「その1」「その2」の続きです。アルブミン尿は糖質過剰摂取で増加すると考えられます。糖質摂取で、インスリン分泌が増加し、インスリン抵抗性が高くなるほどアルブミン尿は増加します。
では、糖質を減らしてみたらどうなるかの研究を見てみましょう。今回の研究は、日本の2型糖尿病の124人(平均年齢61.6歳)を対象に、ちょっと糖質を減らしてもらいました。糖質制限ではありません。炭水化物由来のエネルギーの目標は摂取エネルギーの30%~40%でした。HbA1cが9%未満の人には、夕食時に炭水化物の豊富な食品を除去するよう指示され、HbA1c が9%以上の人には、夕食と朝食の両方で炭水化物を除去するように指示されました。
正常アルブミン尿は尿アルブミン/クレアチニン比で30mg/g Cr未満、微量アルブミン尿は30~299 mg/g Cr、マクロアルブミン尿は300 mg/g Cr以上です。(図は原文より、表は原文より改変)
正常アルブミン尿症 (n = 68) | 微量アルブミン尿 (n = 50) | マクロアルブミン尿 (n = 6) | |
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年齢(歳) | 61±9 | 63±10 | 66±9 |
性別(男性/女性) | 38/30 | 21/29 | 3/3 |
糖尿病の期間(月) | 57±83 | 79±99 | 124±49 |
BMI | 24.3±3.8 | 24.2±4.0 | 23.6±2.1 |
空腹時血糖 (mg/dL) | 135±36 | 168±54 | 182±54 |
HbA1c (%) | 7.6±1.4 | 8.3±1.6 | 8.5±2.3 |
空腹時インスリン (IU/mL) | 7.7±4.9 | 7.8±5.5 | 4.6±1.9 |
HOMA-IR | 2.6±2.0 | 3.3±2.7 | 2.0±0.9 |
LDLコレステロール (mg/dL) | 132±29 | 128±35 | 157±57 |
HDLコレステロール (mg/dL) | 55±13 | 59±I8 | 54±14 |
中性脂肪 (mg/dL) | 113±76 | 143±146 | 200±131 |
最高血圧 (mmHg) | 134±15 | 141±16 | 152±21 |
拡張期血圧 (mmHg) | 81±12 | 81±11 | 85±3 |
尿アルブミン(mg/g Cr) (95% CI) | 11 (3, 47) | 67(56、80) | 945 (234、3802) |
eGFR(mL/min/1.73m 2 ) | 84±20 | 81±21 | 71±37 |
降圧薬 (%) | 47% | 46% | 83% |
オルメサルタン | 43% | 46% | 83% |
インダパミド | 43% | 46% | 66% |
カルシウムチャネルブロッカー | 15% | 14% | 33% |
グアナベンズ | 7% | 2% | 17% |
上の表はアルブミン尿別のベースラインの特徴です。正常が68人、微量が50人、マクロアルブミン尿が6人でした。マクロアルブミン尿の人は少なすぎて参考にしかならないでしょう。
1日の平均総エネルギー摂取量は自己申告で1734kcal/日でした。炭水化物、脂質、タンパク質の1日平均摂取量は、165 g (総エネルギー摂取量の38%)、72 g (総エネルギー摂取量の37%)、81g (総エネルギー摂取量の 19% )でした。炭水化物は主に米 (153 ± 97 g) と小麦またはそばから作られた麺類 (54 ± 68 g) に由来しています。日本人らしいですね。他の炭水化物源には、ジャガイモ (19 ± 32 g)、果物 (60 ± 80 g)、パン (31 ± 35 g)、菓子類 (17 ± 24 g)、および砂糖 (5 ± 6 g) が含まれます。
上の図はベースラインと糖質を減らして12か月後の尿アルブミン/クレアチニン比です。正常アルブミン尿のグループでは、2人の患者 (3%) が12カ月で微量アルブミン尿に進行しました。そのうち1人の患者は、84か月にわたる糖尿病、高血圧、高脂血症の病歴のある83歳の女性で、もう1人の患者は高血圧、高脂血症、関節リウマチと新たに診断された51歳の女性で、プレドニゾロンとメトトレキサートで治療を受けていました。
微量アルブミン尿患50人のうち、26 人 (52%) が正常アルブミン尿まで寛解しました。1人の女性患者 (2%) はマクロアルブミン尿症に進行しました。この患者は68歳で、高血圧、高脂血症、ウェゲナー肉芽腫症を患っており、プレドニゾロンで治療を受けていました。
マクロアルブミン尿では、6人の患者のうち2人が微量アルブミン尿になりました。
もちろん、どのグループでもアルブミン尿が増加する人もいましたが、全体的には減少しています。
正常アルブミン尿症 (n = 68) | 微量アルブミン尿 (n = 50) | マクロアルブミン尿 (n = 6) | |
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Δ%アルブミン尿 (%) (95% CI) | −20(−33、−4) | −53(−62、−43) | −41(−57、−18) |
Δ BMI | −0.9±1.3 | −0.6±1.3 | −0.6±0.4 |
Δ 空腹時血糖 (mg/dL) | −13±37 | −29±48 | −47±63 |
ΔHbA1c (%) | −1.2±1.2 | −1.4±1.5 | −1.8±2.5 |
Δ 空腹時インスリン (IU/mL) | −1.0±4.4 | −0.9±3.4 | 1.5±2.3 |
Δ HOMA−IR | −0.52±1.9 | −0.9±1.4 | −0.03±0.7 |
Δ LDL コレステロール (mg/dL) | −6±26 | −3±31 | |
Δ HDL コレステロール (mg/dL) | 5±13 | 6±11 | |
Δ 中性脂肪 (mg/dL) | −11±58 | −30±136 | |
Δ 最高血圧 (mmHg) | −4±12 | −7±16 | −11±22 |
Δ 拡張期血圧 (mmHg) | −3±9 | −3±10 | −5±14 |
Δ eGFR (mL/分/1.73 m 2 ) | −0.0±10.7 | −2.9±11.9 | −12±16 |
どのグループもアルブミン尿が減少しています。正常では20%、微量では53%、マクロでは41%もの減少です。sの他のパラメータも改善していますが、eGFRは残念ながら変化なしですね。
微量アルブミン尿の中でオルメサルタンまたはメトホルミンを服用している患者が除外された場合でも、アルブミン尿は40%大幅に減少しました。つまり、薬の効果は限定的で、食事の変化がアルブミン尿減少の大きな要素だということが考えられます。
上の図は微量アルブミン尿の人で、横軸がHOMA-IRの変化量、縦軸がアルブミン尿の変化率です。HOMA-IRが改善すればするほど、アルブミン尿の減少率が増加しています。
たった少しだけの糖質を減らした食事をするだけで、大きくアルブミン尿が減少します。
ちゃんと糖質制限をしたら大きく改善するのではないでしょうか?
「Reduction in urinary albumin excretion with a moderate low-carbohydrate diet in patients with type 2 diabetes: a 12-month intervention」
「2 型糖尿病患者における適度な低炭水化物食による尿中アルブミン排泄の減少: 12 か月の介入」(原文はここ)