウムに出席するために、人気リゾート地への全額負担の旅行を提供するという、お弁当よりも豪華です。
ほとんどの医師は事前のインタビューで、このような旅行に参加しても、処方パターンは変更しないと思っていました。しかし、実際には下の図のように劇的に変化しました。
上の図はシンポジウム参加前後での処方量の違いです。薬剤Aの使用は、シンポジウム前の平均81単位からシンポジウム後の平均272単位に大きく増加しました。
薬剤Bの使用量は、シンポジウム前の34単位から、シンポジウム後に87単位に増加しました。
このような豪華な旅行だけでなく、20ドル前後の食事でも効果があり、恐らくもっと価値の低い、ボールペンなどでも効果はあるでしょう。価値のごくわずかな贈り物でさえ、医師本人が気づかないうちに医師の行動を変える可能性があるのです。もちろん、無意識ではなく意識的に変更している医師もいるでしょう。
査読済みの研究は医師としての診療に大きな影響を与える可能性があり、製薬会社は多くの重要な研究で資金提供し、論文化に力を注ぐでしょう。研究結果をどのように取り入れるかは医師の選択の問題かもしれません。製薬会社の担当者が医師に持ってきたささやかなプレゼントをもらったり、食事を食べながら最近の研究の説明を聞くのは、自分で雑誌を読むよりも時間の節約になるでしょう。しかし、新しい研究結果と診療への適応に関する事項の大部分にはかなりのバイアスがかかっています。そのバイアスのかかった説明とエサにより、医師の意思決定がこんなに簡単に変化してしまうのです。
だから、以前の記事「製薬会社は研究開発費よりも販売とマーケティングに多くのお金を費やしている」で書いたように、製薬会社は開発費よりもマーケティングに多額のお金を注いでいるのです。
利益になれば、本当のエビデンスなんて二の次、三の次、もしかしたらゼロに近いかもしれません。
新型コロナワクチンの時はいったいどれほどのお金が動いたのでしょうか?