ケトン食は骨の健康に悪影響を与えるか?

コメントをいただきました。

はじめまして。
ケトン食について調べていて、以下のような「ケトン食が骨に悪影響を与える」という趣旨の論文をいくつか目にしました。

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/35092022/

色々と調べてはみたのですが、自分では解釈に限界があったため、これについてシミズ先生のご意見をお伺いしたいです。よろしくお願いいたします。

んー、難しいお題を頂きました。骨の健康については、糖質過剰摂取で良くないことは、私の中では当然のことなのですが、様々な因子が絡んでいるので、かなり複雑です。

また、人間の代謝なんて、所詮まだ一部しかわかっていません。わかっていること、検査できることで予測、推測するわけです。例えば、骨密度というのは頻繁に検査をされていますが、骨密度=骨の強さではありません。骨の質を測定はできないので、骨密度を調べているのです。骨密度が正常でも、質が悪ければ骨折しやすいでしょう。

まあ、とりあえず今回の研究を見てみましょう。薬剤耐性てんかんを有する成人患者を2 つのグループに分け、1つの食事グループ53人は、ケトン食の変種である修正アトキンス食で12週間治療されました。もう1つのコントロールグループ28人は通常の食事を続けました。

毎日最大16gの炭水化物を摂取することができました (炭水化物 5%、脂質 70%、タンパク質 25%)。 食事の遵守は、尿と血液中のケトン体を測定することによってチェックされ、食事療法が十分に遵守されていることを示しています。ケトン食を摂取しながら毎日ビタミンD(5〜7.5μg)およびCaサプリメント(800mgの炭酸カルシウム)を摂取しました。

ベースライン時および修正アトキンス食または通常食を12週間摂取した後の骨マーカーの中央値は下の表のようです。(表は原文より改変)

ベースライン12週間% 変化
PTH、pmol/L[基準値: 1.2–7.1]
ケトン食全体、n  = 534.94 (3.34)4.12 (2.65)−16.6
最小値と最大値1.67~16.33.20–11.32
女性、n  = 335.06 (4.25)4.71 (2.12)−7.0
男性、n  = 204.04 (2.85)3.37 (1.46)−16.6
コントロールグループ、n  = 283.30 (2.87)3.50 (2.60)6.0
Ca、mmol/L[基準値: 1.15–1.33]
ケトン食全体、n  = 531.25 (.06)1.22 (.05)−2.4
最小値と最大値1.17~1.361.14~1.32
女性、n  = 331.23 (.07)1.22 (.05)−.82
男性、n  = 201.27 (.06)1.24 (.06)−2.4
コントロールグループ、n  = 281.23 (.05)1.25 (.05)1.6
25-OH ビタミン D、nmol/L [基準値: 37-131]
ケトン食全体、n  = 4660(25)73(27)21.6
最小値と最大値28~14039–163
女性、n  = 3062(26)66(25)4.8
男性、n  = 1657.50 (32)81(33)40.6
コントロールグループ、n  = 2458(32.50)64 (27.75)10.3
1,25-OH ビタミン D、pmol/L[基準値: 39-193]
ケトン食全体、n  = 5297(52)90.50 (55)−6.7
最小値と最大値22–16231–162
女性、n  = 3392(51)93(50)1.1
男性、n  = 19103 (62)84(69)−18.4
コントロールグループ、n  = 25115.80 (57.70)101 (45.50)−12.8
リン、mmol/L [基準値: .8-1.7]
ケトン食全体、n  = 521.10 (.20)1.20 (.27)9.0
最小値と最大値.80–1.70.90–1.90
女性、n  = 321.10 (.20)1.20 (.25)9.0
男性、n  = 201.10 (.27)1.15 (.27)4.5
コントロールグループ、n  = 281.10 (.20)1.15 (.10)4.5
ALP、U/L [基準値: 35–105]
ケトン食全体、n  = 5266.50 (41)64(34)−4.0
最小値と最大値27–14234–127
女性、n  = 3258(36)56.50 (35)−2.6
男性、n  = 2073(40)67(33)−8.2
コントロールグループ、n  = 2875.50 (37)74 (37.75)−2.0
CTX−1、μg/L [基準値: ≤.57]
ケトン食全体、n  = 53.45 (.33).40 (.36)−11.0
最小値と最大値.17–1.34.16–1.36
女性、n  = 33.36 (.32).29 (.27)−19.5
男性、n  = 20.61 (.48).54 (.27)−11.5
コントロールグループ、n  = 28.54 (.28).49 (.30)−9.3
P1NP、μg/L [女性基準値: 25 歳以上 : 11–94 μg/L;

男性基準値: 25 歳以上: 20–91]

ケトン食全体、n  = 5353 (27.97)43.19 (3​​3.06)−19.0
最小値と最大値24.14~176.520.55–122
女性、n  = 3347.52 (17.71)39.67 (25.52)−16.6
男性、n  = 2066.86 (41.32)55.80 (39.96)−16.5
コントロールグループ、n  = 2864.50 (23.75)63.12 (18.98)−2.14

確かに、上の表のように、ケトン食で骨代謝マーカーPTH、Ca、CTX-1、P1NP、1,25-OH vit Dは有意に減少しました。でも、どれも基準値の範囲内のわずかな変化にすぎません。基準値を逸脱したならまだしも、全く基準値のど真ん中あたりです。

骨代謝マーカーの測定意義は骨の質を評価し、将来の骨折リスク評価を行おうというものです。でもこれらのマーカーだけで質を評価することは無理があると思います。そこには、骨粗しょう症の医療ビジネスが大きくかかわっています。骨粗しょう症を防ぐために早期に評価し、薬を使用させることが目的でしょう。

恐らく骨代謝マーカーは動的なパラメータであり、骨密度の変化や骨折リスクと必ずしも相関するとは限らないと思います。だからこれくらいの変化の結果をどのように解釈すべきかはわかりません。骨代謝マーカーが臨床的に意味のある結果と必ずしも一致しない可能性も高いでしょう。

骨代謝回転が低下することは必ずしも問題があるわけではないと思っています。インスリンの信号伝達が大きく関与して、インスリン抵抗性でもインスリン分泌低下でも骨代謝回転は低下するでしょう。(「インスリン抵抗性は骨代謝回転を抑制する」参照)

ネズミさんレベルの実験では加齢期にカロリー制限をした方が、骨代謝回転は低下するけれども、骨量は高く保たれていたという結果があります。(この論文参照)人間に当てはまるかどうかは未知ですが、成長期ではなく、老化の時期において、代謝回転を増加させることが良いことなのかどうかはわかっていません。骨代謝は吸収と形成のバランスで決まります。糖質以外にもタンパク質摂取量やビタミンK、マグネシウムなど様々な影響があるでしょう。レニンアンギオテンシン系も影響するでしょう。(この論文参照)もちろん、運動も関連します。

また、現在得られているエビデンスはほとんどが糖質過剰摂取の人を対象にしたものです。糖質過剰摂取者のデータでの基準値がそのまま糖質制限で当てはまるのかどうかはわかりません。糖質制限ではご存じのように、LDLコレステロールや中性脂肪値などが大きく変動し、糖質過剰摂取とは大きく異なります。甲状腺ホルモンのT3の低下も起こります。食事で代謝が大きく変わるのは明らかですが、評価は難しいです。これからの課題ですが、糖質制限が一般的になる可能性は極めて低いので、その課題の答えが出ることはすぐには無理でしょう。

今回の研究のこの程度の変化を、骨の健康への悪影響と捉えるのは無理があるでしょう。意図的な誘導でしょうね。

まとまりのない内容ですが、この辺で。答えになったでしょうか?次回以降に糖質制限と骨粗しょう症の関連について書けるかな?

「Substantial early changes in bone and calcium metabolism among adult pharmacoresistant epilepsy patients on a modified Atkins diet」

「修正アトキンス食を摂取した成人薬剤耐性てんかん患者における骨とカルシウム代謝の初期の実質的な変化」(原文はここ

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