重篤な敗血症患者におけるケトン食

敗血症は何らかの細菌やウイルスに感染し、全身に感染が広がり、臓器障害をきたす重篤な状態で、命の危険さえあります。では、重篤な敗血症でケトン食は有効でしょうか?

今回の研究では、40人の重篤な敗血症患者を、ケトン食または標準的な高炭水化物食(対照群)のいずれかにランダムに割り当てました。。主な感染源は肺炎で70%でした。敗⾎症の診断からランダム化までの時間の中央値は14時間で、両グループでほぼ同じでした。ケトン食グループで中央値13⽇間、対照群で11⽇間試験食を摂取しました。両⽅のグループともに脱落者はいませんでした。

ケトン食群の患者には、100mlあたり0.61gの炭⽔化物を含むケトン⾷製剤が投与され、対照群には、100mlあたり17.0gの炭⽔化物を含む標準経腸栄養液が投与されました。両群とも、⾎糖コントロールで、⾎糖値が180mg/dlを超えるとインスリンを開始し、その後140〜180mg/dlを⽬標としました。30⽇間の追跡調査を行いました。(図は原文より)

上の図は臨床結果です。(A)エネルギー消費量(安静時エネルギー消費量(REE))に対するカロリー摂取量の割合、(B)血中のケトン体(βヒドロキシ酪酸)の推移、(C)最大血糖値、(D)インスリン治療を受けた患者の割合、(E)乳酸濃度、(F)IL-6濃度、(G)30日生存率です。ケトン食群が青色、対照群が赤色です。

カロリー摂取量は両群とも同じですが、当然ですがケトン体はケトン食群で大きく上昇し、それを維持し続けています。最大血糖値もケトン食群ではそれほど高くないですが、対照群では200mg/dL近いです。

インスリン治療が必要になった割合は、対照群では5日目以降で大きく増加し、50%前後になっているのに対し、ケトン食群では4日目以降ゼロになっています。低⾎糖イベントは、対照群の2⼈の患者で発⽣しましたが、ケトン食群の患者では発⽣しませんでした。

IL-6はケトン食の方がより低下しました。

30日生存率は有意差はありませんでしたが、対照群では40%が死亡し、ケトン食群では20%が死亡と半分でした。

上の図は様々な結果です。様々なスコアについての説明は省略しますが、有意差はなくても、やはりケトン食群での改善度が高くなっています。

また、⼈⼯呼吸器不要⽇数、⾎管収縮薬不要⽇数、透析不要⽇数、集中治療室(ICU)不要⽇数のどれも、ケトン食群の方が有意に多くなっています。つまり、ケトン食群の方が明らかに患者に有益であると思われます。

重篤な患者に対しても、カロリーという考えが重視され、その必要量を満たすために糖質が大量に投与されます。

糖質の摂取量が増えると炎症や組織損傷を引き起こし、免疫恒常性が損なわれる可能性が高くなるでしょう。さらに、重篤な患者では、炎症などにより⾎糖調節障害やインスリン抵抗性が⼤きな問題となっています。インスリンが効かないのに、血糖値が高くなるとどんどんインスリン量が増加することもあります。それなのに、糖質が投与されます。敗⾎症患者に炭⽔化物ベースの栄養を与えることは逆効果になる可能性があるのです。ケトン体は、抗炎症作用があり、免疫を強化し、血中の代謝物の有益な変化を伴うと考えられています。そして、ケトン体は重要なエネルギー源でもあります。

今回の研究では死亡率には有意差が出ませんでしたが、死亡数はケトン食で半減しています。⼈⼯呼吸器不要⽇数、⾎管収縮薬不要⽇数、透析不要⽇数、集中治療室(ICU)不要⽇数を見ても、ケトン食の方が圧倒的に有益です。

集中治療では糖質制限やケトン食を標準にすべきだと思います。しかし、そんな日がやってくることはないかな?

 

「An open-label, randomized controlled trial to assess a ketogenic diet in critically ill patients with sepsis」

「重篤な敗血症患者におけるケトン食を評価するためのオープンラベルランダム化比較試験」(原文はここ

4 thoughts on “重篤な敗血症患者におけるケトン食

  1. 清水様
    いつも興味深く読ませて頂いております。初めてコメントさせていただきます。糖質制限を6年続けている54歳女性です。
    こちらのブログを見るようになりまして、3ヶ月ほど前から脂質の摂取量を大幅に増やしました。が、どうも汗をかきすぎるので、現在は脂質を多少増やした程度にまで落としました。
    脂質を増やした時に顕著に現れたのが、肌がしっとりすべすべになったことです。それと傷の治りが早くなったような気がしています。アトピー性皮膚炎のような症状があるのですが明らかに改善し、治りも非常に早くなったと感じています。敗血症の方の身体の中でも、同じ事が起こっているのでしょうか。

    1. おがさわらさん、コメントありがとうございます。

      脂質は人体全体に非常に重要です。もちろん皮膚にも重要です。
      食事が摂れず、点滴だけで栄養を摂っていると皮膚はカサカサになります。
      細胞膜は脂質でできていますし、角質層の細胞間隙には、セラミドなどの脂質が存在したり、
      脂質により至適なpHなども保たれ、脂質は皮膚バリアとしてもっとも重要な役割を果たしています。
      低脂肪食のカロリー制限など続けたら、体には有害でしょう。

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