LDLコレステロールは本当に動脈の血管内腔から血管内皮を通って、アテローム性動脈硬化を起こすのか? その5

前回の記事「その4」では、糖質過剰摂取によりミトコンドリアの機能障害が起こり、それによって内膜が肥厚するのではないかという仮説を書きました。

では、なぜ脂質が内膜に蓄積するのでしょうか?それを説明するのに、大きな海に出た感じで、ほとんど溺れています。アテローム性動脈硬化症の原因を突き止めようと出た海は非常に広く、そして深く、さっぱりどこを泳いだらいいのか、どちらの方向へ泳いだらいいのかわかりません。しかし、興味は途切れていないので、何とか考えていくつもりです。

さて、基本的な考えはresponse-to-retention hypothesis(貯留反応仮説)です。ここでカギとなるのがプロテオグリカンというものです。糖とタンパク質の複合体で、体の組織中の細胞外マトリックスや細胞表面などに存在しています。血管の内膜にも存在しており、細胞外マトリックスの主要構成成分の一つです。

脂質が沈着する前の状態であるびまん性内膜肥厚の深い部分にはビグリカンやデコリンというプロテオグリカンが存在しています。これらの細胞外マトリックスのプロテオグリカンが初期の脂質の沈着に関連している可能性が強く示唆されています。

アテローム発生性のリポタンパク質が細胞外のプロテオグリカンに結合することによって内膜内に保持されると述べているということが、1995年に貯留反応仮説として提案されました。さらに、リポタンパク質とプロテオグリカン複合体が、酸化に対する感受性の増加を示し、泡沫細胞を形成するマクロファージによる取り込みをもたらすと述べています。

全ての人ではないですが、ビグリカンの分布を脂質沈着のない領域で調べたところ、ビグリカンが肥厚した内膜の外層に主に同心円状かつ細胞外に局在していました。つまり、内膜には脂質が蓄積される前からビグリカンは存在するのです。しかし、その局在は非常に血管の内腔から見れば深い場所です。そこに血管の内腔から入ってきたリポタンパク質が最初に蓄積してくるとは非常に考えにくいことです。そして「その3」でも書いたように、血管の内膜には血管がありません。そして、肥厚してきた内膜の深い部分は酸素不足になってくるので、外膜から血管が伸びてきます。

そうすると、外膜から伸びてきた新生血管を通るリポタンパク質はビグリカンに簡単に接触できるわけです。

恐らくデコリンは正義の味方であり、アテローム性動脈硬化症を減少させる方に働いてるようです。デコリンについては改めて書くとして、今回はビグリカンについてです。ビグリカンとLDLの結合がどうやら問題になっていると思われます。

高血圧や血管の分岐などの機械的歪みは血管壁のプロテオグリカン組成に直接影響を与えて、デコリンの合成の減少をもたらし、一方でビグリカンは血管平滑筋細胞により大量に合成されることが示されています。機械的歪みは、培養平滑筋細胞において、ビグリカンのmRNAの発現をアップレギュレートするそうです。それによりビグリカンの質および量における局所的な差が内膜内に存在し、おそらく脂質沈着量の部位による差ができるのではと考えられます。

そして、アポリポタンパク質のapoCⅢが重要なカギを握っているようです。2型糖尿病の高apoCⅢを有するLDLは、低apoCⅢを有するLDLよりもビグリカンへのより高い結合を示すそうです。さらに、apoCⅢ含量が高いほど、インビトロでの細胞外動脈プロテオグリカンのバイグリカンに結合するリポタンパク質の能力がより大きくなり、LDL粒子サイズはapoCⅢ含有量と逆相関します。つまり、より小さい、より密度の高いLDL粒子は、1粒子あたりより多くの量のapoCⅢを持っていることになります。

 

LDLはビグリカン結合に対する粒子サイズの効果が認められるのです。より小さい高密度のLDLは、大きいフワフワのLDLよりも結合能が高くなります。

高いapoCⅢレベルを有するということは、高中性脂肪を有するだけでなく、より小さい、高密度のLDLとapoCⅢに富むリポタンパク質をより多くを有するのです。

そうすると、LDLが小さい高密度のsdLDLは非常にビグリカンにくっ付きやすいので、アテローム性動脈硬化症をおこしやすいというのは納得できます。

もう一度おさらいしてみましょう。

1.動脈の内膜は血管がなく、血管の内腔から本来は血液成分や栄養を受け取る。

2.糖質過剰状態が酸化ストレスを生み、内膜の細胞がミトコンドリア機能障害になり、それによるMfn-2の減少は血管平滑筋細胞の増殖を招く。

3.さらに高インスリン血症そのものやそれによって促進されるTGF-β1、その他の成長因子により、さらに血管平滑筋細胞の増殖能力が強化され、内膜がどんどん肥厚する。

4.内膜が厚くなることにより内膜の深層では低酸素状態になる。

5.肥厚した内膜の深層部分に外膜から新生血管が伸びてくる。

6.伸びた血管を通る血液の中のリポタンパク質は、内膜の深層部分に存在するプロテオグリカンのビグリカンに接触できるようになり、結合する。

7.一方で、内膜の増殖した血管平滑筋細胞は機械的な歪みなど何らかのストレスでビグリカンを増加させる。

8.もともとの糖質過剰摂取の生活であれば、中性脂肪が高く、LDLは小さく密度が高いものが多くなり、さらにapoCⅢを有するLDLが増加する。

9.そのLDLはビグリカンに結合しやすくなり、脂質が蓄積することになる。

 

といった流れになると考えられます。かなり、矛盾が少なくなりました。LDLの質が一番問題になるのではと考えられます。

しかし、LDLは小さなsdLDLではなくても、ビグリカンと結合しますし、LDLの数は問題になるのかならないのかがはっきりていません。そこを突き止めるためにまた広い海を泳いできます。

ただ、apoCⅢはかなり問題がありそうなアポリポタンパク質ですね。その辺も今度記事にします。

 

 

 

 

 

 

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です