食事の適応期間やキャリーオーバー効果を無視した研究は歪んだ結果をもたらす

食事介入をして様々なパラメータ変化を評価する研究はたくさんあります。以前の記事「低脂肪食と糖質制限を比較した歪んだ研究」も糖質制限と低脂肪食の食事によってどうなるかを調べています。しかし、あまりにも適応期間を無視した研究なので、結果が大きく歪められてしまいました。こんな研究でも査読が通ってしまいます。

今回の研究は、その問題の研究を再分析しています。

最初の2週間糖質制限をして、間を開けずに次の2週間低脂肪食を食べた場合と、その逆で最初の2週間低脂肪食の食事をして、間を開けずに次の2週間糖質制限をした場合、前半の食事の影響がキャリーオーバーをもたらし、問題のある結果をもたらします。(図は原文より)

上の図はAが糖質制限を行っている期間、Bが低脂肪食の期間で、摂取エネルギー量の推移を見ています。Aの実線が糖質制限を前半で行ったグループ、点線は後半に糖質制限を行ったグループです。Bの実線が低脂肪食を前半で行ったグループ、点線は後半に低脂肪食を行ったグループです。
最初に糖質制限を行った場合、最初の1週間は2500kcal前後ですが、次の1週間ちょっとエネルギー量は減少し、2000kcal程度です。そして、その後低脂肪食に移行すると、1500kcal前後までエネルギー量は減少してしまっています。

一方最初に低脂肪食を行うと2500kcal強の摂取エネルギー量となり、その後糖質制限に移行すると、3500kcal前後までエネルギー量が増加してしまっています。

自由に摂取エネルギー量を得られたとしても、最初の食事が低脂肪食でも糖質制限でも大きな違いがありません。全てを総合してしまうと低脂肪食の方が摂取エネルギー量が少なくなりますが、それは前半戦で糖質制限を行ったグループが非常に低エネルギー量であることに引っ張られています。

どちらの食事を先にするかによって食事介入の期間での平均エネルギー摂取量の差は1000kcal程度にもなっています。それを何のためらいもなく、統合した結果を示すというのは裏に意図があるようにしか思えません。

同様に、上の図に示すように、体脂肪の変化もどちらを先にするかによって異なります。糖質制限の期間の間に脂肪量は、最初に糖質制限食を摂取すると-0.69kg減少し、後半に糖質制限を摂取すると0.57kg増加しました。

低脂肪食を最初に摂取してもそこまで体脂肪は減少せず、後半に糖質制限しても前半の低脂肪食のキャリーオーバーによって0.57kgも体脂肪が増加してしまうのです。

糖質制限を最初に行うと-0.69kg体脂肪が減少し、後半に低脂肪食にしても前半の糖質制限のキャリーオーバーによってさらに体脂肪量が減少するのです。

人間の体は面白いですね。

上の図Aは糖質制限の期間におけるケトン体のβヒドロキシ酪酸の値です。最初に糖質制限を行うグループでは非常に高いβヒドロキシ酪酸値ですが、後半で糖質制限を行っても、あまりβヒドロキシ酪酸の上昇はあまり認められません。つまり、低脂肪食を先に行った人は、後半の糖質制限食の期間の間に、糖質制限に適応できていないのです。

図のBは低脂肪食の期間での呼吸商(RQ)です。最初に糖質制限を行ったグループでは低脂肪食になっても呼吸商は低めです。しかし、最初に低脂肪食、つまり糖質過剰摂取だと当然、呼吸商は高くなっています。逆に言えば、前半に糖質制限をした場合、低脂肪食の期間になっても低脂肪食に適応していません。

糖質制限食を先に行うと、その後の低脂肪食期間中に長期にわたる有益な効果をもたらし、エネルギー摂取量とRQ が低下しました。対照的に、最初に低脂肪食の摂取は、エネルギー摂取量と肥満の増加、ケトン体生成の減少など、その後の糖質制限期に長期にわたる悪影響を及ぼしました。

キャリーオーバー効果は2週間の間では無くならないようです。

上の図は最初の食事期間のCペプチドの変化による後半の食事期間の結果の予測です。 Aは平均エネルギー摂取量、Bは脂肪量の変化です。Cペプチドが低下するほどエネルギー摂取量も脂肪量も減少しています。つまり、インスリン分泌の減少は脂肪量の減少だけでなく、自由に摂取するエネルギー量の減少ももたらすのです。糖質制限で自然と摂取エネルギーが少なくなるのは、インスリン分泌減少と関連しているのかもしれません。

いずれにしても、食事の介入研究は非常に難しいです。このように、それまでの食事が介入時の食事に影響を与えます。数日間しか行わない食事の研究では、正確な代謝変化がわからないでしょう。

キャリーオーバー効果を知っていて、敢えてこのようなデザインの研究をして、自分に都合の良い結果を導き出したのか、適応ということさえ知らない人が行ったのか?食事の研究もちゃんと中身を読まず、結果だけを見るとトンデモナイことがある場合があります。

「Physiologic Adaptation to Macronutrient Change Distorts Findings from Short Dietary Trials: Reanalysis of a Metabolic Ward Study」

「主要栄養素の変化に対する生理学的適応は、短期間の食事試験の結果を歪める:代謝病棟研究の再分析」(原文はここ

One thought on “食事の適応期間やキャリーオーバー効果を無視した研究は歪んだ結果をもたらす

  1. 意図的にせよ何にせよ、
    キャリーオーバー効果始め、
    影響する因子が管理されていない研究は
    一般人にとって取り扱いが
    難しいですね。

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