「その1」「その2」「その3」の続きです。私自身の患者の経験では、糖質制限でアルブミン尿は激減します。尿アルブミン/クレアチニン比で300mg/g・CREを超えていた人がおよそ1か月の糖質制限で10以下の正常値になりました。
糖質制限をちゃんとしたアルブミン尿の研究はあまりありません。今回の研究はあまり説得力のある研究ではありません。(その次もですが)
今回の研究では、糖質制限のアルブミン尿に対する効果を分析したものですが、かなりサンプル数が少ないです。
対象は現在レニンアルドステロン系の阻害剤を服用しているeGFRが40未満の進行性糖尿病性腎症の肥満2型糖尿病患者5人です。食事は超低カロリーケトン食です。エネルギー(カロリー)制限が余計ですね。1日あたり約800kcal、少なくともタンパク質は75g、炭水化物は50g/日未満の食事です。12週間行います。これだけのエネルギー制限をさせられると、途中で食事が緩んでくる人がいるでしょう。
年齢中央値は61歳、1人だけステージ3Bで、その他はステージ4の慢性腎臓病でした。(図は原文より)
上の図のように、12週間で体重は14kgほど減少し、BMIも38.6から34に減少しました。体脂肪率は42.4%から36%に低下し、除脂肪体重の割合は57.6%から64%に増加しました。
上の図は1日の尿中アルブミン量の変化です。多くの人で減少しています。
上の図は尿中のタンパク質変化です。これも多くの人で減少しています。
上の図は血中のクレアチニン値の変化です。これも多くの人で低下しています。
クレアチニンは筋肉量の影響を受けるので、上の図は血中のシスタチンCです。これも多くの人で低下しています。つまり、多くの人では腎機能のパラメータが改善しています。
上の図はパラメータの実際の数値変化です。有意な変化はクレアチニン、シスタチンC、eGFRです。尿中アルブミンは有意ではありませんでしたが減少傾向でした。アルブミン尿は36%減少しています。
上の図は、腎機能以外のパラメータです。空腹時血糖値は166から131に低下し、HbA1cも7.2から6.4に低下しています。空腹時インスリンは26.9から10.4まで低下し、HOMA-IRも9.6から4.2まで低下しています。
認められた唯一の副作用は、食事初期のBUNと血中クレアチニンの一過性の上昇で、降圧薬の用量を減らすと解消されました。
糖尿病性腎症を引き起こす正確なメカニズムはまだ解明されていませんが、慢性の高血糖、高インスリン血症、インスリン抵抗性、高血圧、終末糖化産物(AGEs)の生成、酸化ストレス、炎症などが大きく影響すると考えられています。そうであるのであれば、糖質制限が最も糖尿病性腎症を改善する方法だと思われます。
今回の研究では、ちょっと物足りない結果です。
設定が無理なエネルギー制限をしていることで、実際には糖質摂取量が守られていたのか疑問があります。中性脂肪やHDLコレステロールの変化が非常に小さいので、もしかしたらあまりちゃんとできていなかったのかもしれません。
また、元がBMIが38で12週間でもまだまだ34もあり、空腹時インスリンは低下したとはいえ、まだ10以上ですので、結果はこれから出てくる可能性もあります。エネルギー制限は恐らく全く必要がないと思います。
食事アンケートを用いた質の低いデータで分析された研究では、飽和脂肪酸がアルブミン尿と関連しているとしています。(ここ参照)脂質悪玉説への誘導でしょう。
以前の記事「糖質制限で腎機能改善」で書いたように、糖質制限で腎機能を表すクレアチニン、eGFR、尿アルブミン/クレアチニン比はどれも改善しています。
エビデンス的にはまだまだ糖質制限そのものがアルブミン尿を減少させるという明確な結果は出ていません。しかし、メカニズムを考えると、糖質制限が有益であることは間違いないと思います。
「Short-term changes after a weight reduction intervention in advanced diabetic nephropathy」
「進行性糖尿病性腎症における減量介入後の短期的変化」(原文はここ)