最近の記事「LDLコレステロールは本当に動脈の血管内腔から血管内皮を通って、アテローム性動脈硬化を起こすのか? その5」「HDLコレステロールは高ければ良いってもんじゃない? その4」などでApoCⅢが登場していますが、ApoCⅢが多いことは心血管疾患のリスクが高くなることは間違いありません。
APOC3はアポリポタンパクC3(ApoCⅢ)をコードする遺伝子であり、ApoCⅢは中性脂肪を豊富に含んだリポタンパク、とくに動脈硬化を起こしやすいと考えられているレムナントリポタンパク質のタンパク成分の1つです。カイロミクロン、VLDLなどのTGリッチ(中性脂肪が豊富な)リポタンパクの中性脂肪(TG)が、通常はリポタンパクリパーゼ(LPL)の働きで分解されて、遊離脂肪酸を放出してレムナントリポタンパク質となるのですが、ApoCⅢはLPLによる作用を阻害することにより中性脂肪値を上昇させてしまいます。さらに、ApoCⅢはTGリッチレムナントリポタンパクが肝臓で取り込まれるのも低下させてしまいます。ApoCⅢが多くなることにより、高中性脂肪血症、高レムナントリポタンパク血症を引き起こすことになります。
中性脂肪値が低いと心血管疾患のリスクが低くなります。ある研究データでは、心血管疾患のリスクは、ベースラインの非空腹時の中性脂肪値が低下するに従って段階的に減少し、90mg/dL未満では350mg/dL以上の場合に比べ、虚血性血管疾患で57%低下、虚血性心疾患で60%低下と、発症率が有意に低くなっていました。
レムナントリポタンパクが多いということは、レムナントコレステロールも増加しています。以前の記事「レムナントコレステロールは心臓に悪い! だったら、糖質制限でしょ!」でも、レムナントコレステロールのリスクについて書きました。
APOC3という遺伝子の機能が変異して欠失していると、ApoCⅢはできず、結果として心血管疾患のリスクが低下します。レムナントコレステロール値も低下し、LDLコレステロール値も低下します。APOC3の機能が失われた場合レムナントコレステロールの低下とLDLコレステロールのどちらが心血管疾患のリスク低下に関連するかがわかると、ApoCⅢの増加が、レムナントコレステロールの増加とLDLコレステロールの増加のどちらに影響して心血管疾患のリスクが増加するのかが推測できます。
APOC3機能欠失変異した遺伝子を持っている人は、そのような遺伝子を持っていない人と比較して、レムナントコレステロールを43%低下させましたが、LDLコレステロールは4%の低下にとどまりました。心血管疾患のリスクは、虚血性血管疾患は41%低下し、虚血性心疾患は36%低下しました。そして、そのリスクの低下のうちレムナントコレステロールの低下の関与は、虚血性血管疾患では37%で虚血性心疾患では54%だったのですが、LDLコレステロールの低下の関与はたった1~2%でした。つまり、LDLコレステロールは関係なく、関係しているのはレムナントコレステロールであると考えられます。(図は原文より)
スタチンを使っていくらLDLコレステロール値が低下しても、ApoCⅢがしっかりと低下しなければあまり効果は期待できないことになります。
LDLコレステロール値が心血管疾患のリスクに関連しないことは様々な記事で書いていますが、レムナントコレステロール値は大きく関与していると考えられます。そのレムナントコレステロールはApoCⅢが多いと増加しますので、ApoCⅢを低下させるような食事に気をつけることが必要であると考えます。ApoCⅢを増加させる食事について、もちろん糖質制限のですが、詳しくは次の記事で書きたいと思います。
「APOC3 Loss-of-Function Mutations, Remnant Cholesterol, Low-Density Lipoprotein Cholesterol, and Cardiovascular Risk」
「APOC3機能欠失変異、レムナントコレステロール、LDLコレステロールと心血管リスク」(原文はここ)