日本のタンパク質摂取の推奨量は約0.8g/kg 体重/日です。50kgであれば40g、60kgであれば48g程度のタンパク質を毎日摂取することが望ましいとされています。厚労省の発表による「栄養素等摂取状況調査の結果」によれば、75歳以上の高齢者であってもこの数字は楽々クリアしています。
しかし、本当でしょうか?私が外来で高齢者の方に何を食べているかを聞くと、多くの方がタンパク質不足です。ご飯とおかずの野菜+お魚少し、肉はほとんど食べない。筋肉が非常に少なく見える方も多いのです。ですからこの厚労省の結果には非常に違和感を感じます。サンプルの摂り方、食事の評価の仕方がもしかしたら問題があるのかもしれません。
中年以降では筋肉が落ちないように運動をして、タンパク質をしっかり摂る必要があります。筋肉を増やすにはいったいどれほどのタンパク質が必要なのでしょうか?
様々な研究から導かれたタンパク質の必要な量は約1.6g/kg/日です。実に厚労省の推奨量の2倍です。そして、それ以上タンパク質を摂っても効果は期待できないようです。(図は原文より)
上の図は横軸が1日のタンパク質摂取量であり、縦軸は除脂肪体重の変化量(つまり筋肉量の変化量)です。約1.6g/kg/日で効果が頭打ちになっているのがわかります。
タンパク質の種類や摂取のタイミングによる違いは認められませんでした。
上の図は高齢者と若者で、タンパク質の摂取量と除脂肪体重の変化量の関係を見ています。高齢者はいずれにしてもタンパク質摂取による反応が若者よりも悪いようです。逆に若者は少ないタンパク質量で非常に多くの筋肉が作られるようですが、タンパク質摂取量を増やすほど、筋肉の増加量は減ってしまうように見えます。年齢により何らかの代謝が変化していると思われます。高齢者では筋肉を作りすぎるデメリットを回避するためなのか、それともただ単に反応が悪くなっているだけなのか、それとも筋肉以外のものにタンパク質を使う必要があるのかわかりません。
若者はどんどん筋肉にする仕組みがあるのでしょうか、効率が良いのでしょうか、理由はわかりません。そして、タンパク質の極端な摂りすぎはもしかしたらデメリットになる可能性もあります。
タンパク質1.6g/kg/日というのは50kgで80g、60kgで96gです。これを豚のもも肉で摂ろうと思うと400~450g前後必要です。これほどの量を高齢者が食べているとは思えません。また、年齢とともに食が細くなることもあるので、食べる優先順位を考えなければなりません。
人間の一番重要な栄養素であるタンパク質と脂質を第一に考え、肉や魚や卵などをまず食べましょう。ご飯とおかず、という組み合わせはご飯を食べる分、タンパク質量が減ってしまいます。つまり、年齢とともに食事量が減るなら、糖質摂取はほとんどあきらめなければなりません。白米の有害性を考えるなら、摂る必要は全くありません。この優先順位を間違えると筋肉がやせ細ってしまうのです。筋肉の原料はタンパク質であることを忘れてはなりません。
「A systematic review, meta-analysis and meta-regression of the effect of protein supplementation on resistance training-induced gains in muscle mass and strength in healthy adults」
「健康な成人の筋肉量および筋力の抵抗性訓練誘発性増加に対するタンパク質補充の効果の系統的レビュー、メタアナリシスおよびメタ回帰分析」(原文はここ)