LDLコレステロール値は心血管疾患と関連性が乏しいと考えらています。重要なのはLDLコレステロールの値ではなく、大きさが問題であると考えられています。糖質制限をすると確かにLDLは大きなふわふわした粒子になり、糖質過剰摂取ではLDLは小さな高密度の粒子になります。この小さな高密度のLDLをsdLDL(small dense LDL)と言います。sdLDLは酸化しやすく酸化LDLになり、それが血管内皮細胞の下でアテローム性動脈硬化になると考えられています。
糖質制限をすると、LDLコレステロールが高くなる場合がありますが、その理由の一つにはsdLDLが減少し、大きなLDLが増えるため、見かけ上LDLコレステロールが多くなったように過大評価されることが考えられます。(「糖質制限とLDLコレステロール上昇」参照)
しかし、本当にsdLDLは血管内皮を通り抜けるのでしょうか?心血管疾患のリスクが高くなる場合、つまり炎症や酸化ストレスが多くなると、血管内皮が障害されて、LDLが通りやすくなるという説明がされることもありますが、本当でしょうか?糖質制限でsdLDLは減少したとしても、恐らくゼロではありません。sdLDLの数が多ければ、リスクが高くなるというのは単純に考えれば極当たり前です。しかし、本当に大きさと数の問題なのでしょうか?
これらのメカニズムは仮説です。例えば、この文献には下の図が載っています。
LDLが血管内皮細胞の隙間から侵入している様子が描かれています。説明には「高コレステロール血症の患者では、過剰なLDLは動脈に浸潤し、特に血行動態の歪のある部位で内膜に保持される。 酸化的および酵素的修飾は、内皮細胞が白血球接着分子を発現するように誘導する炎症性脂質の放出をもたらす。 修飾されたLDL粒子は、泡沫細胞に進化するマクロファージのスカベンジャー受容体によって取り込まれる。」と書いてあります。どちらかというとLDLの絶対数が多くなると血管内皮を通って動脈に入り込むことが先にあって、その後炎症を誘導するような感じで書かれています。もちろん、血管内皮がLDLを通しやすくするには炎症が先かもしれません。いずれにしてもLDLは血管内腔から血管の壁、血管内皮を通って、内膜にとどまり、それがアテローム性動脈硬化に変化するということになります。
また、正常な冠動脈というのは下の図のような構造だと思っていました。(図はこのサイトより改変)つまり、1層の内皮細胞があり、その下に何らかの空間?構造?があり、そして内弾性板があり、それを全体として内膜と呼ぶということです。内膜は明らかに中膜より薄い膜です。
本当の組織像でもそのような構造となっている写真がありました。(写真はFrederick Memorial Hospitalのサイトより)
私もこのように今までは思ってきました。
しかし、この後挙げる、論文の組織の写真を見ると、考えを変えなければならないのではないかと思うようになりました。
その写真が次の図です。(原文はここ)
冠動脈の組織です。(a)8.5ヶ月、(b)15歳、(c)32歳です。赤い線が内膜の範囲を示しています。年輪のように年をとるごとに1層ずつ厚くなっているような感じです。そして大人の内膜は中膜よりも厚く見えます。
これも冠動脈の組織です。(原文はここ)(a)右冠動脈、生まれて7日の女性。(b)左冠動脈、5歳の女性。(c)左冠動脈、15歳の女性。(d)左冠動脈、29歳の女性。Iは内膜、Mは中膜を示しています。先ほどと同じように年をとるごとに内膜は厚くなり、29歳では明らかに中膜より厚くなっています。
これも成人の冠動脈ですが、明らかに内膜が中膜より厚いのがわかります。(原文はここ)
(Iは内膜、Mは中膜、Aは外膜です。)そして、写真で注目すべきは(c)と(d)です。(c)は平滑筋を染色しています。茶色いのが平滑筋細胞を示しています。つまり、内膜は内皮細胞1層ではなく、多くの平滑筋細胞が何十層にも重なった状態なのです。内膜の3分の2は平滑筋細胞です。
(d)はマクロファージを染色していますが、黒の矢印の頭がマクロファージです。ほとんど内膜にはマクロファージは存在しません。外膜にいくつか認めるだけです。
これは40歳までの20人の男性の冠動脈の組織と、その計測値です。(原文はここ)
心疾患で亡くなったわけではなく、自殺や殺人などで亡くなった方たちの心臓の冠動脈でのデータであり、明らかな冠動脈疾患などは除外されています。つまり正常な冠動脈と考えられます。
すると、大きな冠動脈3本のうちRCA(右冠動脈)では内膜(Intima)が中膜(Media)より平均の厚みが大きいことがわかります。左冠動脈2本(LAD、LCX)では中膜の方が厚くなっています。
これらの内膜が厚くなることは、びまん性内膜肥厚と言われている状態です。しかし、正常と思われる成人だけでなく比較的幼いころから、どんどんと内膜組織が積み重なっているように思えます。つまり、びまん性内膜肥厚は異常な状態ではなく、年齢が進むにつれての正常な変化なのかもしれません。
次の写真はアテローム性動脈硬化症の発生早期の様子を見た組織です。(原文はここ)
I:内膜 M:中膜 矢印の頭:内弾性板
左が組織像で、真ん中が脂肪を染色したもので茶色く見えるのが脂肪です。右がマクロファージを染色したもので、黒く見えるのがマクロファージです。
(a、b)では脂肪沈着の無いびまん性内膜肥厚ですが、(e)では深部に薄く茶色く見える脂肪が沈着し始め,その量は次第に増えた様子が(h、k)に表れています。(c)を見るとマクロファージはびまん性内膜肥厚においても表層にわずかに存在しています。そして、(i、l)でわかるように脂肪の沈着量が増加するにつれてマクロファージの数が増加し、深部へと浸潤していきます。(a、d、g、j)に示すように、この間、通常の組織像では内膜の変化は殆ど認められません。(n)では、さらに脂肪沈着量が増加し、(m)では内膜の肥厚は軽度増加,(o)のようにマクロファージの数や深部への浸潤も増加し、一部のマクロファージは脂肪を取り込んでいるように見えます。(p、q、r)になると、脂肪を大量に含んだ泡沫化したマクロファージが多く認められるようになります。深部には細胞外の脂肪があり、その上には泡沫化したマクロファージ、さらに表層には泡沫化していないマクロファージの層という内膜肥厚の状態が起こっているのです。
つまり、脂肪とマクロファージは最初は別々の場所にあって、それぞれが進展してきて、脂肪とマクロファージがぶつかり合った場所で泡沫化が起こっているように思えます。LDLがもし、血管の内腔から血管壁に侵入してきたとすると、何十層にもなる内膜の深部に最初に蓄積してくるはずがありません。だから、内皮細胞が傷害されて、内膜にLDLが入りやすくなり、それがマクロファージに取り込まれてという仮説はどうやら「ウソ」である可能性が高くなります。
そうすると別の考え方が必要になります。
その内容な次の記事で書きます。
現在61歳の男性。BMIは23程度 2年前から低糖質食を行っております。2年前の4月の健診でT-Choが240、HDL80、LDL150、TG90でした。1年前も同様な値で推移しております。健診結果は、要治療でしたが治療をしておりません。現在は、お昼は、ナッツ類を45gほど摂取。夜も米は、食べておりません。朝は、ヨーグルト250gとバナナ1本。血管年齢を測る検査を受けていますが、健常者域で推移しております。昨年の11月の健診では、血管年齢を測る検査と首の頚動脈のプラークを測る検査も行いましたが、まあ健常レベルでした。しかしT-Choが300越えLDLが220越え、しかしTGは55と医者からみると、おかしな状況になっています。要治療ですが放置しています。以前に悩まされた脛の乾皮症にも今年は、悩まされておりません。
私が、考えるにコレステロールは水に不溶のものですが、リポ蛋白としてリン脂質等とコンプレックスを作り体内を循環しているので、単なる分析化学的な比重差で分類しているコレステロール分画では、生体内のコレステロールの動態を正確に示していないような気がします。以前はT-Cho、F-Choの健診項目がありましたが、今ではそれを測ることは、まずありません。コレステロールの体内動態として脂肪酸とのエステル結合で体内を動いていると考えると、この脂肪酸の種類が動脈硬化と関係しているように考えます。コレステロール自体を酸化することは、体内ではまず不可能です。但しエステル結合している脂肪酸の部分は、酸化を受けることは明らかですので、ナッツ類を摂取して良好な脂肪酸を摂っていればいくらLDLが高くても問題ないのではと考えております。
保点で24分画の脂肪酸測定が認められましたので今度は、脂肪酸分画を経時的に測ってみようと思います。私の考えとしては、リポ蛋白のTG及びT-Choの脂肪酸グリセロールエステル、脂肪酸コレステロールエステルの脂肪酸部分の酸化が動脈硬化の原因となっている。先生の主張されている「ふわふわ」したLDLは、実は脂肪酸の種類が違うコレステロールなのではと考えております。脂肪酸の種類で酸化されるスピードが違いまた生体内でのGSHで再還元、VEでの再還元の効率が脂肪酸にによって違っているので、単にLDLが高くても問題ないと考えております。要治療ですが、このまま人体実験を続けてみたいと考えています。
〇福さん、コメントありがとうございます。
>T-Choが300越えLDLが220越え、しかしTGは55と医者からみると、おかしな状況になっています。
糖質制限を知らない医者には「おかしな状況」かもしれませんね。
面白いお考えです。参考にさせていただきます。
コレステロールは全く酸化しないわけではないと思いますが、メインは構成脂質中の不飽和脂肪酸だと思います。
その後連鎖的にアポリポタンパク質Bも酸化されて断裂し、LDLは球形の構造を失い、正常なLDLとは違う酸化LDLになります。
ですからLDLが高いことだけでは何も言えないと思います。
ただ、ナッツ45gを例えばすべてクルミで考えると、飽和脂肪酸:3.1g、オメガ3:4.0g、オメガ6:18.6g
サラダ油50gで飽和脂肪酸:5.5g、オメガ3:3.4g、オメガ6:17g なので、クルミの方がサラダ油50gよりもオメガ6が多くなってしまいます。
ちょっとだけオメガ3gはクルミの方が多いですが、ナッツ類が良好な脂肪酸とまでは言えないかもしれません。
私はナッツの良い点はその他に含まれる栄養素だと考えています。
(もちろん、トランス脂肪酸など有害な物質を多く含むサラダ油は摂取しない方が良いですが)