低脂肪食と糖質制限を比較した歪んだ研究

低脂肪食(高炭水化物食)と糖質制限食を比較した研究はたくさんあります。

今回の研究では、低脂肪食および糖質制限食を制限なく提供して、自由に摂取エネルギー量が得られる場合、どうなるかを実験しています。でも、ちょっと問題がある研究です。しかしそのことがまた興味深い結果を示しています。

今回の研究は、糖尿病のない⼈20人(平均年齢29.9歳、男性11人女性9人、平均BMI27.8)を対象に、下の図のように糖質制限食と低脂肪食を2週間、ランダムな順序で食べてもらいました。(図は原文より)

ここで問題となることは、各食事介入2週間の間にウォッシュアウト期間が全くないことです。2週間の食事が終わったら、すぐに次の日から別の食事をします。これがまた議論を呼んで興味深いことになりますが、それについては次回以降で。

糖質制限食(LC食)は摂取エネルギーの10%が炭水化物、75%が脂質で、動物ベースの食事です。一方低脂肪食(LF食)は摂取エネルギーの10%が脂質、75%が炭水化物で、植物ベースの食事です。どちらの⾷事も超加⼯⾷品は少なく、でんぷん質の野菜も少なくしています。

ベースラインでの平均の1日の安静時エネルギー消費量は1,550kcalでした。その1.6倍、推定エネルギー必要量の2倍の食べ物と飲み物が食事+軽食で提供されました。どれだけ食べるかは自由です。

 

上の図は糖質制限(LC)と低脂肪食(LF)を行っている間の様々なパラメータです。aとbは摂取エネルギー量です。低脂肪食の方がかなりエネルギー量が少ないですね。糖質制限と比較しておよそ540kcal/日も少ないです。

gは体重変化です。低脂肪食よりも糖質制限の方が体重が減少しています。平均で糖質制限は1.77kg減、低脂肪食は1.09kg減でした。しかし、hを見ると、糖質制限は除脂肪体重が減少しています。つまり、筋肉が減少したことを言いたいのでしょう。恐らくは水分量の減少でしょうね。またiの図を見ると、脂肪量は低脂肪食の方が多く減少しています。糖質制限ではほとんど減少していません。これは我々の感覚とは大きくずれていますね。低脂肪食の方が体脂肪量を減少させることができると言いたいのでしょう。

上の図はaはCGM(持続グルコースモニタリング)による平均グルコース値と変動係数、bはそれぞれの食事を摂ったときのグルコース値の推移、cはβヒドロキシ酪酸値の変化です。

上の図は、一般的な食事の栄養素の割合で、1⽇の推定カロリー必要量の30%に相当する流動⾷を食べたときの様々なパラメータの推移です。糖質制限であまり血糖値がやインスリン値が上昇していないのは意外ですね。急に糖質を摂ればもう少し血糖値が大きく上昇しても良いと思いますが。中性脂肪値は糖質制限で大きく上昇しています。

ではもっと糖質を摂るテストOGTTではどうでしょうか?

OGTTではやはり糖質制限の方が血糖値の上昇は大きいですね。インスリンはそれほど差がありません。一般的な食事でもこんな感じの推移になると思いましたが違いましたね。

この研究は、高炭水化物食、高糖質摂取が過剰なインスリン分泌を引き起こし、それによって脂肪の蓄積が促進されるという仮説(?)を否定したいのでしょう。低脂肪食を自由に摂取させると、自ずと摂取エネルギーが減少し、脂肪量が減るようなことを示しています。

しかし、この研究の一番の問題は最初に書いたように、各食事の間にウォッシュアウト期間が全くありません。それによって結果が歪んでしまっています。人間の代謝の変化は急激に起きるものもあれば、適応に時間がかかるものもあるでしょう。この研究では最初に低脂肪食を食べて次に糖質制限をした人も、逆に最初に糖質制限をして次に低脂肪食の人も同列で扱っています。

低脂肪食をずっと続けていたことが、急激に糖質制限に移行して影響を全く与えないとは思えません。

では食事の急激な変化はどのような影響があるのでしょうか?それについては次回以降で。

「Effect of a plant-based, low-fat diet versus an animal-based, ketogenic diet on ad libitum energy intake」

「植物ベースの低脂肪食と動物ベースのケトジェニック食が自由摂取エネルギーに及ぼす影響」(原文はここ

2 thoughts on “低脂肪食と糖質制限を比較した歪んだ研究

  1. 除脂肪体重の変化が水分量の変化に由来しているのだろうと言う事はよく経験します。
    2泊3日程度のスキーに出かけると帰ってきと時には筋肉量が2kg以上増えていることが多いです。3日ほどで筋繊維が2kgも増えるとは考えられないし、帰ってきて1週間ほどでいつもの除脂肪体重に戻ります。
    スキー場では、糖質制限食が入手困難な事もあり、糖質摂取量がかなり多くなります。それに加えて比較的強度の運動によって筋肉にブドウ糖+水分が取り込まれたものと思いますがいかがでしょうか。

    1. 西村典彦さん、コメントありがとうございます。

      体組成計の筋肉量はある程度の目安ですから。
      恐らく仰るように水分が大きく関係していると思います。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です