慢性的に炎症を起こしているなんて、代謝や免疫が障害されているとしか思えません。そして代謝障害のほとんどは糖質過剰摂取により起こると私は考えています。
化膿性汗腺炎は慢性炎症の皮膚疾患です。糖質過剰摂取によりインスリン過剰分泌、インスリン抵抗性が起こり、様々な皮膚疾患が発症します。化膿性汗腺炎もインスリン抵抗性が大きく関係すると考えられます。
化膿性汗腺炎は稀な疾患ではあります。欧米の方が有病率は高いようです。それもインスリン抵抗性の関与を匂わせます。
日本皮膚科学会の「化膿性汗腺炎診療の手引き 2020 」には、発症機序として炎症や遺伝的背景が書かれています。しかし、本当の原因はまだ不明です。また、その他の因子として、喫煙、肥満、細菌、機械的刺激、ホルモンが書かれています。肥満とホルモンの異常は糖質過剰摂取で起きます。もちろん炎症も起きます。併存疾患には糖尿病が書かれています。
化膿性汗腺炎患者76人と年齢と性別が一致した対照61人からなる研究では、下の図のように患者群の方がBMI、腹囲、収縮期血圧、空腹時血糖、空腹時インスリン、インスリン抵抗性を表すHOMA-IR、インスリン抵抗性の割合、メタボリックシンドロームの割合が高く、HDLコレステロールが低くなっていました。全て糖質過剰症候群に一致します。(ここ参照、下の図はこの論文より)
PGAという重症度が3以上と高い患者と3未満の低い患者を比較すると下の図のように、重症度が高い方が統計的には有意ではなくても、同様にBMIや腹囲、空腹時インスリン、インスリン抵抗性が高い傾向がありました。
また別の研究で化膿性汗腺炎患者37 人と、性別、年齢、BMI が一致する健康な対照37人を分析したものがあります。(ここ参照、表はこの論文より改変)
化膿性汗腺炎 | コントロール | ||
---|---|---|---|
平均値±標準偏差 | 平均値±標準偏差 | ||
年齢(歳) | 34.6±10.9 | 36.2±9.5 | |
身長(cm) | 170.9±8.6 | 172.5±7.5 | |
体重(kg) | 85.8±20.6 | 79.2±18.8 | |
BMI (kg/m 2 ) | 29.3±6.4 | 27.1±5.0 | |
収縮期血圧 (mmHg) | 116.6±12.7 | 115.4±9.0 | |
拡張期血圧 (mmHg) | 67.7±16.3 | 65.0±8.0 | |
腹囲(cm) | 98.8±19.1 | 79.9±14.0 | |
メタボリックシンドロームn (%) | 12(32.4) | 2 (5.4) | |
インスリン抵抗性n (%) (HOMA-IR 値 >2.5) | 17(45.9) | 3 (8.1) | |
ハーレーステージn (%) | 1 | 8(21.6) | |
2 | 14(37.8) | ||
3 | 15(40.5) |
上の表のように、やはり化膿性汗腺炎患者群の方が腹囲が高く、メタボの割合やインスリン抵抗性の割合が圧倒的に高くなっていました。
化膿性汗腺炎 | コントロール | |
---|---|---|
平均値±標準偏差 | 平均値±標準偏差 | |
総コレステロール ( mg/dL) | 192.8±42.3 | 186.1±37.8 |
HDL-c (mg/dL) | 47.5±16.2 | 46.1±10.9 |
LDL-c (mg/dL) | 112.8±33.9 | 122.3±28.0 |
中性脂肪 (mg/dL) | 171.8±147.6 | 102.8±49.0 |
空腹時血糖 (mg/dL) | 99.5±14.1 | 89.8±8.5 |
空腹時インスリン (μIU/mL) | 11.6±8.8 | 8.1±3.0 |
HOMA − IR | 2.93±2.65 | 1.8±0.74 |
CRP (mg/dL) | 8.0±8.6 | 5.9±16.6 |
また、患者群では中性脂肪、空腹時血糖、空腹時インスリン、HOMA-IR、炎症を表すCRPが高くなっていました。
明らかに、糖質過剰摂取が大きな要因となっていると考えられます。そうであるならば、ガイドラインに食事についての記述がいっぱいあってもいい気がしますが、ほんのわずか補助的療法に減量という文字が出ているだけです。やはり治療法は薬がメインとなっています。根本的に治さないということでしょうかね?
もちろん、大きく代謝が障害されてしまった状態で糖質制限をしてもすぐに完治することはできませんが、改善することは可能でしょう。
今回の研究ではケトン食を行った場合、どうなるかを評価しました。28日間のエネルギー制限のケトン食を摂ってもらいます。1日あたりの総エネルギー摂取量は800kcal未満、13%が炭水化物(1日あたり30g未満)、43% がタンパク質(理想体重 1 kgあたり1.3 g )、44%が脂質でした。ケトン食の順守はケトン体測定で行っています。エネルギー制限が余計ですが。
過体重または肥満(BMI 27.03~50.14 )の21~54歳の女性12人が対象で、非活動性(83.3%)、非喫煙者(58.3%)が多く、28日間の治療中に身体活動レベルや喫煙習慣を変えた患者はいませんでした。
化膿性汗腺炎の評価はSartoriusスコアとDLQIというもので評価しました。Sartoriusスコアは個々の結節数と瘻孔数などを指標に含めた動的な重症度スコアです。DLQIは、皮膚炎やその他の皮膚疾患が患者の生活の質に及ぼす影響を評価するために使用され、皮膚症状の存在によって影響を受ける日常生活のさまざまな側面を測定する自己評価アンケートです。症状と感情、恥ずかしさ、日常生活、服装、レジャー、対人関係の6 つのカテゴリーに分類された10の質問で構成されています。
28日間のケトン食により、BMIは7.94%減少し、腹囲は7.56%減少しました。体脂肪率は 14.26%大幅に減少しましたが、その代わり除脂肪体重、つまり筋肉の割合は10.72%増加しました。(図は原文より、表は原文より改変)
上の図はSartoriusスコアのベースラインと28日後とその変化率です。ケトン食28日でスコアは低下し、24.37%減少。DLQIスコアも44.62%減少しました。
炎症および心臓代謝リスクに関連する腸由来の代謝産物であるトリメチルアミン N-オキシド(TMAO)の循環レベルが化膿性汗腺炎患者で増加し、疾患の臨床的重症度と関連しているという報告があるようです。また酸化ストレスの指標として酸化LDL、活性酸素代謝産物の誘導体(dROM)も測定しています。
パラメータ | ベースライン | ケトン食28 日目 | 変化率% |
---|---|---|---|
酸化LDL (μg/mL) | 744.00±307.54 | 56.75±246.77 | − 25.53 ± 7.64 |
dROM (U Carr) | 225.00±119.70 | 177.81±102.10 | −21.10±12.86 |
TMAO (μM) | 4.89±1.40 | 3.79±1.40 | − 23.67 ± 13.26 |
どれも大きく減少しています。つまり、炎症や酸化ストレスがケトン食で大幅に減少したことになります。そして、Sartoriusスコアの変化は、これら酸化LDL、dROM、TMAOレベルの変化と正の相関がありました。
日本の15歳以上65歳未満の患者数は約3000人、 有病率は0.0039%と推計されています。(ここ参照)
稀な疾患ですが、やはり日常で何か体に異常が起きたら、まずは食事の間違いを疑うべきでしょう。恐らく多くの人が想像しているよりはるかに糖質過剰摂取の影響は大きいと思います。
「Very low-calorie ketogenic diet (VLCKD) in the management of hidradenitis suppurativa (Acne Inversa): an effective and safe tool for improvement of the clinical severity of disease. Results of a pilot study」
「化膿性汗腺炎(反転型痤瘡)の管理における超低カロリーケトン食(VLCKD):病気の臨床的重症度を改善するための効果的かつ安全なツール。パイロット研究の結果」(原文はここ)
いつも勉強にあります。 低カロリーでなくても、ケトン食なら症状は改善したことでしょう。 その他、本疾患のみならず、いろんな皮膚の炎症性疾患も(乾癬、手掌膿胞症なども)、きっとインスリン抵抗性と関連するのでしょう。
三世 敏彦さん、コメントありがとうございます。
皮膚科疾患は関連がめちゃくちゃ多いと思います。
でも食事について聞いたり、食事改善を勧めたりする医師はどれほどいるのでしょうかね?