食事をしたときの糖質の運命はどうなっているのでしょうか?食後のブドウ糖処理を細かく分析した研究があります。経口摂取したブドウ糖は下の図のように、解糖系(Glycolysis)か貯蔵(Storage)に回るかのいずれかです。(図は原文より)
解糖系に回ると、一部は酸化(Oxidative)されエネルギーになり、残りは非酸化(Nonoxidative)的解糖で乳酸、ピルビン酸、アラニンが形成され、糖新生を受け、間接経路を介してグリコーゲンに貯蔵されるか、ブドウ糖として血中に放出されます。それらがどのような割合で行われるかの実験です。
11人の健康なボランティアで実験されました。⾷事の量は6kcal/kg、組成は炭⽔化物50%、脂質30%、タンパク質20% で、ブドウ糖、コーン油、アミノ酸の混合物です。平均して78gのブドウ糖、10gの脂質、26gのタンパク質で構成されていました。それを摂取した後、6時間経過を見ています。(図は原文より)
上の図はAは血糖値、Bはインスリンおよびグルカゴン、Cは乳酸および遊離脂肪酸(FFA)です。血糖値やインスリン値は30分後にはかなり上昇し、60分後にはピークです。血糖値はその後低下し、210分後にはベースラインに戻っています。インスリンは360分後でもまだ少し高い状態です。
グルカゴンはインスリンと逆ですから、90分後まで低下し、その後戻りはじめ、210分後くらいからベースラインよりも高い状態になっています。
乳酸は血糖値と同じような推移で、FFAは乳酸と逆の推移です。
上の図は、Aがブドウ糖全体、食事のブドウ糖、および内因性ブドウ糖の出現率です。 Bは糖新生の速度です。食事摂取後、総ブドウ糖出現 (内因性+摂取量) は 30 分で最大値までほぼ 3 倍増加し、その後減少し、240 分までにベースライン速度に近くなっています。
食後 6 時間の間で、合計75.7 gのブドウ糖が血中に入りました。 食事からの血中ブドウ糖出現率は、総ブドウ糖出現率と同様のパターンでした。食後 6 時間の間に、食事から合計54.8g のブドウ糖が血中に入りました。食事からのブドウ糖は全体の72.4%になります。
内因性ブドウ糖は、8.8μmol/kg/minのベースライン速度から180分で2.3の最下点まで減少し、その後ベースライン速度に戻っていきました。 食後 6 時間の間、内因性ブドウ糖の放出は20.9g でした。 これは、血中に入る全ブドウ糖の27.6%で、内因性ブドウ糖放出のベースライン速度が一定のままであった場合に血中に入るブドウ糖の量と比較して58.3%抑制されたことになります。
糖新生による血中へのブドウ糖放出は、180 分で最低値まで減少し、270 分までにベースライン値近くに戻りました。 食後 6 時間の間、糖新生による血中ブドウ糖は合計10.7g で、内因性ブドウ糖放出の51.1% を占めました。食事をして糖質を摂っても糖新生はゼロにはなるほど抑制はされず、意外と持続していることがわかります。
上の図のAは血中のブドウ糖トリチウム水(詳細は省略)で、Bは全身のブドウ糖酸化です。全身のブドウ糖酸化は180分で最大まで増加し、その後ベースラインまで減少しました。 食後6時間の間で、43.1gのブドウ糖が酸化されました。
上の図はAが血中ブドウ糖の処理(除去)、Bは解糖、Cは貯蔵です。
食事摂取後、血中のブドウ糖の処理量は120分で最大に増加し、270 分でベースライン近くの値に戻りました。 食後 6 時間の間に、75.4gのブドウ糖が血中から除去されました。 これらのうち、54.8g は食事からのブドウ糖で、し、20.8gは内因性ブドウ糖放出からのものでした。
血中のトリチウム水の増加から計算された血中ブドウ糖からの解糖は食後6時間の間に、合計50.2gの血中のブドウ糖が解糖を受け、血中ブドウ糖処理の66.5 % を占めました。
直接貯蔵を受ける血中ブドウ糖は、血中ブドウ糖処理と解糖との差として計算されます。貯蔵は90分から270分の間に最大値まで増加し、その後270分後にベースラインまで減少したました。 食後 6 時間の間に、24.4gの血中ブドウ糖が直接貯蔵されました。 これは、血中ブドウ糖処理の32.4%を占め、解糖によって占められる割合の約半分です。
摂取した食事には、平均77.8gのブドウ糖が含まれていましたが、そのうち血中に入ったのは54.8gだけでした。 食事中のブドウ糖はすべて、食後 6 時間の終わりまでに胃腸管から吸収または代謝されているはずであるため 、食事中の22.9gのブドウ糖が血中に入り込まなかったという計算になります。 内臓組織によって処理されたと考えられます。 したがって、血中ブドウ糖処理75.4gと内臓ブドウ糖処理22.9gの合計で、全身ブドウ糖処理は、98.3gということになります。
内臓解糖16.0gと血中解糖50.2 gの合計として計算された全身解糖は、食後 6 時間で合計66.2g でした。 全身の直接的なブドウ糖貯蔵量は、全身の処理と全身の解糖の差として計算され、食後 6 時間で合計32.1gでした。
全身の非酸化的解糖は、全身の解糖と全身のブドウ糖酸化の差として計算され、食後 6 時間で合計23.1gでした。 これは、糖新生による血中ブドウ糖またはグリコーゲンへの変換に利用可能な解糖由来の最大量と考えられます。 10.7g のブドウ糖が糖新生を介して血中に入ったため、12.4gが全身の間接的なブドウ糖貯蔵のために残されることになります。 この量を最初に直接貯蔵されるブドウ糖に加えると、全身のブドウ糖貯蔵量は44.5g になります。
下の図は全てのまとめです。
平均約78gのブドウ糖を含む食事の摂取後の 6 時間の間に、合計約98gが処理されました。 総ブドウ糖処理量が摂取ブドウ糖量よりも多かった理由は、内因性ブドウ糖放出が約60%しか抑制されていないことだと考えられます。 摂取されたブドウ糖と処理された内因性ブドウ糖の合計は98gであり、内臓ブドウ糖と血中ブドウ糖の処理の合計98gに等しくなります。
食事摂取後の糖質(ブドウ糖)の主要な運命は解糖であり、全体のブドウ糖処理の約66%を占めました。そのうち酸化は約44%です。グリコーゲン形成は全体のブドウ糖処理の約45%で、その大部分(約73%)は直接経路によるものです。
結構興味深い結果でした。内因性ブドウ糖放出、つまり糖新生やグリコーゲン分解は食事をしても、60%程度しか抑制されません。つまり、グリコーゲンを分解しながら、グリコーゲンを貯蔵しているのです。一度ブドウ糖を解糖系に回してから、再度糖新生をしてブドウ糖にしているのです。なんで人間の体はこんなことしているでしょうか?
ただし、いつも言っていますが、これは糖質過剰摂取によるものです。進化の過程で、糖質が78gも含まれる食事をすることは皆無でしょう。そうだとすると、糖質制限では別の処理が行われている可能性は十分にあります。恐らく解糖系および酸化に回す糖質は格段に少なく、ほとんどが貯蔵系に回るのではないかと思います。糖質過剰摂取だと、逆に貯蔵できる量は制限があるために、貯蔵に回す量は少なくなり、仕方がなく解糖系に回してしまうことになっているのではないでしょうか?解糖系を大量に回すこと自体が健康に有害だと思います。糖質はメインエネルギーではないのです。
「Pathways for glucose disposal after meal ingestion in humans」
「ヒトにおける食事摂取後のブドウ糖の処理経路」(原文はここ)
普段、糖質制限一日一食。
たまに
36時間絶食(無糖水分と塩分は摂取)
後、
1時間ヨーガ行い、
血糖値を測定すると、
100〜105位。
これは「健康的な」糖新生
ですかね。
鈴木武彦さん、コメントありがとうございます。
糖質制限をしていると糖新生はずっと起きています。
しかし、今回の研究で、糖質過剰摂取時にも糖新生がずっと起きていることがわかりました。
進化の過程では糖質過剰摂取は皆無なので、糖新生がオフになるモードがそもそもないのかもしれません。